3 探索
「んぅ……」
冒険者になるために街に来てから、三ヶ月間寝泊まりしている、値段が安い割にサービスも充実していて部屋も中々いい宿の、少し小さな隅の方にある一室。そのベッドの上で、レイアが小さく身じろぐ。外からは、まだ空は白いというのに、小鳥の囀りが聞こえてくる。
それでも、レイアは寝返りを打って右を向くだけで、起きる気配はない。このまま寝かせると、一日中寝ているのではないかと思う程、起きる気配がない。そこに、大きくはないが、部屋にいるのなら無視出来ないピピピッという音が規則的に鳴る。
「うにゅぅ……」
レイアはその音が煩わしく思ったのか、もう一度寝返りを打って左を向き、そこにある棚の上に置かれている腕輪を手に掴み、ベッドの中に引っ張り込む。その中で、うっすらと目を開け、寝ぼけ眼でその腕輪を見て、赤色のボタンを押す。すると、規則的になっていた音がぴたりと止まる。
音を鳴らしていたのは、腕輪型のタイマーだ。より精密な時間を図るために、多くの技術者たちが挑み、やっとの思いで開発した代物。駆け出しの冒険者は、これを支給品として受け取り、街の外に出て戻ってくるまでの時間を計ったり、水に潜っていられる時間を計ったり、持続型の魔術の持続時間を計ったりしている。レイアは、主に目覚ましとして使っている。時間なら、父親からもらったお古の懐中時計があるし、カナヅチなので泳ぐこともない。持続型の魔術も修得していないので、これ以外に使い道がないのだ。
音を止めた後、数十秒間動かなかったが、もぞもぞと動くと上体を起こす。少しだけ寝癖が付いているが、櫛を通せばすぐに元通りだ。
「ふわぁ……。眠い……」
ワンピースのネグリジェを着たレイアは、大きく欠伸をかましてそう呟く。少しだけ女の子座りのままベッドの上でボーっとしてから降り、閉まっているカーテンを開ける。まだ空が白いのでそれほど眩しくはないけれど、それでも光が差し込んでいることには変わりは無く、多少眠気が飛ぶ。
大きく伸びをした後、『収納出来るんです』の中に仕舞ってある下着やタオルを引っ張り出し、部屋に備え付けられているシャワールームに突入する。着ているネグリジェと下着を脱ぎ、裸になって浴室に入る。
赤い目印の付いている取っ手を捻ると、高い位置にあるシャワーヘッドから温かいお湯が、雨のようにレイアに降りかかる。お湯は膝下まで伸ばした銀髪を濡らし、傷跡のない雪のように白い肌を撫でるように流れて行く。
全身が十分濡れた後、シャンプーで髪の毛をしっかりと洗い、ボディーソープで体を清潔にする。一通りさっぱりした後、扉を開けて脱衣所に出て、タオルで髪の毛と体に付着している水分を丁寧に拭き取る。すっかり目が覚めたようだ。そこから風魔法と炎魔法を応用して温風を発生させ、まだ濡れている髪の毛を綺麗に乾かす。これは、ルミアに教えてもらった、複合型生活魔術だ。
生活魔術は、名前の通り生活に役立つ魔術のことだ。薪に火を付けたり、大きなバケツを水で満たしたり、洗濯物を風を当てて乾かしたり等々。レイアは、風魔術で髪を乾かしていたが、冷たい風なのでどうにかならないかと考えていた。そこでルミアに相談したら、少しコツはいるがそこに炎生活魔術を組み込むことで、温風にする複合型生活魔術を教えて貰ったのだ。使えるようになってから試してみたら、本当に温かくてびっくりしたほどだ。この魔術は、使わない日はないほど、お風呂上がりに愛用している。
髪の毛を乾かした後、可愛らしいフリルとリボンの付いた、青色の下着を身に着けて、脱衣所から出る。かなり無防備な姿だが、部屋には自分しかいないし、鍵もかけてあるので誰も入ってくることはない。防犯面もしっかりしている。
