16 遠征、一日目の終了
掃討作戦を開始してから時間が過ぎ、太陽は西へと傾き、空は茜色に染まっている。既に多くの冒険者たちが戻ってきており、その日の戦利品について話している。同行している組合員は冒険者の顔や名前を確認し、しっかりと戻って来ているのをチェックしているが、その中でまだ戻ってきていない冒険者がいることに、不安を覚えていた。
「ジェーン・リアリス、リーリス・ティアベルト、カエデ・イザヨイ、リリアナ・ブリストル、ルーシー・フリーナ、そしてレイア・エヴァンデール。この六名がまだ戻ってこないわね」
「リアリスさんたちはともかく、エヴァンデールさんがとても心配だわ。ルミアから聞いた話だと、まだ十四歳でDランクになって間もないみたいだし」
そう、レイアたちだ。戻ってきていない冒険者は、この六人だけなのだ。ジェーンたちであればCランクの実力者なので、あまり心配せずとも戻ってくるだろう。しかし、まだDランクになったばかりの十四歳の美少女、レイアは物凄く心配だ。
休憩時間の時に何回か見掛けたが、とても可愛らしく母性本能やら保護欲やらを掻き立てられる仕草をしていた。あの無邪気な顔も、ぱっちりと大きな深紅の瞳も、見ているだけでまだ汚れの知らない純粋な少女だと分かってしまう。まるで自分の娘を見ている母親のような気分になった。
普段からルミアがレイアが可愛いだのどうのと言ってきていたが、今になって本当によく分かる。娘、もしくは妹のように可愛く思う。それと同時に、そう思ってしまうからこそ心配になってしまう。
なかなか帰ってこない六人に、組合員、およびレイアファンが不安を募らせていく。女性組合員は落ち着きなくそわそわしていると、少しだけ冒険者たちがざわついた。何だと思ってみてみると、そこにはジェーンたちがいた。
「いやー、まさかここまで長引くとは思っていなかったわ。でも、あれだけ倒せたから、結構すっきりしたわね」
「それには同意するけど、明日からはもっと慎重に行こう……。一週間もあんなにやったら、体が持たないわ」
「今日だけで魔力回復薬を六つ……。この調子だと、五日目くらいに無くなりそう……」
「後でお願いして補充してもらえば? 私はとにかく、もう休みたい……。汗も掻いたし……」
「そうね……。近くに割と大きな沢があるみたいだし、あとでそこに行って水浴びでもしましょう」
彼女たち五人は、疲労の浮かんだ顔をしながら、ゆっくりとした足取りでやってくる。その五人を見た組合員たちは、サッと顔を青くする。考えたくもないことが、頭を過ったから。
「リアリスさん」
「あ、遅くなってすみません。ただいま帰還しました」
「そ、そんなことより、エヴァンデールさんは……?」
割と死ぬ気で戦ってきて帰還したというのに、そんなことと言われて眉を顰め顰めるが、心配そうに周囲を見回しながらレイアのことを聞いてきた。
あぁ、と五人は納得し、顔を合わせて苦笑いを浮かべる。その反応に、一応無事ではあることは分かったが、どうなっているのかが非常に気になるので、不安が徐々に募って行く。すると、小さな、足音が聞こえてきた。それも、複数。
その足音は、森の方からやってくる。まさか、魔物の襲撃か!? と組合員は思い、冒険者たちに指示を出そうとする。姿を現した瞬間に指示を出して、殲滅させてやると言わんばかりの目で音のする方を睨んでいると、そこから一体の三メートル近い巨体をした真っ黒い鎧をした騎士が姿を現した。その手には、大きな袋が握られている。
いきなりの騎士の登場で動揺していると、次々と同じ姿をした騎士と、白銀色の鎧を纏った騎士が現れる。総じて、その手にはパンパンに膨れ上がった袋が握られている。
「んに~!! なにこれ、重すぎ! なんで私まで運ばなきゃいけないのよ!?」
今度はそこに、手の平サイズの緑色の服を着た、小さな女の子がやって来た。それは馴染みのある、風精霊シルフィード、ベルだ。その手には、騎士たちが持っている物ほどではないが、大きく膨れ上がっている袋を持っている。その姿を見た組合員たちは、ほっと息を吐く。ベルがいると言うことは、契約主であるレイアは無事であることと同義であるからだ。
どしどしと足音を立てて騎士精霊たちが戻ってくるのを見ていると、最後に白銀色の騎士の肩に腰を下ろしているレイアの姿が見え、長い長い安堵の溜め息を吐く。一方でレイアファンたちは、アークナイトの肩に座っているレイアを見て、貴族のお嬢様のように見えていた。
「あぁ、無事だったんですね……」
