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8 撃破

「おい、マジかよ!?」


「まさか、ハワードがやられるとはね。新人とはいえ、油断し過ぎたか」


 複数のシャドウナイトとアークナイトと剣を交えているカイルとデイビッドは、ハワードが倒されたことに驚いていた。召喚術以外にも魔術も使えるのは見て分かったが、詠唱文の簡略化も出来ず、恐らく初級しか使えない。それが見て取れたから、ハワード相手ならすぐに倒されると予想していた。


 しかし実際は、ハワードが倒されてしまった。レイア自身、魔術師としてはまだまだ未熟の域を出ていない。詠唱を切り詰めていないが、滑舌がいいのか、結構な速さで唱えることが出来る。それのおかげで防御がギリギリ間に合い、繋いでいた。


 何より予想外だったのは、精霊の召喚速度だ。一流ともなれば一秒かからず召喚出来る。まだそこまで卓越した技術は無いが、レイアの召喚速度は一秒ほどとかなり早い。それに加え、三人は大きな誤解をしていた。


 レイアは一度に召喚出来る数・・・・・・・・・は三体と少ないが、別に召喚出来る総数・・・・・・・には魔力がある限り制限はない。ハワードが負けたのも、ここを勘違いしていたことだ。


「それにしても、こいつら随分と強いな。……いや、連携が上手いのか」


 カイルとデイビッドは、三体ずつ相手にしている。Bランクと上級の腕なら、すぐに倒せると思っていた。しかし、実際は攻めあぐねていた。とにかく、精霊の連携が上手いのだ。アークナイトが前に立ち、塔楯で攻撃を受け止め続け、カウンター攻撃を仕掛ける。それを受け流すか受け止めると、その隙にシャドウナイトが強襲してくる。


 そちらに対処していると、今度はアークナイトが鋭い剣劇を叩きこんできて、反撃を仕掛けても防がれる。それ以上に、塔楯で防がれなくとも、元の装甲が厚く攻撃が中々通らない。それ故に、攻めあぐねているのだ。


「はっはぁ! いいじゃねぇか! 随分と楽しませてくれる!」


 一方でデイビッドは、高い身体能力を活かして、互角にやりあっていた。ひたすら攻撃を仕掛け、カウンターをされても紙一重で躱し、カウンターで返す。シャドウナイトも、大剣による強烈な一撃を叩きこんでも、受け止められてしまう。双剣の手数の多さで攻めても、動きについてくる。実力だけで言えば、カイル以上だろう。


 そんなデイビッドは、三体の騎士精霊相手にしていて、楽しそうに笑っている。いわゆる、バトルジャンキーだ。抵抗していやがる女性を強姦するのもそうだが、それと同じくらいに強い敵と戦うことが、何よりの楽しみでもある。こうして抵抗すれば、相手が負けたときのあの失望した顔も見れる。そう思うと、戦いで得る興奮以外の興奮も感じてくる。


「っ!? うお!?」


 三体と切り結んでいると、そこに新たな騎士精霊がカイルとデイビッドの所に三体ずつやってくる。これで、六対一だ。どんどん不利になって行き、顔を歪ませるカイルに対し、デイビッドはより深い笑みを浮かべる。それこそ、狂気を感じるほどに。


「っ! まさか、ここまで厄介とはねっ!」


 さらに増えた騎士精霊に舌打ちをし、左手に持つ剣を邪魔だと言わんばかりに乱暴に振るう。ただ乱暴に振るわれた剣は、騎士精霊にとっては児戯にも等しいお粗末な剣だ。アークナイトに簡単に受け流され、強烈なシールドバッシュが放たれる。


 ごぉん、と鈍い音が響き、カイルが殴り飛ばされる。戦いを始めて、初めて攻撃を喰らってしまった。幸い、カイルは怪我を負わなかったが、明確な隙となる。相対していたシャドウナイトが、一斉に襲い掛かってくる。


「ちぃ!」


 憎々しげに舌打ちをし、その場から後退る。すると、凄まじい突風が襲い掛かる。


「何!?」


 突風が襲い掛かって来た方に顔を向けると、肩を上下させながら荒い呼吸を繰り返しているレイアの傍に、掌に乗るほど小さな女の子がいた。風精霊シルフィードのベルだ。連続召喚で少なくなった魔力を振り絞り、召喚したのだ。


