第2章-出撃
見渡す限りの荒野。ところどころに巨大な大岩が立ち並び、風によって砂塵が舞い上がる。
そんな荒々しさを感じさせる風景の中、多彩な魔女騎兵がズラリと整列していた。ゲームの画質では多少の粗さを感じたが、その色とりどりの機体たちがくっきりと見える。
とても現実とは思えず、ありもしないVRゴーグルを外そうとした手が空を切る。その手をしばらく眺めた僕は、ゆっくりと拳を握って確かめる。
そうか、僕は本当に異世界の魔女騎兵の中にいるんだ。
「ふふっ、ようこそ私のフォルクヴァングへ」
感動していた僕だったが、どこからか声がかかる。
「フレイアさん? ゲームじゃ魔女の声なんてなかったけど」
「そりゃそうさ。あれはあくまでゲーム、お試し体験版みたいなものだからね。私たちは騎兵の心臓部、この操縦席のすぐ近くにいるんだが、騎兵の身体は私たちも同然。それにさっきつなげた魔力パスでキミとは自由に会話できる」
魔力パス? 何のことだろうか。いつの間にか僕にそんなものが付けられていたとは、全く気づかなかった。ぐるぐると体を確かめるが、どこを見ても不審な点は見つからない。
「ん? あぁ、魔力パスは物理的なものじゃないよ。キミとは熱いベーゼを交わしただろう?」
この環境に流されかけていたが、そうだ。僕はフレイアとキ、キスをしてしまったのだ。
つまりアレが魔力パス。
「じゃ、じゃあ他のパイロットもみんな魔女とキスしたんですか!?」
一つの疑念が湧いた僕は、フレイアに問いかけた。
「い、いや。あれは本来のつなげ方とは違って、原始的というか時間短縮というか。と、とにかく他のパイロットはしていないぞ!」
迫るようなフレイアの声に僕はたじろぐ。
「そ、そうなんですね。ちょっとホッとしました」
「なぜキミがホッとするんだ?」
ゲーム初期の頃はフレイア以外の魔女騎兵も使用していたため、他にも気になる魔女がいたんです、なんて口が裂けても言えない。僕はこの件をうやむやにすべく、フレイアに別の問いをかける。
「コ、コントローラーってあります!? 僕いきなり本番で使ったこともない新しい物を渡されるんでしょうか!?」
「それは安心してくれ。キミの座っている操縦席の横に取り付けてある」
確認すると椅子にすっぽり埋まるように置いてあったのを見つける。二つのコントローラー左右の手でひとつずつ握りしめ、感触を確かめる。新品だが、ゲームで使っていた専用コントローラーと同じものだ。親指、人差し指、中指で使う複数のボタンもある。どの攻撃をどのボタンに割り当てるかなどの設定変更はゲームでもできなかったが、ホンモノに乗った時に間違うわけにはいかないからか。
「いずれ同調率があがれば、それも要らなくなるが、ゆっくり慣れていくといい」
またまたよくわからないワードが出てくるが、質問する前に、スクリーンの右上に金髪ヤンキーパイロットが表示され、男の声が響き渡る。
「あー、全員聞こえてるかぁ? 悪いが、報酬は全部俺が頂く!!」
そう言うや否や男の映像は切れ、メインスクリーンに映し出されていた魔女騎兵達の中の一騎が滑空するように前方へ飛び立っていく。
「一人勝ちは許さない。ラーン!!僕たちも行くぞ!!」
「報酬はどうでもいいが、撃破スコアは渡さん」
次々と現れては消えていくウィンドウとともに続々と魔女騎兵達が移動を開始する。
「な、何をしているんだ!? お前たち、戻れ!! まだブリーフィングすら出来ていないぞ!!」
最後に指揮官の女性の映像が映し出され、戻るよう指示が伝えられるが、彼らは止まらない。獲物を探すように前進し、巨大な魔女騎兵も既に黒い影となって小さく見える。
「僕も行った方がいいかな?」
「そうだね。私たちも彼らを追いかけるとしよう。いいな、ソール?」
再び、指揮官の姿が映ると、彼女はため息をついて頷く。
「一応ここは私たちの勢力圏だからロストはしないと思うけど、充分警戒して進軍して頂戴。はぁ、終わったら彼らには罰が必要ね」
「了解、フォルクヴァング出撃する!!」
フレイアの声に合わせて、僕は初めてホンモノの魔女騎兵を飛び立たせた。