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1 帰還からの説教

「さっきの冒険者たち、凄かったね~。レイアが召喚術師だと知った途端、少ししつこいくらいにパーティーに勧誘してきてさ」


「召喚術師は数が少ないし、珍しいんだよ。それに、数の不利を補うことが出来るんだしさ」


 ダンジョンから無事脱出したレイアは、もう歩けるようになったのでシャドウナイトから飛び降り、送還せず背後の警戒に当たらせている。これで、万が一奇襲を受けても、即座にシャドウナイトが倒してくれる。それに、勧誘して来た冒険者たちに召喚術師であることを証明するために召喚した、風精霊シルフィードもいる。名前をベルという。


 騎士精霊と違い自然の精霊は、自我と意思を持っている。その為、新人冒険者で友達のいないレイアにとって、大切な友人と話し相手となっている。ベルは冒険者になる前に住んでいた村の近くの森にいた精霊で、幼いころから精霊を見ることの出来たレイアととても仲がいい。


 それで召喚術師としての才能があると分かったら、レイアは真っ先にベルと契約を交わした。その当時レイアは七歳だった。今は十四歳なので、七年間も契約を交わし続けている。おかげで、手持ちの精霊の中では一番力が強い。


 体の大きさは掌サイズで、緑の服を着ている可愛らしい女の子だ。今は、頭の上にちょこんと座っている。


「それにしても、ボクを勧誘していた男の人、仲間の女の人に冷たい目で見られていたね」


「そりゃ、レイアはまだ十四歳で、見た目も幼いんだから。そんな女の子を、必死に何かで釣るように勧誘するんだから、そういう目で見られても仕方ないと思うよ?」


 レイアは十四歳。それに対して勧誘して来た男性冒険者は、二十代半ば。何も知らない人が見れば、幼気いたいけな少女を何かで釣りながら連れて行こうとしている、危ない人と見られるだろう。ちなみに、その男性は後々仲間からロリコンと呼ばれることとなる。


 レイアの身長は百四十二センチと小柄で、それでいながらも歳不相応なスタイルを持っている。膝裏より更に少し下まで伸ばしている銀髪は、一本一本が上質な絹糸のようで全く癖がない。顔立ちは十四歳の少女らしくとても幼く、ぱっちりと大きく活発そうな印象を受ける深紅の瞳。前髪が長く右目が隠れているが、こちらも同じ深紅の瞳だ。


 服装は、上は白を基調としたフリル付きの前開きのブラウスで、下は黒のレース付きのミニスカート。脚は露出を隠すために黒のストッキングをはいており、靴は踵が少し高い白と黒を基調としたブーツだ。それらを着るレイアは非常に可愛らしく見えるが、今はその服はキラーサーペントの溶解液のせいで所々溶けて肌が見えている。


 下着までは見えていないが、健康的な雪のように白い肌が溶けた場所から覗いているので、下手な格好より少々扇情的に感じる。特にスカートの被害が大きく、とても際どい上に、追いうちにボロボロのストッキングだ。ロリコンでなくとも、欲望に忠実な男だったら襲い掛かってくるかもしれない。


「レイア。街に戻る前に、何か上に羽織った方がいいと思うよ?」


「そうだね……。この服気に入ってたのに……」


 お気に入りの服がボロボロになってしまい、見るからに落ち込むレイア。その頭を、小さな手で優しく撫でるベル。見た目こそレイアより幼いが、年齢は数百歳と気が遠くなるくらい長生きしている。ベルにとってレイアは可愛い妹で、レイアにとってベルは頼れる姉といった関係だ。


 今は契約を交わしている為、互いに名前呼びだが、契約する前はベルのことをベルお姉ちゃんと呼んでいた。精霊の間ではきょうだい関係といったものは無いに等しいのだが、ベルは可愛い妹が欲しいと思っていた。そこに当時五歳だったレイアが来て、お姉ちゃんと慕ってくれた。その時の喜びは、忘れようもない。


 『収納出来るんです』からぶかぶかのローブを取り出し、それを上に着る。本当にぶかぶかなので、手が指先以外隠れてしまっている。それを見たベルは、胸をときめかせる。ローブの色は地味だが、サイズが全く合っていないぶかぶかローブは、まるで兄のお古の物を着ている妹のように見える。そこに萌え袖だ。今でも可愛い妹のように思っているベルにとって、破壊力が高過ぎた。


 頭の上で悶えているベルに気付いていないレイアは、少し沈んだ気分のまま歩き出す。その背後には、いつの間にか魔物が襲撃して来たのか、血がべっとりと着いた大剣を右手にそこそこ大きな魔石と素材を左手に持ったシャドウナイトが追随する。素材とは、魔物を倒す際一定確率で魔物の体の一部が灰にならず残った物のことを示す。武器や防具にするのも良し。換金するのも良し。主に換金される運命にあるのだが。


