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第六話 《フリューレ》システム

ざっと5ヶ月ぶりの更新ですね

説明回です

 



「我々は〈ASCF(アスコフ)〉。エネミスとの戦闘を専門に行う、秘密部隊です。戦闘に巻き込まれた君を保護させてもらいました」


 白スーツアロハの男、阿多野はそう名乗った。


「はぁ……」


 奇抜な格好と聞き慣れない単語に、木崎は返事ともいえぬ間抜けな声を出すことしかできない。

 病室から執務室に連れてこられたとおもえば、そこに珍妙な二人組だ。そして彼らは自分たちがエネミスと戦う秘密部隊だという。

 木崎が状況を飲み込めないでいると、パツパツな黒スーツの方の男、睦戸が重々しく口を開いた。


「……木崎くん。まず、最初に君に謝罪をさせてほしい」

「え?」

「……我々の戦いに民間人である君を巻き込んでしまった。非常に怖い思いをしたと思う。申し訳なかった」


 そう言って睦戸は、刈り込んだ頭を深々と下げた。

 いきなり謝罪されるとは思ってもみなかった木崎は、あたふたと手を振る。


「ちょ、ちょっと!」

「……危うく君が犠牲になるところだった。本当に謝罪してもしきれない」

「そんな、頭を上げてください!」


 正直なにがなんだかわからない。わからないが、あの戦闘に木崎が巻き込まれたのはまったくの偶然だと、それだけはわかる。誰かが悪いとか、誰の責任とか、そういうことでは決してない。ただ木崎の運が悪かった、それだけのことだ。むしろ助けてもらって感謝している。

 そう口下手に木崎が伝えると、ようやく睦戸は頭を上げてくれる。


「……そういってくれると、とても助かる」

「いえ、ほんとにあれは俺の運が悪かっただけなんで」


 怒ってもいないの謝られてしまうと、こちらのほうが恐縮してしまう。助けられたのは自分の方なのだし。

 ……そういえば、助けてもらったといえば、彼女のことだ。


「そういえば、あのIGに乗っていた彼女は無事なんですか?」

「……四ノ宮特務一尉か。彼女なら──」

「無事ですよ。ついさっき目を覚まして、今は医務室で休んでいるはずです」

「そっか。よかった……」


 彼女がいなければ木崎はここにはいなかった。きっとエネミスが体育棟を破壊した時に、一緒に吹き飛ばされていただろう。

 その彼女が無事であることに、木崎はほっと安堵する。また会うことがあればお礼の一つも伝えたい。


「それで、君を呼び出した用件についてですが。実は折り入ってお願いがあって、ここへ君を呼び出させてもらいました」

「お願い、ですか」

「ええ。ですが、まずは状況が飲み込めてないと思うので、先に今回君を保護するに至るまでの経緯について、一から説明させていただきましょう」


 阿多野がそう切り出すと、ぐっと木崎は表情を引き締めた。

 阿多野のお願いというのも気になるが、まずはあの時なにが起こっていたのか知っておいたほうが、話がわかりやすくなるかもしれない。


「今回、我々はとあるテストを行っていました。新型アイロンガーディアン開発のためのテストです────」


 話によれば、そのテストは今日の二時半ごろに、東京湾の上空のどこかで行われていたらしい。

 体育館へ落ちてきたあの機体──〔ヴァイツ〕という機体らしい──は開発中の試験機(プロトタイプ)というわけだ。


 思い返せば、確かに見た目は結構違っていた気がする。

 〔ヴァイツ〕は〔九十二式〕に比べスマートな体型をしていたし、メインカメラも単眼(モノアイ)ではなく二つ目(デュアルアイ)だった。

 ロボットアニメの主役機のような、ヒロイックな印象を受けたのを覚えている。


 木崎たちが体育館で退屈な時間を過ごしていた頃、その遥か上空ではそんな巨人たちが飛び回っていたというのだ。

 にわかに信じがたい話ではある。気持ち的には半信半疑だ。しかし木崎が今ここにいることが、阿多野の話が事実であるなによりの証拠となっている以上、否定することはできない。


 そして、事件はその直後に起こる。


「そこへ奴らがやってきたのです」


 エネミス。人類の天敵。

 そして彼らの戦っている相手だ。


「突如として現れたエネミスどもは、試験中だった部隊を強襲しました。予期せぬ襲撃によって、護衛として同行していたIG小隊は全滅。そして奴らは残る最後の一機〔ヴァイツ〕を標的にしました」


 はるか上空での戦闘は、苛烈さを極めたらしい。4対1という圧倒的不利な状況下で、四ノ宮と〔ヴァイツ〕はよく戦った。機体の戦闘記録によれば、エネミスとのドッグファイトは十分近くも続いたという。


 阿多野は淡々と語ったが、実際にIGとエネミスの戦闘を間近で見た木崎には、それがどれほど激しい戦いだったか容易に想像がついた。


 しかし、善戦も虚しく四ノ宮は墜とされた。エネミスの一撃が、機体の背中に搭載されていたフライトユニットに被弾。〔ヴァイツ〕は飛行能力を失い、木崎のいる体育棟へと墜落した。


