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創作雑記  作者: 真白 透
10/20

私の男


美穂のブランドバッグが眩しい。美穂の言葉を借りれば新しい男というのが買い与えてくれたらしいそれは誰の目から見ても羨ましい一品だが、大学近くの学生ばかりのカフェには少し浮いた存在だった。


「これ昨日彼がくれたの!私びっくりして!前に欲しいなぁって言ってただけなのに!」


興奮気味に話す美穂が見せてくれるそれはブランドに詳しくない私でも見た事がある、サイズは35らしい。

美穂は白いフリルの袖が付いたオフショルダーに薄い水色の七分丈のジーンズ、厚底の白いウェッジソールのサンダルを履いていたが疲れたのかカフェに入るとサンダルのストラップを取ってサンダルに足を置いている。


「すごいなぁ美穂の彼氏は。」


佳奈が羨ましそうに美穂とバッグを交互に見て言う。佳奈は真っ黒のノースリーブで深いVネックのワンピースを着ていて肘をテーブルにつけると谷間が見える。美穂の足元を見て佳奈も黒いハイヒールのストラップを取って足を置き始めた。


「愛されてるねぇ!」


私は美穂に笑顔で言う。私は自分の好きなバンドのライブTをスウェット生地のミニスカートにinして細いベルトをしていたのだがベルトが邪魔で取ってしまった。2人と違ってスニーカーなので足は疲れていない。


「やっぱり付き合うなら年上だわ!本当に愛されてるって感じるもん!佳奈もそうでしょ?」


美穂は満更でもないようにニンマリと笑い、同じように年上の人と付き合っている佳奈に聞く。


「私は…お金はいらない。刺激が欲しいの。」


佳奈がニヤリと笑う。


「やだぁ!佳奈ったらぁ!ヤラシイ大人じゃん!」


茶化すように美穂が言う。でも私は知ってる佳奈が最近使い始めたブランド品の財布とキーケースは彼氏が贈ってくれたものだ。美穂がいない時に私に自慢してきたのだ。美穂のブランド品には適わないからと私だけに。

2人はいつも付き合う人を批評する。お金を幾ら持っているのかどれ程自分に貢ぐ事ができるのかどこまで我儘を許すか自分の為にどこまでするか、チェックリストでもあるのだろうか。

入学してから1年の間、2人は何度か付き合う人をのりかえのりかえ順位を付けて1位の人と付き合い続ける。

どこのディナーだった、プレゼントのアクセサリーはどこのブランドだった等、事細かに赤裸々に話し男に順位を付けていくのだ。その輪にいつも入れてもらえない。


「あっねえ彼がカウンターに入ったよ。」


美穂が小声で言う。このカフェに最近入ったバイト君だ。背が高くスラッとしていてエプロンの下の私服はいつ見てもオシャレで髪もゆるくパーマをかけ襟足を少し刈り上げたマッシュボブの茶髪。目はぱっちり二重でタレ目、鼻筋も通り赤い唇、可愛い雰囲気なのに声は低く掠れていて男っぽい話し方。このカフェに居る殆どの女の子は彼に夢中だ。


「あーいつ見てもかっこいいしやばいー。」


「美穂は彼氏居るじゃん。私のりかえようかな。」


「佳奈も付き合い始めたばっかじゃん!」


美穂が大きい声で言う。彼が出てきたから少し目立ちたいのかもしれない。


「ちょっと美穂…声大きいから。」


佳奈が呆れながら言う。彼がチラッとこちらを見て薄く笑う。


「えっ今笑ったよね?もしかして私の事が好きなのかな?私ものりかえようかな。」


美穂が小声で真面目に言う。私も小声で、


「美穂は年上がいいんじゃないの?」


「えーそうだけどー。彼は…別じゃん!あんなに顔が良くてオシャレで優しいんだもん!なんでもしてあげたくなっちゃう。」


美穂がうっとりと彼を見て言う。


「ふーん、ワンルームのマンションに住んでてデートは公園かカフェか図書館、ご飯をファミレスでも?」


私はまた小声で言う。美穂は眉間に皺を寄せて考えている。


「うーーーーーーん。」


「私はそれでいいわ。」


佳奈が言う。


「女の子と付き合うのは初めてで3ヶ月経ってもキスはなしでも?」


今度は佳奈に小声で言う。佳奈は表情を変えずに考えている。


「……それは。」


「「…いやそれでもいい。」」


考えた挙句2人は声を揃えて答えた。ふふふ面白いな。


「遥香、男は?」


「私?」


「そうだね遥香はあんまり何も言わないよね。私達の事ばっかり。」


「うーん…そうかな?」


知ってるのだ2人は私を少し下に見ている事。2人はブランド品を私に見せる事で私より上にいるのだと思っている。だからわざわざブランド品を見せてから最後にいつも私に聞くのだ、男の事を。


「私は2人みたいな彼は居ないから。」


と言うと2人共が満足そうにニンマリと笑い声を揃えて言うのだ。


「遥香は可愛いから大丈夫。」

「遥香はいいとこいっぱいあるし。」


とそれぞれ私を褒めてくれる。ちっとも感情ののっていない言葉で。


「こちらサービスです。」


噂の彼が私達のテーブルにクッキーを3枚持ってきてくれて笑顔で言いまたカウンターの中に戻る。


「えっやばい位かっこいいんだけど。いい匂いしたし。」


「いいね。」


美穂と佳奈がうっとりと言う。


「かっこいいね。」


私の声は届いていない。


今ここであれが私の男だと言ったらどんな顔をするのだろう。貴方たちが全てを捨てる事ができると言った男が私が高校生の時から付き合っている私の男だと言ったら。キスもして体の関係もあると言ってしまったら。


「ふふふ、2人は彼が大好きだね。」


「周りを見て。カフェにいる女の子は皆好きよ。」


「ええ、いい男だもんね。」


そんな事ここにいる誰よりも知っている。優が優しくて誠実で私の事だけを愛してくれるいい男だと、美穂や佳奈の持っているブランド品とは比べ物にならない愛おしい私の男。




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