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久遠

「お、起きた、起きた」


目が覚め俺が最初に見たものは黒い長髪の少女がこちらの顔を覗き込んでいた。俺はそのことに少し驚いたのだが、肝心の少女はというと


「貴様、一週間眠りっぱなしだったぞ?壮健なのか?まあ、その顔色からして壮健なのあろう」


俺が驚いているのにもお構いなしにそう言うと、少女は


「でだ、起きて早々、聞きたいことがあるのだ。一体お前は何者だ?見慣れぬ服装をしているが?あれか?貴様は日ノ本の外から来たもので、いわゆる南蛮人というやつか?いや、貴様はどう見ても我と同じ日ノ本の人間だな。では違うか。おお、そうだ!他にも聞きたいことがあるぞ!貴様の持っていたあの鉄砲。あれは連発していたがあれはどういう仕組みだ?南蛮の新式の鉄砲か?いや、あのような面妖な鉄砲、南蛮でも恐らくはない。となるとやはり貴様は何者かという話に戻るが?」


まるで機関銃のように早口で言う彼女に俺はあっけにとられてしまう。すると少女は首を傾げ


「どうした?何か言ってみせよ。黙っていては何が何だかわからぬではないか?」


「え?ああ、そうだったな。すまん。ところで・・・・・・君は?」


「お前こそ誰だ?名前を聞くにはそちらから名乗るのが礼儀であろう?」


ジト目で見られる。まあ彼女の言い分も最もだ。敵意も感じられないし問題ないだろう


「ああ、そうだったな失礼した。俺は橘政宗だ」


「橘だと?・・・・・・ほお、橘氏の出身か!」


「た、橘氏?なんだそれは?」


「お前の出身ではないか?いったいどこの出だというのだ?」


「俺は大日本帝国の東京生まれのただの軍人だ。よって橘何某らという一族の出ではないし、俺はただの橘だよ」


俺がそう答えると少女は目を細め


「だいにっぽんていこく?とうきょう?意味が分からん。だいにっぽんていこくとはなんだ?それに東京という村など聞いたこともない京とつくからには山城の国かどこかか?それにその村の軍人とか言ったか?とすると貴様は武士なのか?だとすると都の武士たちはそのような面妖な格好なのか?不明な奴じゃな。とにかく我の知らんことがあるのは不愉快である。すべて言え」


「すべてと言われても・・・・」


俺は少し混乱しながら、今の状況を見る。部屋の中は純和風の部屋であり、俺に話しかけている少女も着物か洋服を混ぜたような奇妙な服装だ。まあそれはそれで似合ってかわいらしいから別に気にしないが


「何をじろじろと見ておる。無礼な奴だ」


俺が彼女をじっと見る中彼女は目を細めてそう言う。


「ああ、これは失礼した」


「うむ、許そう」


少女がそう言う中俺は自分の頭の中を整理していた


「(確か俺たちは沖縄に向かうはずが、なぜかタイムスリップして戦国時代に‥…それで状況把握のため小隊規模に兵士を連れ偵察に出たが逸れて、それで足軽がこの少女を襲おうとしたところを見てその足軽に発砲したのは覚えているんだが・・・・・・)すまないが、ここはどこだ?それと俺が眠っている間のことも詳しく聞かせてもらいたいのだが?」


俺は布団から起き上がり正座して彼女に訊くと彼女は


「デアルカ・・・・まあ一週間も眠っていたのだ。是非もなし。では我が教えて進ぜよう。ここはな、織田が治める尾張清州の城下町であり、この部屋は我の屋敷の一室だ」


「尾張・・・・・清州」


確か昔の愛知県の頭みたいな部分の場所の名前だったな。確か信長公や秀吉公が生まれた地の


「そうだ。一週間前の事だが、我が治めるこの尾張清州に向けて駿府屋形の今川治部大輔が侵攻してきたのだ。我は迎え撃つため、寡勢にて田楽狭間に進出し、奇襲を仕掛けて義元の首級を挙げ勝利を得た。その時、新介が義元の首級を掻き切った、そして戦が終わったかと思ったとたん今川の残党が我の命を奪おうと襲い掛かった時、貴様が現れお主の持つ奇妙な鉄砲で足軽たちを撃ち我を救ったのだ。あの時は助かった礼を言う」


「なるほど・・・・・」


俺はその言葉に何となく理解できたが、今川義元とか田楽狭間とかその言葉を聞く限り本当に戦国時代・・・・つまり西暦1560年の時代にタイムスリップしたということか・・・・・これは山下たちが訊いたら驚くな・・・・特に学徒兵の一人の県一等兵が訊いたら、さぞかし驚くだろうな。そう思っているとなぜか笑いが込み上げてくる