脱衣所から出ると、棚の上に置かれている袋を手に取り、その中に手を突っ込む。出てきたのは、昨日図書館の帰りに服屋に寄り、そこで買った昨日着ていたがボロボロになってしまったため、新しく買い揃えた服だ。他にも、可愛いと思った青と白を基調とした、フリル多めのワンピースも入っている。
どれを着ようかだレイアだが、昨日溶解液の飛沫を浴びてボロボロになってしまったお気に入りの服と、同じものを着ることにした。黒のミニスカートを履き、フリル付きの前開きのブラウスを羽織り、ボタンを留めていく。最後に、タイツが無くなったので、代わりに白のニーソックスを履く。
ブラウスの中に入り込んだ髪の毛は、両手で外に出す。それから洗面所に行き、そこに置いてある櫛で髪の毛を少し整える。ついでに、そこにヘアゴムも置かれており、ツーサイドアップにする。
「よし、完璧っ」
鏡に映る自分の姿を見て、満足そうに微笑むレイア。洗面所から出て、部屋の壁に立ててある自分の身長と同じくらい長い杖を手に取り、鞄をたすき掛けにして両手で頬を軽く叩いてから、扉を開けて外に出る。
朝早いのでまだ誰も外を出歩いておらず、なるべく足音を立てずに廊下を歩いて行く。木組みの宿なので、時折ギシッと音がするのは仕方がない。そろりそろりと歩いて行き、階段を下りていく。
食事処になっている一階に着くと、厨房の方から気配がした。既に、宿主が起きて色々準備をしているのだろう。気を使わせるわけにはいかないので、声を掛けずに外に出ようとする。
「レーイアちゃーん!」
「ふひゃあ!?」
いつの間にか背後に来ていたのか、ここの宿の看板娘が抱き着きながら名前を呼ぶ。いきなりのことだったので、間抜けた声を上げる。
「シェリーさん! いきなり抱き着かないでよ!」
「だって、いつも声掛けずに外に行こうとするんだもん。挨拶くらいして行ってよ。気を使わなくてもいいんだからさ」
シェリーは背後から抱き着いたまま、レイアの頭を撫でる。シャワーを浴びたばかりなので、髪の毛や体から漂い石鹸の香りを、全力で堪能しているようにも見える。頭一つ分ほど慎重さがあるので、誰がどう見ても、仲良しな姉妹だ。
「今日も帰りは遅いの?」
「分からないけど、昨日より少し早いか同じくらいになるかも」
「そっか。いつも言ってるけど、怪我しないように気を付けてよね? レイアちゃんは将来有望な女の子なんだから。それと、服がボロボロになったら、上に大きなものを羽織るんじゃなくて、別の物に着替えた方がいいわよ。昨日なんか、びっくりしたんだから」
昨日、図書館に行く前に一度着替えるために宿に戻って来たのだが、その時にボロボロになった服を見られた。幸い部屋に戻った時に、シェリーが突撃して来たので、シェリー意外には見られていない。
「分かってるよ。念のため、別の服もこの中に仕舞っておいたし」
レイアには少し大きく感じる鞄を、軽く叩きながらそう言う。それを見てシェリーはそっと、優しく微笑む。
「あ、レイアちゃん。はい、これ」
何かを思い出したのか、シェリーは手に持っている風呂敷に包まれたお弁当箱を、レイアに渡す。
「わっ。いつもありがとう!」
差し出されたお弁当を、感謝の気持ちを述べてから、鞄の中に収納する。
「どういたしまして。じゃあ、今日も気を付けて頑張って来てね」
「うん! 行ってきまーす!」
そう元気よく挨拶をすると、シェリーが手を振りながら「行ってらっしゃい」といい、奥の厨房の方から野太い声で「おう! 気ぃ付けろよ!」という声が聞こえてくる。ここの宿主まで、聞こえたようだ。
ちょっぴり恥ずかしく思いながらも、元気よく扉を開けて軽い足取りで組合まで歩いて行く。早朝ということもあり、同業者や朝早くから屋台を出している人以外に、誰も見かけない。太陽が昇り切っていないがゆえに、少々肌寒く感じる。
