表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女騎兵  作者: なーさん
2/4

序章-2

 ガタンゴトンと電車内特有の騒音が僕の頭に響く。それを煩わしく思いながら、僕は目頭を押さえて目を閉じていた。動画を見た後、再びゲームを続けていたわけではない。運営から届いた一通のメールにより、困惑そして興奮した僕は、昨晩一睡もできなかったのだ。


「何があるんだろう」


 簡素に書かれたメールには、ランキング入りの報奨を授与するとともに相談があるとのことだった。運営サイトにはランカーへの報奨など一切書かれていないため、詐欺の可能性も考えたが、僕は溢れる好奇心を抑えることができなかった。


「とにかく行ってみるしかないよな」


 そう呟いた時に目的とする駅のアナウンスが流れ、僕は慌てて電車から降りる。

 駅から歩くこと20分。僕は一つのオフィスビルを路地からこっそり覗いていた。


 『ウィッチゲームズカンパニー』


 穴が開くほど見つめてもその看板が睨み返してくることはなかったが、僕は一歩も足を前に出せない。


「運営会社には間違いない。いや、でもイタズラメールか何かだったら……」


 もし受付の人に話して笑われたら、僕は恥ずかしすぎて三日三晩部屋に閉じこもるだろう。

 覚悟を決められず悶々としている中、僕と同い年くらいの青年が一人そのビルへ入っていった。


「もしかして、僕以外のランカー!?」


 このチャンスを逃す手はない。僕は後を追うように自動ドアを目指して駆ける。

 ゆっくりと開くドアをもどかしく感じながら、先ほどの青年が受付のお姉さんにかける声が耳に入ってきた。


「呼び出しのメールを受けた深月透(みづきとおる)だ。報奨とやらを受け取りに来た」


 かなり高圧的な印象を受ける声色だが、こそこそ様子を伺っていただけの僕からすると尊敬すら抱いてしまうほどのコミュ力だ。僕もあれぐらい堂々とできれば苦労しないのだけど。


「かしこまりました。ミヅキ・トオル様ですね。暗証コードはお持ちでしょうか」


 暗証コード!?そんなことメールに書いてなかったのに!!?

 入口であわあわとスマホを出しメールを確認していると、僕の後ろで自動ドアが開く。


「あー、ちょっとごめんよ。通らせてもらっていいかな」


 困ったような女性の声に対し、僕は相手も確認せずに慌てて謝罪する。


「ご、ごめんなさい。ちょっと暗証コード忘れちゃって……確認してからまた来ます!!」


 相手の顔を見る余裕もなく横を走り抜けようとしたが、女性に腕を掴まれ逃げそこなってしまった。


「え、ちょっと待って!!」


 女性の声を無視して動こうとするが、掴まれた腕を振りほどけず、僕は逃走を諦めて足元に視線を落とした。

 女性は僕の顔を覗き込もうとするが、僕は必死に顔を背ける。ジッと僕を観察しているが何も言っては来ない。この状況に耐え切れなくなった僕は恥ずかしさを堪え、一瞬だけちらりと相手の顔を窺う。凄い美人だ。僕には未来永劫話す機会なんてないんじゃないかと思うレベルの美人。

 一際目立つのは透き通るようなターコイズ色の瞳。長い黒髪だったが、カラーコンタクトでもしているのだろうか。


「キミ、名前は?」


「レン……です」


 ただそれだけ小さく返事をすると、突然彼女は僕を思いっきり抱きしめた。


「おおおお、キミがレン君か! よく来てくれた!!」


 感極まったかのような女性に抱きしめられて、僕の頭は彼女の胸に押しつぶされる。

 きつく抱きしめられる苦しさとともに、女性に抱き着かれているという状況に僕は顔が真っ赤になる。


「ちょ、離れてください! 一体何なんですか!?」


 女性の暴挙に僕は批難の声をあげるが、女性は全く気にしていない様子だ。


「私の顔を見て気付かないのか?」


 そう言われ、万力のようなハグだったものが、優しく宝物を抱きしめるような加減になる。

 どこかで会った人だろうか。僕はまじまじと彼女の顔をチラチラと見る。


 恋人同士にしか許されないような距離で、無言で見つめてくる。

 僕は早くこの状況をどうにかしたくて、ひたすら記憶のドアを開け閉めする。

 こんな美人だ。アイドル? 違う、僕はアイドルに興味はない。

 テレビで見た有名な俳優? いいや、最近の僕はテレビも見ずにゲームをしていた。

 ゲーム? そう、ゲームだ。


 時間とともに彼女の顔が悲しみに沈んでいくことに気づいた僕は、全く自信のない名前を呟く。


「……フレイア」


 絶対に違う。彼女は燃えるような赤髪だ。

 しかし、彼女の表情は僕と正反対に歓びに包まれた。


「わかってるじゃないかー! お姉さんをからかったなぁ!! このっこのっ!!」


 再びはしゃぐ女性の胸に再び僕の頭が埋まり、僕は息苦しさと彼女の香りに包まれながら意識が遠くなっていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