 魔力切れが近いのか顔色が悪く、脚を震わせており、杖を支えにして何とか立っているといった感じだ。もしかしたら、これがチャンスかもしれない。そう思ったカイルは、騎士精霊の攻撃をかいくぐり、レイアの方に向かって走り出す。


 しかし、その前にまた突風が吹き荒れ、押し戻す。再び、憎々しげに舌打ちをする。


「おぉおおおおおおおおおおおお!!」


 今度は、デイビッドが飛び出して来た。高い身体能力を活かして、騎士精霊を振り切ったようだ。彼もまた、魔力切れが近いレイアを見て、今ならこれ以上手駒を増やせないと判断したようだ。だが、その短絡思考が、仇となる。


【シルフィードの息吹】


 ベルがすぅっと息を吸い込み頬を膨らませ、息を吐き出す。すると、螺旋状に圧縮された風が吐き出され、デイビッドに当たる。


「うおぉおおおおおおおおおお!?」


 躱すことなくそれに飲み込まれたデイビッドは、螺旋状に回転しながら吹き飛んでいく。一番長く契約し続けるベルは、手持ち精霊の中では一番の火力を誇る。


 風の息吹に飲まれたデイビッドは、木をいくつも薙ぎ倒しながら吹っ飛ばされる。十数メートル跳んだところで風は消えるが、そのまま吹っ飛んでいき、地面に落ちて滑りながら減速する。いくら屈強な体を持っていようとも、精霊の息吹には耐えられなかったようで、気絶する。


 それを見たカイルは、レイア本体は既に戦える状態ではないが、その周囲にいる精霊はそうではない。それ以上に、カイルは一人なのに対し、レイアの方は十四体の騎士精霊に二体の元素精霊の計十六体の精霊がいる。騎士精霊と一対一なら、まだ遅れは取らないが、それを補う程の数と高い連携を持つため、十四体同時に相手にするのは不可能だ。


 ならば、直接レイアを叩こうかと考えるが、周りには主にアークナイトが立っており、守るように塔楯を構えていて、ベルとサラマンダーが敵意をにじませた目で睨みつけており、少しでも近付けば最大火力で攻撃を叩きこむと物語っている。近付こうにも、防御が固すぎる。ただの新人だと思って、油断し過ぎていた。


 その間にレイアは、鞄の中から魔力回復薬マナポーションを取り出し、瓶の中身の青い液体を干す。ほろ苦い味が口の中に広がり、同時に魔力が回復を始めて、倦怠感が和らいでいく。


「いやいや、まさかここまでとはね。Bランカーのオレでも、倒せないなんて。最初にハワードが倒された時に、退散するべきだったね」


「我があるじに手を出した愚か者を、我々が逃がすわけなかろう!」


「そうよ! わたしの妹同然のレイアに手を出した大バカ者は、絶対に取り逃がしたりはしないわ!」


 サラマンダーが見た目に反して結構ダンディーな声で激昂し、ベルがそれに同意する。ベルにとってレイアは妹同然だが、サラマンダーにとってレイアは、敬愛すべき主なのだ。手持ちの精霊の中で一番の新参者だが、主を思う気持ちはとてつもなく強い。


 思う気持ちが強いからこそ、レイアを殺そうとするカイルたちは絶対に許せない。


「ボクも同じ。人を殺すことに躊躇いのない人は、絶対に許さない。殺しはしないけど、捕まえて組合に突き出すよ」


 ある程度魔力は回復したが、それでも疲労を感じさせる声で、はっきりとそう言う。


「……甘いねぇ。自分を殺そうとしている相手を、殺さずに突き出すなんて。本当に甘い。そんなんで、どうやって冒険者の社会を生き抜くと言うんだい?」


 冒険者は、何も魔物とだけ戦い訳ではない。時には、盗賊とも戦う。その時に、殺さず捕らえるといった考えを持っていると、いざ人を殺そうとしたときに何も出来なくなってしまい、逆に殺されてしまうケースが多い。


 人を殺したことが無く、それどころか人を傷つけたのが今回が初めてなレイアは、そう言われて押し黙ってしまう。覚悟はしているつもりだった。しかし、いざ人を傷つけると、罪悪感を感じてしまった。傷付けただけでそれだ。例え悪人だろうと、殺人を犯したら、下手すると心が押し潰される可能性だってある。