シェリーからもらったお弁当は、基本サンドイッチだ。それも、朝食用と昼食用の両方を用意してあるので、そこそこ量が多い。しかし、そのどれもにレイアの好きなチーズなどの乳製品が使われているので、必ず完食する。いつも多めに用意されているので、朝食として食べた後、昼食まで水分以外を口にせず、昼食で残ったサンドイッチの六割ほどを平らげ、ある程度腹ごなして動いた後残りを平らげるようにしている。
そのあと戻ってきた後に夕飯も食べるので、太ったりするのではないかと心配したが、ここ三ヶ月の間で体重は増えていない。身長も胸の大きさも変わっていないので、食べた分だけ体を動かしている証拠だ。
「今日は、昨日ベルと話した反省点を意識しながら、立ち回らなくちゃ」
レイアは戦いでは主に魔術を使うが、本来ならば召喚術が一番得意な術だ。魔術師としての実力も伸ばしたいと思っているが故に、召喚術ではなく魔術に重きを置いてしまっている。昨日はそれが原因で、死ぬかと思った。
なので今日は、魔物と遭遇したら騎士精霊のどちらかを召喚するか、その他三種類のどちらかの元素精霊を召喚し、彼らに戦いを任せながら、後方から支援する形で魔術を使う、といった立ち回りをする。例外もあるが、魔術師は基本は前衛職の後方支援をするものだ。
例外というのは、上級魔術を詠唱もせず、かつ即座に発動出来る規格外の化け物魔術師のことを示す。そんな魔術師は、宮廷魔術師として国に仕えるか、上位の冒険者に名を連ねている。特に、魔術師の頂点として名高い、【賢者】の二つ名を持つ魔術師なんか、戦略級魔術を発動させるために必要な長ったらしい詠唱を、中級魔術の詠唱と同じくらいにまで短くして、かつ一〇〇%の威力を発揮させることが出来る。
魔術師の端くれでもあるので、自分もそう出来ればいいなと考えるが、レイアは魔術師ではなく召喚術師だ。相当努力すれば、ある程度詠唱分を切り詰めることは可能だろうけれど、【賢者】みたいな芸当は不可能だろう。ならば、召喚術師なら召喚術師らしい方法で、高みに至ればいい。
そんな結論に至ったレイアは、意気込んで軽く走りながら組合へと向かって行く。
♢
組合から探索許可証と呼ばれるものを発行してもらったレイアは、早速街の外に出ていた。外に出てすぐ、戦えるようにとアークナイトを二体召喚済みだ。そのうちの一体の、肩の上に腰を掛けて、遠くを見渡している。ちなみに、朝食は摂取済みだ。
アークナイトは、左手に塔楯を持ち、その裏に片手剣が収められている。体格はシャドウナイトと変わらないので、片手剣といっても大剣並みに大きいのだが。
昨日は真っ黒い全身鎧の騎士だったので、何も知らなければ危険だと思われる。しかし、今日召喚しているアークナイトは、全身白銀の鎧で覆われている。体の大きさは、シャドウナイトと変わらない。けど、雰囲気は全然違う。白銀鎧に身を包んでいるからか、肩に乗っているレイアと一緒に見ると、お姫様を護衛している騎士のように見える。
昨日も、シャドウナイトではなくアークナイトを召喚しておけばよかったと、若干後悔するレイア。でも過ぎたことは仕方がないと割り切り、杖を両手で構えて索敵を開始する。
今いる場所は、高い木々が聳え立つ森の中だ。いくら高い場所から目視で索敵していても、見えないところに隠れられていると、奇襲に対応出来ないかもしれない。そうならないために、冒険者になってすぐ索敵魔術を覚えた。
今のところ半径五十メートル行くか行かないかしか索敵出来ないが、使えないよりはマシだ。
「……索敵出来る範囲には、魔物はいないかな。もう少し広ければ、反応はあったかもしれないけど」
索敵範囲内に魔物の反応がないのを確認すると、アークナイトたちに指示を出して進ませる。いちいち立ち止まらせるのも面倒なので、反応があるまでは索敵魔術を発動し続けることにする。攻撃用の魔術ではないので、消費する魔力量は生活魔術並みに少ない。本当に便利だ。