 そこから先は、木崎が目の当たりにした通りだ。


 エネミスが〔ヴァイツ〕を追ってきて、木崎を巻き込み壮絶な追いかけっこが繰り広げられ、そして、


「────四ノ宮特務一尉の奮闘と救援部隊の到着により、エネミスは撤退。動力が停止した〔ヴァイツ〕と気絶していた君を保護し、今に至るというのが事のあらましです」


 一連の出来事を語り終えた阿多野は、一息ついてから再び木崎を見据えた。

 彼の話には、まだ続きが残されていた。


「……そして、本題はここからなのです」


 阿多野の声が少し低くなった。ひそめるような慎重な声音と、探るような視線に、木崎は知らず知らずのうちに呼吸が浅くなる。


「実は、回収したヴァイツの戦闘記録に、とても興味深いログが記載されていました」

「ログ?」

「ええ。とある兵装の使用記録なのですが……」


 そういうと阿多野はタブレット端末を操作し、その画面を木崎へと差し出した。画面を覗きこむと、そこにはいくつかの文字列と心電図のような折れ線グラフが表示されている。


 グラフの数値は、しばらく横ばいだったものが、一時を境に急激に跳ね上がっていた。%表記でいうのなら、平時が10~15%程度なのに対し、上昇した数値は90%を超えている。


 阿多野のいう兵装が使用されたのがこの時なのだろう。


「木崎くんに見てもらいたいのはここです」


 そう言って阿多野が指差した文字列に、木崎は目を走らせる。


「……コード:GDV4a01■■X、《フリューレ》システム。……最高同調率93,6%。……使用者名、()()()()────って、俺!?」


 思わず素っ頓狂な声が出た。


「なんですかこれ……!?」


 訝しんだ声音で、木崎は阿多野に訊き返した。


 当然ながら、木崎にこのなんたらシステムとやらを使った覚えなどまったくない。そもそもこのシステムが何なのかもわからなければ、使えるような状況にいたとも思えない。

 正直わけがわからない、というのが木崎の率直な感想だった。


「やはり、身に覚えはないようですね」

「……そのようだな」


 潜めた声で阿多野と睦戸はうなずきあう。


 エネミスとの戦闘の最中に起こった、蒼い閃光の爆発。強烈なエネルギー波の発生とともに、エネミスを軽々吹き飛ばしたあの現象。


 あれこそが《フリューレ》システムの力だった。


 空間に作用し、虚空に力場を生み出す力。エネミスを退け、木崎と四ノ宮の命運を繋いだ力。


 《フリューレ》システムの発動は、誰も予想できない、完全にイレギュラーな事態であった。故に阿多野たちは、どのようにしてシステムが発動したのか、そのきっかけを知りたがっていた。


「(我々も最初は何かの手違いかと思いました。あのときはヴァイツ自体も相当ダメージを負っていましたしね……)」


 だが、戦闘記録の誤認識などではないことは確かだ。

 阿多野はわかっている。あの戦闘の最中で、確かに木崎優真は《フリューレ》システムを発動させた。


 普通なら、コクピットの外で機体にしがみついていただけの人間に、そんなことができるはずがないと考えるだろう。

 だがしかし。《フリューレ》システムの発動条件は少々……いや、だいぶ特殊なものだった。




 ──《フリューレ》システムは、同調者の精神に呼応して起動する。




 つまり同調者の強い想いが、発動条件となっているのだ。今回の場合は、木崎が何かしらを強く念じたことがシステム発動のキーとなった。

 詳しい理論を話し出すとややこしくなるが、要は波動や気のような力、といったら想像しやすいか。


 ともかく、その条件の特殊さゆえに、木崎がシステムを作動させたという話は、あながちありえないものでもなかったのだ。


 現に証拠として《フリューレ》システムはただ今、木崎以外のIDによるアクセスをすべて拒絶している。〔ヴァイツ〕正規パイロットである四ノ宮特務一尉のIDパスですら、だ。

 これは本来ありえないことだった。


 おかげで解読班の作業が難航していると、報告を持ってきた部下は頭を抱えていた。


「(……まぁ、理由はそれだけではありませんがね)」


 目の前で首をかしげる青年をちらりと見て、阿多野は目を細めた。

 とりあえずは、見るからに混乱している彼へ、事を説明せねばならないだろう。


「《フリューレ》システムとは、ヴァイツに搭載されているまだ実験段階の機構です」

「その機能とは空間への力場干渉、つまり見えざる矛や盾を造りだすというものです。ヴァイツから蒼い閃光が放たれたのを、君も見たでしょう? あれはシステムが発動したことによる影響の一部なのです」


 《フリューレ》システムの詳細については、一応〈ASCF〉の最高機密に位置する情報だったが、この後にする話のために、木崎には教えておく必要があった。

 彼が敏い人間なら、阿多野の真意にもおそらく気づくだろう。


「えっと、つまりそんな凄いことを俺が起こしたってことですか?」

「信じられないでしょうが、そういうことです」


 木崎にとっては、怒涛の展開に思考がついていかないというのが、本音だった。


 〈ASCF〉とかいう組織も、《フリューレ》システムとかいうのも、どれもこれも非現実的な内容過ぎてSFアニメかよと突っ込みたくなる。


 蒼い閃光が溢れ出す光景については、間近で見たのだからその凄まじさは木崎が一番よくわかっている。だから、あの光景を引き起こしたのが自分だという話は、なおさら信じがたいとのだった。


 一度じっくり吟味してみないと、今日の出来事は受け止めきれそうにない。それでも理解しきれないかもしれないくらいだ。

 だが展開は、木崎を置いてけぼりにしながら、次の阿多野の一言で最大の山場を迎える。


 阿多野が言った。




「そこで提案なのですが────木崎くん、君〈ASCF〉に入りませんか?」




次話は(多分)来週の土曜に投稿します

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