「何をニヤニヤしておる?」


「いや、別に大したことはないさ。それで君の名は?できれば教えてはくれないか?」


「いやだ」


「ほ~なぜだ?」


「なぜ我の名を、どこぞの馬の骨の奴に教えねばならぬ必要があるのだ?」


「確かに一理ある。が、しかし敵味方以前に相手に名を名乗らぬのは極めて無礼なことではないかな?」


俺がそう言うと少女は目を見開き驚いた顔をするがすぐに少しいたずらっぽい笑みを浮かべ


「なるほど、確かに貴殿の言う通りだな。まあ貴様の目を見て・・・・いや命を助けてもらった者に名を名乗らぬのも貴殿の言う通り無礼な行為だったな。なら教えてやる」


そう言い彼女は一呼吸入れると


「聞いて驚け、我が名は織田三郎久遠信長!織田家当主にして夢は日の本の統一なり!!」


ドンッ!と、堂々と自分の名を言う彼女に俺は驚く


「織田信長・・・・・・信長公!?」


「諱を呼ぶとは失礼であろう!我の事は織田久遠と呼ぶがいい」


俺がそう言うと彼女は目を吊り上げそう言う。あ~そう言えば当時戦国時代の時下の名前で呼ぶのは無礼なことだとどこかの本で読んだっけな・・・・しかし久遠という名は聞いたことがない。それは階級名か?それとも字か?



「すまん。その久遠というのはなんだ?」


「真の名と書いて真名と呼ぶ。通称とも言うがまあどちらでも良い。それよりも橘政宗と言ったな?どこが諱でどこが真名なんだ?」


「あ~俺には真名がない。そのままの通り橘が姓で政宗が名だ。なので諱も真名もないが、親しい者には政宗と呼ばれている」


「デアルカ…真名がないとは面妖な…が、真名と諱が同じ地方もあるという。われも常々、その方が合理的だと考えているが、如何せん、この世は礼に五月蝿くてたまらん」


「なるほど。まぁどこの世界にも親しき仲にも礼儀ありって言葉があるように、礼儀にうるさい人間がいるんだな」


軍隊でも階級とか軍律とかそう言うのに結構うるさい。まあそれはアメリカもドイツもどこの世界でも同じだろう。まあ俺の部隊は他の部隊に比べ少し緩いのだが


「おる。そも諱というのは、親か、己が仕える主君のみが呼んでいい名前だが、敵対勢力が呪いを籠めて諱を呼びすてることもある。諱というのはその人物の霊的な人格と強く結びついてものであり、その名を口にするということは、その人物の霊的人格を支配できる、ということだそうだ。甚だ不合理で理屈に合わん。人は人だ。霊だなんだと胡散臭いことこの上ないが…この世の多くの凡人がそう信じている以上、それが常識ということになる」


「なるほど合理的だな」


確か信長公(俺の知っている男の方)も合理的主義者であり実力主義者だったな。この少女…いや久遠とかいう子も信長公と同じというわけか・・・・


「だから諱については普段使いでは気を遣うが、真名というのは親しい間柄ならば気安く呼んで良い名である。日常的に使いやすく、合理的だ。仕来りというくだらんことも多いが、まぁ通称については特に不便でも不快でもない。これはこれで構わんだろう・・・・それよりも政宗」


「なんだ?」


「貴様は先ほどよくわからぬことをのたまっていたな?どういうことだ?」


「わからないこと?」


「ほら、だいにっぽんていこくとかどうとか、とうきょうがどうとか言っておったではないか?詳しく話してはもらえぬか?」


「う~ん・・・そうだな。詳しく話すとややこしいというか長くなるというか・・・・・」


俺はどう説明すればいいか考える。久遠の顔をちらっと見るとキラキラと輝かせ期待や好奇心旺盛な目で俺を見ていた


「そうだな・・・・・・いうなれば時空の漂流者とでも言っておこうかな?」


「時空の漂流?とすると貴様は南蛮人なのか?船はどうした?なぜこの国に来たのだ?それに時空と言うのはなんだ?訳が分からんぞ?」


「俺にもさっぱりわからない。ただ言えることは俺はこの世界の住人ではないんだよ。恐らくな」


ただのタイムスリップならわかるが信長公が女という時点でもはやこの世界が俺たちのいた昭和の時代に繋がっている時代だと言いにくい。もしかしたら俺たちは俺たちの知る世界とよく似た世界に放りだされたかもしれない


