許し
大学のカフェテリアで歩香は今日コンビニで買ってきたリュックが付いたファッション雑誌をめくっていた。1ページめくる事に眉間に皺を寄せたり目を輝かせたりする姿は子どものようだ。
「麻里!こっちこっち!」
私に気が付いて手をふってくれる姿は犬がしっぽをふるようで本当に可愛い。
「ごめん、ゼミの教授に手伝い頼まれちゃって。」
私は自分のリュックを歩香の椅子の前に置く。
「聞いた聞いた、廊下でたまたま会ったんでしょーお疲れ様!さあご飯食べよ!」
「ええ。」
午後1番の授業が始まっている時間なのであまり人はいない。私達はそれぞれ別の列に並んだ。歩香はうどん、私はパスタを注文した。
「うわぁー美味しそう!!ここの学食結構いいよね!」
天ぷらうどんを置いて割り箸を割っている。ただの学食のうどんにこんなにテンションをあげられるのも歩香の良いところだ。
「そうね、値段も手頃だし。学生にも優しい。」
「そっか麻里はバイト代で生活費賄ってるんだもんね。本当に偉いね。私なんて実家住みだからなーんにも苦労してないもん。」
「ふふふっ。」
「そんな麻里さんにはご褒美デース!!」
と自分のトレーにのっていたちょこんと上に苺がのったプリンを私のトレーに置く。いつもならデザートなんて頼まないのに珍しいと思っていたらそういう事だったのか。
「いいのに、悪いわ。」
「いいの。これぐらい、良いザマス。ほほお食べなさい麻里さん。」
歩香はたまにご褒美と称して私にこういう小さな贈り物をしてくれる。チョコをくれたり学食でゼリーを奢ってくれたり本当に歩香は優しい。
「ありがとう、じゃあありがたくいただきます。」
「どうぞ。」
とうどんを食べ終えた歩香は雑誌の続きを読み始めた。
「あ、そういえばさ舞華が合コンしよって言ってたけど麻里はどうする?」
思い出したように雑誌から急に顔を上げて私に言う。困ったな、なるべく参加したいけど最近忙しいし。
「うーん、学校終わりはバイトだからなぁ。」
「そうだよね。じゃあ断っとく。」
舞華と歩香はとても仲がいいのに行かなくて良いのだろうか?
「歩香は行ってきなよ。」
「ううん、だって麻里がいないと楽しくないもん。」
さも当然だとばかりに言う。
「そっか。」
「そういえば麻里はどんな人が好きなの?好きなタイプは?」
「そうだなぁ。許してくれる人。」
「許す?何を?浮気?」
「ふふふっそうじゃない。」
「だよね麻里はそんなタイプじゃない。じゃあ何を許してくれる人なの?」
「どうして3歳にもなって自分で着替えもできないの!あんた本当にあの人に似てきたわね忌々しい!」
バシンッ
「ごめんなさい、ママごめんなさい。」
「今日から私の家に住む事になったが、私にはもう新しい家族がいる。お前は基本的に部屋から出てこないで欲しい。衣食住は苦労させない。だが中学生になったら家を出てもらう。金は渡す、だが1人で生きろ。」
「はい、パパ。」
「麻里!麻里!大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫。」
「ごめんね。変な事聞いたね。ねえ!これ前に麻里が欲しいって言ってたカバンじゃない?」
「えっどれ?」
「ほら!これ!」
「どれ?」
「小さい記事なの。ほらこれ!」
と椅子を移動して私にピッタリとくっ付いてくれる。歩香、私の好きなタイプは許してくれる人。
「そうこれが好き。」
「でしょう!」
眩しい笑顔で歩香が写真を指さす。
「うん、好き。」
そばに居ることを許してくれる人。