「本当に甘いよ、レイアちゃん。そんなんじゃあ、この社会では生きていけない」


 そうはっきり告げた後、カイルは身体強化を底上げする魔道具を起動。脚に力を籠め、強く地面を蹴って一気に間合いを詰める。その動きに追いつけず、反応の遅れたレイアは、驚愕の表情を浮かべて下がろうとするが、それよりも先に振り上げられていた剣が、袈裟懸けに振り下ろされる。


 あまりの恐怖に目を瞑るが、剣が当たる前にアークナイトの剣が間に割り込み、ギリギリのところで受け止める。そして、ベルとサラマンダーが同時に息吹を放ち、螺旋状の炎の息吹が襲い掛かった。腕輪型の魔道具で防御魔術を発動させるが、あっという間に防御限界に達し、効果を打ち消してしまう。


「ぐあぁぁあああああああああああ!?」


 張ったはずの防御があっさりと破壊されてしまい、螺旋の炎に飲まれて吹っ飛ぶ。デイビッドと同じように地面を滑りながら減速し、停止する。だが、まだ意識は失っていないようで、ゆっくりと起き上がる。着ている服はボロボロで、至る所を火傷している。


「嘘でしょ!?」


「まさか、我らの息吹を受けてなお、立ち上がれるとは……」


 見た目は満身創痍。しかし、足取りはしっかりとしている。


「身代わりの魔道具を持っててよかったよ。それでも、それすらも突破してダメージを与えるとは。下級とはいえ、流石は元素精霊だ」


 身代わりの魔道具は、致命的な攻撃を受けた時に限って起動する、特殊な魔道具だ。一個購入するのに、非常に高い金額が掛かる。それが起動したということは、ベルのサラマンダーの同時の息吹が、致命的な攻撃となったのだろう。


 身代わりの魔道具。それを持っていたと知り、レイアは顔を歪ませる。恐らくもう手持ちはなさそうだが、今の攻撃を防がれたのは痛い。もう一度放てばいいが、今度はやりすぎて死んでしまう可能性が出てくる。出来るだけ人は殺したくない。心優しいレイアは、どうすればいいか悩んでしまう。


 その隙に、カイルが突進してくる。武器は失ったが、一発拳が入れば、それだけで意識を刈り取ることは出来るだろう。それに、今は弱っているし、右足首を捻挫している。咄嗟に動くことも出来ない。


 レイアの優しい性格を利用し、これ以上強烈な攻撃を叩きこめなくしたカイルは、勝ちを確信した。この後のことを想像し、思いを馳せながらどんどん距離を詰めていく。そして間合いに入り込んだところで、より強く地面を蹴って一気に詰めようとする。


 ぐっと距離が縮まるが、拳を伸ばす前に視界に白銀色の塔楯が映り込み、それが凄まじい勢いで迫ってくる。いきなりのことで躱せないカイルは、アークナイトの最大限手加減した・・・・・・・・シールドバッシュを受け、吹っ飛ぶ。


 レイアは、これ以上強い攻撃をすれば、カイルが死んでしまうことを理解していた。それで人を殺したくないレイアが出した指示は、最大限手加減をしてカウンターでシールドバッシュを叩きこむことだった。身体強化が魔道具でなされている状態なら、突進してくる速度は速い。それに合わせて本気のカウンターを放てば、運が良ければ骨が折れる重症。悪いと心臓圧迫で死ぬ。


 ならば、相手の勢いを利用して、加減した攻撃をすればいい。結果、上手くいって殺すことなく、カイルを完全に無力化することが出来た。こうして、レイアは三人の新人狩りを倒すことが出来た。



 ♢



 太陽が沈み、空には太陽の代わりに月が浮かび、星が暗い空に散りばめられている。だというのに、街は昼より少し落ち着いたが、まだまだ賑わっている。冒険者たちも、今日はもう仕事を終え、一斉に街に戻ってきており、組合に集まっている。


 その組合は今、ちょっとした騒ぎになっていた。それは、Bランク上級冒険者のカイル・エバーガーデン、およびその仲間たちが、Fランク下級冒険者の召喚術師、レイア・エヴァンデールに倒されているからだ。カイルたちは、レイアとルミア、そして組合長とともに応接室にいる。そこで詳しい事情を聴くのだ。