「にわかに信じられん・・・・・」


久遠も驚いた顔をしている。俺も彼女と同じ立場であったら同じことを言うだろう


「ふむ…貴様の言うとおり、にわかには信じられん話だ。貴様はそれをどうやって証明する?」


「さて…それをどう証明すればいいのか…ふむ…」


小銃を見せても南蛮の最新兵器だと言われる可能性がある。はてさてどううまく説明すればいいのやら俺がそう思っていると


「政宗。我の目を見よ」


「え?」


「我の目を見よと言っている」



そう言われ、俺は久遠に視線を向ける。まるで闇夜の中で真っ赤に燃え上がる炎のような瞳。思わず吸い込まれそうなその瞳に俺は見惚れそうになる。


「…うむ。嘘のない瞳をしている。よかろう。貴様の言うことを信じてやる」


「その根拠は?…自分で言っておいてなんだが、正直突拍子もないことを言ってるぞ。まぁ言ってることは全部本当のことだけども…そんな簡単に納得出来るものなのか?」


「なるほど…理屈として、その考えは間違ってはいない。だがな…人は理屈のみにあらず。我のような立場の者はな、瞳を見れば、その者がどのような人物なのかわかる。その者が卑屈なものか、阿諛追従の徒であるか…はたまた正直者であるかな。それを見抜けなければ、上は下に背かれ、下は上に潰される。それが下克上渦巻く今の世の常だ」


「下克上…ね。まさしく世は戦国の時代と言うわけだな」


「戦国の時代か・・・・それも強ち間違ってはおらんだろう。今は応仁の乱より続く乱世…まさに下克上などはいつ起きてもおかしくはなかろう」


「やれやれ…そこまでこの世のことを理解してるんだな。末恐ろしいことだ」


さすが戦国の革命児と言われるほどの人物。本当に感心するよ


「で…だ。貴様が違う世界?時代…まぁ其の辺は置いておこう、とにかく貴様がこことは違う場所から来たということは理解した。ちょっとだけだがな。してこれから行く宛はあるのか?」


「そうだな・・・・できれば逸れた仲間と合流したいところだな」


「仲間?仲間がいるのか?」


「ああ、俺たちはこの世界に放りだされた直後、状況把握のためあたりを偵察していたんだが、なれぬ山の中のためか部隊とはぐれてしまい右往左往歩き回っていたところ丁度久遠たちの戦場に迷い込んでしまったというわけだ」


「なるほど、そう言うことか。その度胸と言い仲間を思う心と言い気に入った・・・・・・・よし政宗!」


そして少しためて出した久遠の言葉は…


「政宗。我の家臣となれ」


「……なに?」


「我の家臣となれ!そうすれば、飯も住む所も着るものも金も我が何とかしてやろう。それに一人で仲間を探すよりここにおればお主の仲間も我が協力して探してやる。」


「それは…魅力的な提案だな」


「であろう?どうだ?」


「謹んでお断りさせてもらう」


「ほお?貴様にとっては破格な条件だとおもうのだが…違うか?」


「確かに、一見聞こえはいい条件だ」


「なら、なぜ断る?喉から手が出るほどの条件を断るなど貴様は馬鹿であるのか?」


「そうかもしれない。だが理由はそれではない」


「なんだ?言ってみろ?」


そう言うと俺は背筋を伸ばし


「俺は・・・いや、俺たちは別の世界に放り出されても天皇陛下に仕える軍隊だ。よって陛下以外の者に仕える気はない。それに貴殿の手を煩わせたくない。仲間探しは自分一人でやるつもりだ」


まあ北川基地もとい村の人たちに北側の森はどこにあるかと訊けば早いし、無線機もあるからそれを使って迎えに来てもらえばいい話だ


「では、飯はどうする?別の世界に飛ばされたとなるとの彼のあてなどないであろう?」


「当分の食糧はあるし、万が一は自給自足すればいい」


確か輸送トラックの中に缶詰や米がまだ大量にあるしそれにサツマイモやジャガイモなどがあったはず、それを栽培すれば何とかなるだろう。俺がそう答えると久遠は黙っていたが、すぐに口を開いた


「…わかった」


「そうか…わかってくれたか」


「家臣というのは撤回しよう」


「え?ちょっと待て」


「まあ、黙って聞け政宗。我が新たに提案してやる」


「一応、聞こうか?で提案とはなんだ?」


「うむ。衣食住と貴様の仲間を探すのを手伝う代わりに・・・・・・・」


「その代わり?」


 


 


 


 


 


「・・・・・・・・我の夫となれ!」


「・・・・・・・・・・・・は?」

俺は彼女の言葉に固まってしまうのであった・・・・・・


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