終焉
私はあの地獄の最中で貴方様と共に一緒に命を落としたと思っておりました。ですが勿論怖くはありませんでした。以前、貴方様は死んでも同じ道を行こうと約束してくださいましたね。今でもあの言葉をくださった時の貴方様のお顔、お声、香りを鮮明に全てを覚えております。
ですが私は気が付くとよく分からぬ場所におりました。奇っ怪な格好の者達が私の体に何やら管を付け顔に何かを被せ私が目を覚ますやいなや、
「せんせーい!」
と女子が大きな声ではしたなく叫ぶ。そうしてまた奇っ怪な格好の者達が続々と集まり何やらよく分からぬ言葉を話し続けるのです。
「貴方は火事の現場で発見されたんですよ!」
「他の人は皆、無事です。」
「大丈夫ですか?そもそも何故あんな場所に?」
「返事がないなぁ。」
各々が叫ぶその喧騒の中で私はただ自分の身を呪いました。ふと思ったのです、女の感というものでしょうか?貴方様はここにはいないとそう感じました。貴方様が戦に出た際もいつも貴方様を近くに感じておりました。あの最後の時でさえ。なのにこの奇っ怪な場所には貴方様を感じない。心からこの身を呪いました。そのまま呪いで命を落としてしまいたいと思いました。私だけが何らかの事情で生き延びてしまったこと。生に執着をしたのかと愕然としました。
「自分が誰だか分かりますか?」
1人の男が後ろから出てきて穏やかな声色で真っ直ぐに私を見ました。その一瞬微かに貴方様を感じました。この覇気の全くないうだつの上がらなそうな男に。
「大丈夫ですか?何か辛い事があってあんな場所へ?」
その男はおろおろとしながら私の前に手ぬぐいを差し出しました。私はその手ぬぐいを受け取りそっと涙をぬぐいました。
「何も分かりません。私は何も知りません。」
と伝えました。実際この状況を判断できなかったのです。貴方様がいない今、私は酷く心細く何も思いつかなかったのです。その後ずっと泣き続けその間その男がそばに控えておりました。
「何故何も分からないのに泣くんですか?」
何日も泣き続けた時、痺れを切らしたように男がポツリと言いました。呆れたような馬鹿にしたようなそんな口ぶりでした。私はその男に物を投げつけただ叫びました。そうして投げる物が近くになくなった時、男が笑い始めました。
「意外と元気ですね。」
なんだか一気に気が抜けてしまって私は泣く事をやめました。それからその男から色んなことを学びました。この場所や文字、法律、生きていく為に必要な全て。
今は着物の着付け教室の指導補助をしております。細々と暮らしてはおりますがあの時代よりも平和で一度も血を見た事がありません。子どもが道で行き倒れている事もありません。貴方様がえがいた未来です。
あの者が貴方様を裏切った事、その後の事、誰も恨んでいません。こうなった今、貴方様もきっと恨んではおられないはず。
ですがただ1つだけ心残りなのは貴方様と共に逝けなかった事。あれから書物を読み貴方様がやはりあの地獄で命を落とされたと知りました。
あぁ私もご一緒したかった。やっと貴方様と一緒に道を歩けるとそう思って、あの時からそれだけがそれだけが悔しくて悲しくて何故あの時お傍から離れてしまったのでしょうか。悔やんでなりません。
ですから最後にお願いをしてもよろしいですか?もし私が終焉を迎えるという時に迎えにとは言いません。ただこちらだと手招きをしてくださいませんか?きっと貴方様のお隣に迷わず逝けるように。それが私の最期のお願いです。それまではこちらで一所懸命に生きていきます。
またお逢いする日まで。