アークナイトの肩に座り、脚をプラプラ揺らしながらも、周囲を警戒する。鞄の中から水筒を取り出して、一口だけ口に含むと同時に、広げていた索敵に反応があった。口に含んだ水を飲み下し、水筒を鞄の中に仕舞って、アークナイトの肩から飛び降りる。
そのすぐあと、周囲の草むらからがさがさと音がする。索敵魔術を解除し、意識を戦闘に切り替える。草むらから出てきたのは、赤い毛並みの犬の顔を持った、亜人型の魔物、コボルトだ。初級の魔物に部類されており、そのランキング相応の強さしかない。しかし、集団で行動する習性がある為、結構厄介だ。駆け出しや新人冒険者は、数の多さに圧倒されて殺されてしまうケースが少なくない。
出てきたコボルトの数は、およそ二十体。
「多すぎないかな!?」
索敵に反応があった時点で解除したことを若干後悔しつつも、杖を構えて詠唱の準備に入る。コボルトはというと、相手がか弱い少女と分かった途端、雄たけびを上げる。コボルトは、人の肉を好むのだ。特に、若い女性の柔らかい肉が。
小柄なので二十体全てが食べられる訳ではないが、それでも極上の肉を食べられると喜んでいる。相手は少女一人と、妙に体のデカい剣士が二人。数の暴力に、敵うはずがない。そう思って襲い掛かるが、いつの間に目の前に移動していた、アークナイトの塔楯によるシールドバッシュをもろに喰らい、三体のコボルトが吹っ飛ばされ、絶命して魔石を残して灰となる。
いきなり仲間が三体のやられたコボルトは、一瞬呆けると怒りの雄たけびを上げて、一斉に襲い掛かる。
『燃ゆる大地、飛来せし騎士の剣。我が敵を斬り殺せ』
【魔術:灰燼の剣】
発動させた炎初級魔術。レイアの周囲に五つの魔術法陣が出現し、そこから炎の剣が姿を現す。この魔術は、多数対一のときに有効な魔術で、【魔術:雷槍】に次いで威力が高い。欠点は、水場では使用出来ないことと、これを操作している間、術者であるレイアは動くことが出来ないことなどが挙げられる。
その弱点を補うため、アークナイトを召喚したのだ。相手をこちらに来させないことと、討伐することという指示を出し、五本の炎の剣を操作する。アークナイトは塔楯の裏に納められている剣を抜き、飛びかかって来たコボルトを斬り伏せる。もう一体のアークナイトは、抜剣しながらも塔楯でも攻撃を仕掛けている。
カウンターが得意なだけあって、斬撃はともかくシールドバッシュは強烈だ。命中するたびに、鈍い音が森に響く。
レイアは五本の炎の剣を、巧みに操作して斬り伏せるか、心臓を貫いている。防御はアークナイトがしてくれるので、攻撃に集中出来る。ただ、五本同時に操作すると、集中力が乱れてくる。五本の剣を収束させ、一本の大剣にして一気に斬り払った後、魔術を解除する。
『雷精の雷よ、一条の槍となりて、刺し穿て』
【魔術:雷槍】
杖の先端をコボルトに向け、素早く詠唱を唱えて魔術を発動させる。一条の雷槍が、一直線にコボルトに飛んでいき、まとめて二体の頭を貫通する。
コボルトたちは、自分たちが圧倒的優位な位置にいたはずなのに、どうして追い詰められているのかが理解出来ていなかった。ただ理解できるのは、このまま相対していると、間違いなく全滅させられるということだけ。
全滅だけは避けるべきだ。そう本能で理解したコボルトたちは、逃げの姿勢を見せ始める。
『凍てつく大地。氷の姫は、あなたを決して放しはしない』
【魔術:氷結姫の抱擁】
逃がすまいと素早く詠唱を唱えたレイアは、氷初級拘束系魔術を発動。冷気が背を見せ始めたコボルトたちに襲い掛かり、表面だけが凍り付く。【魔術:氷結姫の抱擁】。その名の通り、包み込むように氷結させて、動けなくする魔術だ。
なぜ動けないのか。それを理解出来ないコボルトたちは、アークナイトたちの剣で確実に斬り殺されていく。