 レイアはシャドウナイトを召喚時、剣を抜いて周囲を警戒、魔物が襲撃して来たらそれを討伐し、出来れば魔石と素材を回収するようにと指示を出している。その指示に忠実に従ったシャドウナイトは、気付かない内に襲撃した来た魔物を一撃で討伐し、魔石を回収。そして、剣を仕舞わず、そのまま後を付いてきている。傍から見ればホラーだ。


 もうすぐ街というところで、一度送還しようと振り返った時、結構な数の魔物が奇襲を仕掛けていたので、大剣以外にも体中に返り血がべっとりと着いたシャドウナイトを見て、自分の精霊なのに戦慄を感じた。今度からは魔物を倒すたびに剣を仕舞わせるようにし、細かく背後を気にして返り血が酷くなってきたら、送還するようにした。



 ♢



 シャドウナイトが討伐して集めた魔石全てを『収納出来るんです』の中に仕舞ってある大きな革袋の中に仕舞い、その革袋を中に仕舞った後シャドウナイトを送還し、門番に冒険者カードを提示し街の中に入る。昼時はとっくのとうに過ぎているのだが、それでも大通りは人でごった返している。


 人と人の間をすり抜けるように歩いているが、それでもどうしても何回かぶつかってしまう。この街は貿易が非常に盛んで、王都並みに規模が大きい。観光地でもある為、年中人が多いのだ。


 何回もぶつかりながら歩くこと約十二分。ようやく冒険者組合に到着する。扉を開けて中に入ると、そこには多くの冒険者が集まっている。依頼が貼られている依頼掲示板の前、依頼書を持って許可証を発行してもらう受付前、集めた魔石や素材を換金する換金所前などに集まっている。


 他には、入って左側には酒場があり、そこにも多く集まっている。昼間からお酒を飲んでいたり、遅めの昼食を取っていたり、作戦を練っていたり、女性ウェイトレスに手を出そうとして強烈なビンタを喰らっていたり。とても賑やかだ。


 そんな組合のロビーを、レイアは速足で歩いて行く。服装は目立たないが、組合の扉を開けて中に入ると、当たり前だが大体誰でも視線を向けられる。女性冒険者だと、視線が集中しやすい。特にレイアはまだまだ幼く、綺麗というより庇護欲を掻き立てられる可愛さを持っている。それに加えて、珍しい銀髪に、更に珍しい召喚術の使い手。三ヶ月経った今でも、注目されている。


「お、レイアちゃんが帰って来た」


「いつ見ても可愛いよな~。十四歳ってのが惜しいな」


「せめて十五、六歳だったら声掛けてたのに」


「パーティーに誘うだけなら、いいんじゃないか?」


「俺、この間パーティーに誘ったんだけど、断られたぞ。地味に警戒されてショックだった……」


 男性冒険者たちはレイアのことを見ながらそんな会話をし、


「今日はベルちゃんをんでいるのね」


「やっぱ可愛いな~。本当、人形みたい」


「私も、あんな妹が欲しかったな~」


「まだ十四歳なのに、あのスタイルって、なんだか納得いかないんだけど……」


「よく酒場で、牛乳飲んでるの見掛けるよ? それが原因じゃない?」


 女性冒険者は羨望の眼差しを向けながらそんな会話をする。ある程度その視線に慣れてきたとはいえ、まだ注目されることに慣れておらず、恥ずかしくなったのか頬を少し赤く染めて、歩く速度を少し上げて換金所へ行く。


 その間、頭の上にいるベルは男性冒険者たちに鋭い目つきで睨み付けるが、威圧感が全くなく、ただ微笑ましさが増すだけだった。


「ルミアさん」


 換金所に着くと、この時間帯はあまり人が来ないのか、暇そうにしている女性組合員に声を掛ける。ルミアと呼ばれた女性は、顔を上げてレイアの顔を確認すると、嬉しそうなというより安心し切った表情になる。


「レイアちゃん! よかった、無事に帰ってこれたのね!」


「ルミアさん、ボクが登録した時から毎日同じこと言ってるよ?」


「君みたいな小さくて可愛い女の子が冒険者するんだもの。心配しない訳無いじゃない! ホントによかったぁ……」


 ルミアは三か月前、十四歳の幼気なレイアが換金所に来た時から、とにかく心配で心配で仕方なかったのだ。駆け出しの頃に比べればある程度大丈夫になってきたようだが、それでも十四歳の少女だし、まだまだ新人冒険者だ。一人前になるまで、ずっと心配し続けるだろう。


