序章-邂逅
「やった、ついに終わったんだ……。」
僕は凝り固まった肩をほぐすとともにVRゴーグルを外し、目の前のモニターを確認する。はやる気持ちを抑え、じっくりとマウスホイールを回し、目的の名前を探す。
「……30位、スメラギ・レン :フレイア」
VR型バトルアクションゲーム、魔女騎兵のスコアランキングの最後に自分の名前とパートナーの名前があることを確認し、僕は安堵のため息をつく。思い返せばこの一か月間、ひたすらこのVRゲームに熱中していた。魔女の作り出した騎兵を操作し、敵勢力の魔獣を倒すというゲームシステムはシンプルだが、このゲームの肝は何と言っても騎兵のコアエンジンに搭乗している魔女。
彼女たちがそれぞれ自分の騎兵を創造し、攻撃、防御、移動すべてのエネルギーの源を担っている。ゆえに敵勢力圏で魔力が尽きれば敵に鹵獲され、どうあがいてもユニットロスト、今後一切復活することはない。そんな中、僕が愛用していた騎兵は魔女フレイアのフォルクヴァング、高火力超スピード紙装甲の近接型騎兵だ。
「よく生き残れたな……」
ボソリと呟きながら改めてランキングを確認し、上位の名前とその愛用騎に目を通す。
「1位ミヅキ・トオル、愛用はエイルか。確かにあの耐久力はチート並みだよね。その下は……、ヨルズ、ラーン、エイル、エイル、ラーン……やっぱり高耐久か遠距離型使ってる人が多いな」
撃破スコアの高い魔女が愛用扱いとして表示されているはずだが、僕以外にフレイアを愛用しているランカーはいないようだ。自分がフレイアにとって特別な存在になれた気がして少し嬉しくなる。
「もう寝る時間だけど、最後にフォルクヴァングでも眺めようかな」
再びVRゴーグルを被り、編成画面を開くとフレイアに見知らぬアイコンが表示されていた。
「なんだこれ?」
長らく遊んだゲームで見る初めてのアイコンに疑問を抱きつつ、アイコンをタッチすると突如動画が流れ始めた。
「あー、"初めまして"でいいかな? スメラギ・レン君」
場所は騎兵格納庫だろうか、フォルクヴァングの足元らしきものを背景に、一人の絶世の美女が立っていた。燃えるような赤い髪に凛々しい眼光、扇情的な服装もあいまって強調された豊満なバスト。いやいや、僕はどこを見てるんだ。そうじゃない、キャラクターの立ち絵でしか見たことはないが、紛れもなく魔女フレイアだ。そのフレイアが……僕の名前を呼んだ?
「突然のことで申し訳ないが、キミにお願いがあってこれを撮っている。知っての通り私たちの世界は今、魔女ロー……」
「ちょ!それはまだ極秘事項です!!フレイアさんダメダメ、言っちゃダメ!!!」
フレイアの声を遮るように、画面外から別の女性の声が投げかけられた。この声は何度も聞いたことがある。おそらくミッション通達などのナビゲーターを担当している魔女アルブだ。
「あー、すまない。いささか私も緊張しているらしい。」
苦笑交じりにそう話すフレイアは、仕切り直しに一つ咳払いをすると、真剣な表情で再び語り始める。
「私たちの世界は今、謎の勢力によって襲撃を受けている。それに対抗するため、魔女騎兵を創造し抗戦を続けているのだが、私たち魔女は騎兵の維持と魔力供給に精一杯で動かすところまで手が回らない。そこで異世界の人間に協力を求めることになった」
フレイアの話が頭の中を素通りしているような錯覚を受けながら僕は情報を整理する。先ほどの極秘事項、おそらくラスボスなのであろう存在は知らなかったが、その後の話はゲームの設定として把握している。もしかすると、このビデオレターもランカーへのサプライズプレゼントで、ゲームを盛り上げるための演出じゃないか?
そう疑いを抱きつつも、本当に異世界---ひいてはフレイアが存在し僕に語り掛けているとしたら。
疑念と興奮に揺さぶられて全く集中できない。そんな状況とは裏腹にフレイアの話は続いていく。
「お願いだ、スメラギ君。……いや、あえてこう呼ぼう。
エースパイロット"絶対回避"、私と運命をともにしてくれないか」