「……なるほど。それが、あなたたちの動機なのですね」


 事情を聞こえた組合長は、呆れたような声でそう言う。組合長の名はテレサ・シグトニア。二十代前半で組合長になった、若き天才だ。既婚者でもある為、大人の魅力と色香が半端じゃない。背はレイアより頭一つ分高く、髪は燃えるような赤色。すらっとした抜群のプロポーションを持つ。そんなテレサは、ルミアと同じくレイアのことを心配する一人だ。彼女の場合、娘として。


 そんな娘のように思っているレイアを襲撃した理由を聞き出すと、ほとほと呆れた理由しか出てこない。まず、ハワードは、雑魚の分際で自分を上回る才能を持つレイアが憎たらしくて、仕方なかったから。デイビッドは、女なら誰でもよかった。嫌がる少女や女性を強姦し、啼かせて泣かすことが、目的だそうだ。それでカイルは、新人がまさか魔物ではなく、人に殺されると知った時に浮かべる、絶望と恐怖の表情を見るのが、果てしない快楽となるから、だそうだ。


 たったそれだけの理由で、実力的にも他の意味でも将来有望なレイアを殺そうとした。最初聞いている間は怒りしかなかったが、聞いている間にだんだん呆れて怒りすらなくなって、怒る気がなくなってしまった。


 ちらりとレイアを見てみると、身体的にも精神的にも疲弊しきったレイアは、ルミアに膝枕されて穏やかな寝息を立てて眠っていた。そしてその頭を、愛おしそうに優しい手つきで、ルミアが撫でている。一番最初に事情を聴いたルミアは、テレサ以上に取り乱していた。そして、それを返り討ちにしたことを理解し、テレサ以上に安堵した。三ヶ月程度の付き合いとはいえ、ルミアにとってレイアは、可愛くて仕方のない妹同然なのだ。泊まる宿が無いと言われたら、速攻で自分の家に寝泊まりしていいと言う程、溺愛している。


 それ故に、事情を聴き終えた後、シャドウナイトに担がれてぐったりしている三人を見て、今すぐここで殺してしまおうかと、空間上級魔術を発動させようとした。


「新人狩りを始めてから五年間。今までに三十人ほど殺した来た。男性はその場で殺害。女性は自宅に連れて帰り、地下室でひたすら暴行を加えて逆らえないようにし、その後強姦。用済みになったら、生きたまま解剖。……まったく、人のやることではないですよ。流石にこれは、私だけでは対処出来ないわ」


 頭が痛くなってきたのか、眉間を指で押さえるテレサ。カイルたち三人は、一般市民だけではなく、貴族たちからも人気が高い。特にカイルは、女性を引き付ける容姿をしていて、尚且つBランクと実力も高い。よく、貴族たちが娘を嫁にしてくれと、演談を申し込むほどだ。


 そんな彼が、実は新人を殺していた。そんな事実が広まれば、間違いなく騒ぎになる。最悪、レイアを恨んで闇討ちに出てくる貴族も出てくるだろう。なのでそこは情報規制をして、レイアの名前を出さないようにする。他の騒ぎは、もうなるようになれと考えるのを放棄してしまう。何がどうなろうと、レイアの安全を最優先したテレサだった。


 その後、次の日にかいるたちのことが発表された。予想通り、それは凄まじい騒ぎになった。特に女性冒険者や、カイルのことを好いていた貴族の令嬢たちは、何かの間違いだ。再確認をしろと言ってきたが、カイルが証言した場所に大量の白骨遺体が掘り出され、それが動かぬ証拠となった。


 その事実が追って発表されると、女性たちは掌を返したかのような態度となった。貴族たちも将来有望な芽を、自分勝手な理由で摘んでいるカイルたちを許すはずもなく、処罰が下された。その処罰は、生涯奴隷として最も過酷な工業地帯で働かせる、といった内容だった。


 はっきり言えば、死んだほうがマシだと思うほど過酷な場所だが、奴隷化する際に隷属の紋章というものを刻まれ、決して自死に該当するような行動をしてはならないと命令が出されたため、彼らは自害出来なくなった。


 隷属の紋章は、奴隷に刻まれる紋章のことで、一種の契約のような物だ。そしてその紋章を刻まれた奴隷は、契約者から出された命令に逆らえなくなる。仮に逆らおうとしても、死んだほうがいいと思えるくらいの激痛が、体中を走るようになっている。


 そんな紋章を刻まれた三人は、最後の最後まで色々と抵抗したらしいが、権力と紋章による強制力に逆らうことが出来ず、工業地帯送りとなった。

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