花園
「姫様お久しぶりですね。戻って参りました。アルフレッドです。一緒に出た者は皆、勇敢に散って逝きました。ですがその甲斐あって全ての敵を殲滅できました。」
綺麗な姫様と違いあまりにも汚れた自分が無礼だと思ったが、姫様は浮浪児の私にも優しかった事を思い出し、そんな事を気にされる方ではないと安堵した。
「姫様、私が都を離れた1年間はどう過ごされたのでしょうか?穏やかに幸せに過ごされていたのであれば幸いなのですが。その穏やかな表情を見ると私の心配は杞憂だったのかもしれませんね。」
姫様は穏やかな表情をされている。この花畑は姫様のお気に入りで人目を忍んでお逢いするのはいつもここだった。紫のアネモネが咲き乱れている。
「姫様が昔言っていた、紫のアネモネの花言葉。」
良かった敵に押されていて都も荒れている場所が多いなかここは変わりなく時間が止まっているかのように存在している。
「姫様、私の弟のクリスを覚えておられますか?彼は旅の道中もずっと皆を笑かそうとずっと道化を演じておりました。あいつは自分のバディを庇って逝きました。最期まで笑って、気にするなと、笑っていました。」
戦争孤児のクリスとは血の繋がった弟ではないが幼い頃からずっと一緒に訓練した仲で、口に出さずとも分かり合える、背中を預けられるといつからか家族と名乗るようになった。クリスを思い出すとどうしても涙が溢れてしまう。王直属の騎士ともあろう私がと思うが、もう城内に人はいないしいいだろう。
「姫様、あの約束を覚えていますか?この戦争に勝ったら、きっと貴方を迎えに行きます、そして都を離れて小さな田舎の教会で2人で式をあげようと。私はそれだけを希望に戦い続けました。貴方はどうだったんですか?少しでも私が貴方の支えになれたならどれ程嬉しいか。」
姫様の手を握る。私よりも小さく柔らかく、あの時と違う冷たい手。
「姫様、いいえ、アリア愛しているよ。」
そっと触れるだけのキスをする。初めてのキスは冷たく、私が王子でないからか奇跡は起きなかった。
「姫様!危ない!」
宰相の配下の者達は敵の侵入を城内迄許したのか!姫様は私の目の前で短刀によって命を奪われた。
「アル、貴方は帰ってくると信じてずっと待っていたの。良かった最期に一目逢う事が叶った。神様ありがとうございます。」
敵を殺し姫様を胸に抱く。
「姫様!姫様!私にはもう貴方しかいません!置いて行かないでください!」
姫様は穏やかに微笑む。最期というのに優しいお顔で。
「アル、あいしてる。」
「姫様……。姫様…。」
それからもう何日もこうしている。姫様を胸に抱いて奇跡を待っている。姫様に話しかけては奇跡が起きない事に絶望している。
「姫様、私もそちらへ参ります。貴方の命を奪った同じ短刀で貴方のもとへすぐに。」
騎士は短刀を自分の首にあてがった。
「先生次のお話はめちゃくちゃ悲しいですね。」
「編集の君がそこまで泣いてくれて良かったよ。」
「でも、いつもと違う作風ですね。先生はいつもハッピーエンドが多いし、恋愛要素も少ないでしょう。」
「ああ、思い出したんだよ。」
「思い出した?」
「ああ、思い出したんだ。折角、平和な時代に生まれたのだから今度こそは一緒になろうと。」
全てを思い出した、悲しく美しい思い出。君が思い出す事は望んでいない。それでも、君に読ませたのは未練がましい男だという事。
「えっ先生最後なんて言ったんですか?」
「何でもないよ。ねえ春香さん次の小説のネタの為に行きたい所があるんだけど、僕のような男だけではちょっと入りにくくて、一緒に行ってくれないかな?」
「勿論構いませんよ!先生の小説の為ならたとえ火の中水の中ですよ!」
「ありがとう、じゃあよろしく頼むよ。花の写真展なんだ。1種類の花だけを撮っている変わった写真展なんだよ。」
「へーなんの花ですか?」
「紫のアネモネだけを撮っている。」
「紫のアネモネ……。」
「ああ、そうだ。花言葉は。」
「あなたを信じて待つ。」
不思議そうな顔をしている。春香さんが花言葉を知っているなんて初耳だ。
「ああ、そうだ。」
「本当に、本当に思い出したんですか?」
「えっ?」
「私は生まれた時から貴方をずっと待ってた。」
初めてのキスは温かく幸せなものだった。