時が止まればいいのに
「僕の能力覚えてる?」
「ええ、時を止めるって現在進行形で使ってはるけど。」
草原から戻り1度屋敷に戻った時に彼は能力を使って私の使用人室へ現れた。
「うん、そう。僕の能力ね長い時間使っても周りに影響しないんだ、僕も疲れたりしない。僕が触れるとその触れたものだけ時が動く。でも君は僕の能力に干渉されないだけで物を動かしたりはできないはず。」
「うん、そうね。何が言いたいのかな?」
確かに私は扉を開く事はできなかった。
「一生このまま生きていこうねっていう話さ。」
「へっ?」
この空間?全ての時が止まる静かで孤独なこの?
「僕はこの時でも歳をとる君もきっとそうだろ。だから思いついた。君と僕だけの空間で生きていこう。僕がいないと君は生きてはいけないんだ。食べ物も飲み物も動かない僕が触れないと。」
「うわぁ。それはないわ。」
2人きりとは言いながら止まったままの人はいるが。
「でも本当の事だよ。だから君と手錠をしたんだから。」
「は…いつの間に!」
私とこいつの腕には手錠が…!
「ここなら2人きりだ。ずっと一緒に居られる。しかも君と2人で歳をとれるし…。幸せだよ。」
「こんな終わり方を望んでたの?」
「僕はもう彼には勝てない。だけど僕は君が居ないと死ぬ。大袈裟に言ってる訳では無い、多分、死んでしまう。」
「……ホンマに?」
「昔、僕が言った事覚えてる?」
「昔?」
「うん。昔、聞いたでしょ?海で僕と彼が溺れてたら、君は僕を助けて彼と死ぬと言い切った。あの時、僕は思ったんだ、ああ、きっと一生僕を選んでくれないって。」
「……で、でも。」
「言い訳は無用だ。君は僕を選んでくれない。だったら僕を選ぶしかない状況に堕とすしかない。何度も、何度も、悩んで、諦めようとして、それでも君は、僕に、笑ってくれるから、どうして、どうしても、君を、殺せない。僕の中で、大きくなる君を、殺す事ができない。」
泣いて膝をつく彼にかける言葉はない。私はこの空間でこの孤独な静寂の中、彼と生きるのだから。
「ねえ僕を憎んで、絶対に赦さないで。生きている間の時間を、人生という全ての時間を僕にくれるんだそれだけで充分だ。君が死んだら天国で彼を待てばいい。そして天国で2人で永遠に幸せになって。僕は君を、君との思い出を抱えたまま地獄に堕ちるから。」
「貴方がそんなに情熱的な考えを持っていると思わなかった。私、全然貴方を知らなかったのね。」
「時間はたくさんある。僕を知っていけばいい。本当に時間はたくさんあるのだから。」
「分かったわ。私も腹をくくって貴方に付き合うわ。もう私の人生に貴方しかいないのなら。」
「ありがとう。最低なエンディングを選んでくれて。」
「ふっ本当に最低ね。」
「ああ、だから僕を赦さないでね。」
「ええ、きっと赦さないわ。貴方を心から赦さない。」
それでも泣いている彼を憎む程私も鬼にはなれなかった。小さい頃から一緒に遊んで育ってきた彼を憎む事なんて無理だった。
「でも、僕も君を赦さない。君が僕に笑いかけなければ、王子だと言わなければ、遊んだり話したりしなければ、同じ騎士コースを選ばなければ、君を愛さずに済んだのだから。」
そうして彼はただ泣き続けた。何かを失ったみたいに、ただ静かに泣き続けた。