一方でレイアは、結構広範囲に広がるようなイメージをしていたので、ちゃんと全部に当たるかどうかが心配だった。なので、逃げようとしていたコボルトが凍り付いたのを確認して、ほっと安堵のため息を吐いた。
「ふぅ……。数は多かったけど、問題は無し。やっぱ、ダンジョンの魔物がおかしいだけだ」
特に苦戦することもなく、魔物を討伐。昨日のあの恐怖を思い出し、体をぶるりと震わせる。魔素の量や大気中の魔力濃度が違うだけで、力が変わってくる。原理は魔力の恩恵をいかに強く受けているか、だ。
魔力濃度や魔素の量が違うだけで、魔物や植物などが受ける恩恵の強さが、変化してくる。それらの濃度が濃いと、強く恩恵を受ける力も段違いだ。対して濃度が低いと、恩恵も弱い。ダンジョンの外は、魔力や魔素が集まる魔力地帯と呼ばれる場所以外は、生息する魔物はダンジョンの魔物より弱い。それでも、上級魔物や最上級災害指定されている魔物となると、やはり差はあるものの及ぼす被害は変わりない。
いつになったらそんな化け物を倒せるのだろうと、魔石を拾いながらふと思った。すると、右の草むらからまたがさりと音がした。魔石を集める手を止めて、杖を構えてアークナイトを呼び寄せると、そこから出てきたのはレイアより少し体の小さい、緑色の肌をした醜悪な顔をした魔物だった。スライムに続いて、新人冒険者によく狩られる魔物、ゴブリンだ。
ゴブリンは、コボルトと同じで集団行動する。魔石はコボルトのより小さいが、数は倍近くいる。そのゴブリンを見たレイアは、盛大に顔を引き攣らせる。何故なら、ゴブリンは人の体に豚の顔を持つオークと同じで、若い女性を襲い、子を孕むまで犯す。
しかも一体に侵されるのではなく、他の個体も犯してくる。いわゆる、輪姦だ。それに、数が多いので一度でも捕まれば一日中そのままだ。なので、若い女性は一度でも捕まって種の苗床にされれば、その時点で精神崩壊確定だ。その為、この二種は女性冒険者の間で最も嫌われている魔物だ。
レイアもそれらを嫌っている一人である。だから、顔を引き攣らせたのだ。一方ゴブリンたちは、レイアの姿を視界に収めると、もともと醜悪な顔を更に醜悪に歪ませる。身の危険と同時に、貞操の危険も感じる。直後、シャドウナイトが自動召喚される。追加で、アークナイトももう一体出てきた。そのアークナイトは、レイアの身を守るように前に立つ。
レイアは、どうして身の危険を感じると騎士精霊が自動召喚されるのか、不思議に思っている。他の召喚術師たちも同じことを考えており、これは一生の謎である。実は、騎士精霊は主である契約者を王と認識しており、その王を守るのが騎士の役目。なので、王が身の危険を感じれば、例え召喚されていなくとも御身を守るために馳せ参じるのだ。これが、騎士精霊の自動召喚の原理である。これを知るのは、誰もいない。
「「「「「ギギャアアアアアアアア!!」」」」」
ゴブリンたちは、邪魔をするなと言わんばかりの雄たけびを上げて、先に障害を排除すべく騎士精霊たちに襲い掛かる。しかし、その場にいる四体の騎士精霊たちは、レイアに危険を感じさせた悪を排除するために、それぞれの得物を構え、迎え撃つ。
彼我の実力に大きな隔たりがあるので、例え数で押し寄せても一振りされるだけで、その命を儚く散らす。結局、五分足らずでゴブリンたちは殲滅された。レイアは、自分も戦おうと杖を構えていたが、前方に立つ三体の騎士精霊たちが一方的に蹂躙して行き、辛うじて抜け出して来たゴブリンも守護するように立っているアークナイトの一撃で、蹴散らされていた。まさしく、守られるお姫様のように、何もすることなく終わった。
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