「可愛いって言ってくれるのは嬉しいけど、小さいは余計だよ……。少しコンプレックスに思ってるんだから……」


 レイアは年齢の割には背が低いことを、よく気にしている。冒険者になる前に住んでいた街にいた、同い年の女の子は、十四歳の女の子の平均よりやや高い身長を持っていた。他にも、仲のいい女の子たちは全員、身長が高かった。


 馬鹿にされることは無かったが、とにかく妹のような扱いを受け続けたので、コンプレックスとなっている。ベルだけは別だ。あと、実家にいる五歳年上の実姉も。


「今日はどうだった?」


「いつもより多いかも。街に戻って来るまでの間、シャドウナイトが片っ端から倒してたみたいで、魔石と素材がたくさんあるよ」


 大量の返り血を浴び、大剣にも血がべったりついたあの黒騎士の姿を思い出し、体を震わせるレイア。人気のないところで振り返っておいてよかったと、今更ながら思った。


 とりあえず鞄の中から魔石と素材が詰まった革袋を取り出し、それらをルミアに渡す。確かに結構な数の魔石が入っているようで、ルミアは目を丸くする。


 差し出されたその袋を受け取り、一度奥の方に消えていく。奥の部屋に入ったのを確認したレイアは、ここでダンジョンに潜った時に得たキラーサーペントの魔石と牙も、あの中に入っていることを思い出す。もう後戻り出来ないので、もう大人しく叱られようと覚悟を決める。


 少しして、お金の詰まった袋を二つ持ってルミアが出てくるが、その顔は静かに怒っているのが伺える。


「はい、今日は四一五〇〇リルよ。確かに、普段より一〇〇〇〇リル多いわね」


 お金の詰まった袋を差し出しながら、一〇〇〇〇リルの所を妙に強調する。びくりと体を震わせるレイア。


「びっくりしたわよ。あんなにたくさん魔石と素材があるんだもの。さぞ、レイアちゃんのシャドウナイトは優秀なのね。それも、ダンジョンの魔物を倒しちゃうくらいに」


 ダンジョンの魔物の部分だけを強調し、そう言う。体を小さくカタカタと震わせ始める。顔も、少し青褪めている。


「一つだけ妙に良質で、大きい魔石があったから、何の魔石か鑑定してみたらあらびっくり。キラーサーペントって鑑定が出たのよ。素材も一緒に入ってて、牙の大きさからするに七、八メートルくらいってのも分かったわ。小さなレイアちゃんを、一口で丸呑み出来るくらいの大きさだったわ」


 実際、召喚したシャドウナイトの倍以上はあるであろう巨体ではあった。しかし、それはまだ成体になる途中段階で、成体になると小さくても二十メートル。大きいものだと六十メートルの巨体になる。まだまだ小さいとはいえ、小柄なレイアだったら文字通り一口で丸呑み込みされる。


 普通だったら、そんなことを言われたらそっちの方に恐怖を感じるのだがレイアは、ルミアの方に恐怖を感じていた。顔を俯かせていたので、ちらりと顔を伺ってみると、口元はにっこりと笑っているのだが、目だけが一切笑っていなかった。


「ひっ……」


 その顔を見て血の気が引いたのか、更に顔を青褪めさせ、小さく声を上げて一歩二歩と無意識の内に下がってしまう。そして三歩目に入ろうとしたとき、背中が何かにぶつかる。その何かは既に分かっている。カウンターの向こうにいたはずのルミアの姿が、いつの間にか消えている。


 恐る恐る振り返ってみると、そこには今度は目もしっかりと笑っているルミアがいた。しかし、謎の凄まじい威圧感を感じた。頭の中で、謎の警鐘が鳴っている。逃げようと一歩踏み出そうとしたとき、両方の肩にそっと手が置かれる。


 本当にそっと置かれただけなのに、体が跳ね上がるくらいびくりと震わせる。ギギギと音が鳴りそうなほどゆっくりと振り返ると、変わらず笑顔のルミア。それを見てレイアは、頬を引きつらせながら笑みを浮かべる。


 ルミアの顔が、耳元まで移動する。逃げたくても、肩を捕まれてて逃げられない。しっかり叱られようと覚悟を決めたはずなのに、本能が逃げろと訴えてくる。だが逃げ道は無い。


「なんで、言いつけを破ったのか、根掘り葉掘り聞かせてもらおうかしら?」


 そう、耳元で囁くルミア。


「ご、ごめんなさいーーー!!」


 涙目になって謝るが、時既に遅し。脇にひょいと抱えられ、カウンターの奥にある換金室の隣にある応接室に連行されていく。そこでレイアは、ルミアの言いつけを破った訳を話し、こってり二時間説教を受けることとなった。

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