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創作雑記  作者: 真白 透
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消えゆく思い出


「うん、じゃあ気を付けてね。」


あなたの声が好きだった。あの少し甘えるような声が好きだった。電話口から聞こえる恥ずかしそうな笑い声も笑うと声が小さくなる所も。それにあなたのハグが好きだった。温もりと優しさをくれて私を守ってくれるような包み込んでくれるような強く優しい抱きしめ方が。


「君はいつも手が冷たいね。」


手を繋ぐ事も繋いだ時に見せる照れたような笑顔も好きだった。あなたは色んな所に連れて行ってくれた。お金がなかったから他の人からしたら散歩だって言われるかもだけど、穏やかなあの時間が好きだった。


「今度一緒に遊園地に行こうね。」


結局、遊園地には行けなかったね。2人してあんなに楽しみにしていたのに。あれに乗ろう、あれを買ってあれを食べようって、そんな計画だけが私に残っている。


「誕生日おめでとう、これからも一緒に祝おうね。」


あなたがくれた指輪が好きだった。私の左手の薬指にちょこんとそこにいるシンプルなデザインの指輪を私の為に選んでくれた。長くつけるものだからシンプルで君の美しさを引き立てるようにと、その気持ちが嬉しくてこれからも一緒にいられるようにと祈った。記念日なんてなかったけど誕生日だけは覚えていてくれた。


「一緒に住んだらずっと一緒に居られるね。」


あなたの話を聞くのが好きだった。どこか現実的ででも未来の話にいつも私を存在させてくれたあなたの優しさが好きだった。あなたの愛は激しく心を揺さぶり何も見えなくなるようなものではなくて、なんというか日曜日の午前中みたいな、昼食後のお昼寝みたいなそんな穏やかな愛だった。


「君はいつも1人で抱え込んでしまうんだね。お願いだから頼って欲しいな。」


困ったように笑うあなたが好きだった。そうやって笑って泣く私の手を握ってくれるあなたが好きだった。私の支離滅裂な話を聞いて泣き虫なあなたが一緒に泣いてくれてそんなあなたが好きだった。


「今は自分の夢でいっぱいいっぱいだけどいつか君だけの事を考えて生きて行くよ。」


子供みたいに目をキラキラさせて夢を語るあなたが好きだった。夢の為に頑張って働いてるあなたが好きだった。

私の夢はあなたの隣に居ることと、一緒に住む事、あなたを支える事、お金がなくても2人で居られるだけで本当に幸せだった。

いつも2人で色んな夢を見たね。一緒に住んだら家事は分担だねとか、料理は私が作ると言ったら、大変だから外食も混ぜようねって、だから美味しい定食屋さんの近くに家を借りようねって。趣味が合うから服の貸し借りもしたり本や映画も2人で選んで揃えようって。家具は君が選んでねって。


結局、あんなことがあってあなたとはお別れしてしまってあれから10年経つけど、誰ともお付き合いせずに時が過ぎてしまった。私は彼の母という存在が怖くなって付き合う事が怖くなって…ってそんな事は言い訳ね。

私が本当に怖いのは愛した人をまた失う事。あんなに愛していたのに、時間をかけて愛を少しずつ大きくしていったのに、失うのはすぐだった。今はもう声も顔もあやふやになってきてしまった。


「君は本当に素敵な女性だ。本当に今までありがとう。」


最後にあなたがくれた言葉はきっと忘れない。


「私も本当にありがとう。さようなら。」




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