序章-3
僕が目を覚ましたのは、見知らぬ部屋の真っ白なベッドの上だった。割と小さな部屋で、ベッド以外は部屋の隅にスピーカーが置いてあるだけだ。
窓から景色を窺うと、どれだけ長く寝ていたのか、意識を失う前はお昼前だったのに窓から差し込む日差しは赤く室内を照らしている。自室以外で熟睡したのは初めてだが、昨晩一睡もしていなかったのが原因だろうか。そんなことを思いながら、僕は一人の女性を思い浮かべる。
「あの人がフレイア……」
いそいそとベッドから抜け出して、つぶやく。
なぜ髪色が違うのかはわからなかったが、彼女のような美人に抱きしめられたことを思い出して、僕の顔は日差しを受けてなお赤く染まる。
いまだに彼女の香りが残っているような気がして、僕は意識を切り替えるように両手で頬を軽くはたく。
「それより僕はどうすればいいんだろう」
誰か来るのをおとなしく待つべきか、適当に出歩いて人を探すべきか。僕が悩んでいると、部屋に設置されたスピーカーから切迫した女性の声が流れ始めた。
「ホームより緊急連絡! 多数の魔獣襲撃による応援要請。魔女騎兵及びパイロットは至急、屋上ゲートへ集合!! 繰り返す、魔女騎兵及びパイロットは……」
僕はパイロットなのだろうか?
引き続き悩む僕だったが、昨日聞いたフレイアの言葉を思い出す。
”エースパイロット"絶対回避"、私と運命をともにしてくれないか”
僕は胸が熱くなるのを抑えきれず、屋上を探し求め走り出した。
運よく見つけた階段を、息を切らしながら駆け上がる。
その勢いのまま屋上の扉を叩くように開くと、そこにはゲームで見た多種多様な魔女と、特殊なスーツを身にまとった複数の青年たちが並んでいる。
「一般人か? 見たとこ支給された装備もしてないし、なんだアイツ」
眼つきの悪いヤンキーのような金髪青年が声をあげた。
「そんなことより早く出発するべきじゃないのか? おい、契約したパイロットは既に揃っているんだろう?」
眼鏡をかけた青年が魔女とおぼしき女の子に詰め寄る。
「えっと、そろそろ魔術式が完成して屋上にいる全員が転移するのですが……」
女の子がちらちらと僕の方を見た後に指揮官らしき女性を仰ぎ見る。
「彼はフレイアのパイロット候補だな。が、フレイアの姿が見えんな。……おい、少年! すぐにここから去れ! このままではパートナーがいないままキミも転移してしまう!!」
ここにいてはマズイらしい。息も絶え絶えの僕は後ずさるように後ろに下がろうとしたが、誰かにぶつかってそのまま肩を支えられる。
「大丈夫!! このまま転移してくれ!!」
身体の芯に響くような声をあげた女性の横顔が僕の視界にうつる。
燃えるような赤髪、凛とした表情の中に笑みを浮かべて僕に視線を合わせる。
「略式魔術だから、許してくれよ。レン君」
「えっと何を、むっ……」
答える間もなく彼女の唇が僕の口を塞いでいた。
転移によって薄れゆく景色の中、驚きとともに僕は異世界へと旅立った。