「そりゃ、あれだけ大量に騎士精霊召喚しているんですから、無事ですよ。まあ、レイアちゃん本人は、途中でドジして軽い怪我してたけど」
肩に乗っている理由は、戻ってくる途中また大量の魔物に襲撃され、もう戦う気力がないため走って逃げだしたのだ。その途中で、レイアが足を捻って転んでしまった。チャンスだと思った魔物は当然襲い掛かるが、自動迎撃機能が起動して自動召喚されて蹴散らした。その間に、一緒に召喚されたアークナイトの肩に乗り、そのまま逃げだしたのだ。
「軽い怪我、ですか?」
「はい。と言っても、軽く足首捻った程度なので、後でリリアナが回復魔術かけて治しますよ。本人も使えるから、いらないと思いますけど」
とはいえ、レイアにはもうあまり魔力が残っていないので、あとでリリアナに治してもらう。アークナイトの肩から降りたレイアは、持っている杖を支えにして少しだけ引きずりながらやってくる。
「えと……、レイア・エヴァンデール、ただいま帰還しました!」
一瞬なんて言えばいいのか分からなかったのか、少しだけ目を彷徨わせた後、少し大きな声で帰還を宣言する。それを見た組合員たちは、妙にほっこりとした気分になった。何がともあれ全員無事に帰還したことが確認され、本日の掃討作戦は終了する。
作戦終了後は、みんなが待ちかねた夕食タイムだ。食材はたっぷりと持ち込まれているので、この場で料理する。本当なら料理をすれば魔物が寄ってくるのだが、レイアが魔力回復薬を飲んで、少し無理をして騎士精霊を最大数召喚したため、料理しなかったら絶対に余るであろう食材を有効活用出来る。現在の最大数は、六十七体だ。
料理は女性冒険者の本分なので、いつの間にかセットされた調理台に、料理の出来る女性冒険者が集まる。そこには、レイアの姿もある。捻挫はリリアナの回復魔術によって治されている。
「あれ? レイアちゃんも料理出来るの?」
同じく料理の出来るリリアナが、小首を傾げながらそう訊ねる。
「出来ますよ。村にいる時にお母さんから仕込まれたので。それに、お料理は半ば趣味みたいなものなんです」
女なら将来のために、美味しい料理を作れなければ見捨てられる! と豪語していた母親のミリアから、五歳ごろから料理を仕込まれた。最初は指を切ったり、お湯を吹き零したり、料理を焦がしたり、お皿を割ったりと散々だったが、練習するにつれて上達して行き、美味しい物を作れば家族が喜んでくれる喜びから、料理が好きになり趣味にもなった。なお、五歳年上の姉と父親のアルバートは、エプロン姿のレイアを見て悶えていた。
自炊することを想定して持ってきたが、昼食は大体シェリーが用意してくれるので、今まで全く出番のなかったお気に入りの水色のエプロンを着たレイアは、早速準備に取り掛かる。料理をすると言っても、あまり匂いのあるものは作れない。
どんな料理を作ろうかと少し議論し、ホワイトシチューやサンドイッチなど手軽に食べられて、かつ満足できる料理にすることにした。何を作るのか決まれば、調理台に立つ女性たち料理人の行動は早い。
包丁で野菜や鶏肉を食べやすいサイズに切って行き、寸胴鍋に水生活魔術でいっぱいまで水で満たし、加熱用魔道具を起動させてその上に寸胴鍋を置き、沸騰させる。
その間にじゃがいもは食べやすい大きさに切られ、人参は乱切りに。玉ねぎはくし形に切られる。鶏肉は一口大に切られ、塩で下味をつけた後、加熱されたフライパンの上にばらまかれ、焼き色を付けられる。
他には、大きな鍋に東洋のライスを入れ、水でしっかりと研いだ後水に浸し、蓋をして過熱を始める。鮮度のある瑞々しい野菜を千切り、輪切りにされ、サンドイッチ用のパンにはさまれる。
料理している時の女性たちはとても生き生きとしていて、男性冒険者たちは少し眩しそうに見ていた。その中で一番注目されていたのが、当然なのかどうかは知らないが、レイアだ。大人しくも可愛らしくよく似合っている水色のエプロンを着て、長い銀髪がポニーテールに纏め上げられ、普段は隠れている右目が露わになり、楽しそうな表情で鼻歌を歌いながら料理している。それがまた非常に可愛らしく、将来絶対にいいお嫁さんになるであると、全員が思った。
それからしばらく、まだかまだかと料理を待ち続ける冒険者たちは、その場に漂ういい匂いに空腹を刺激される。そして、
「さあ、ご飯が出来たわよー!」
腹を空かせた冒険者たちにとっての幅員が、耳に届いた。器などを持った冒険者がわっと集まって来て、出来た料理をよそって行く。この時料理を作っていた女性たちは、いち早く抜け出して列に並んでいる。そこまでやるつもりはなかった。
美女、美少女にご飯をよそってもらえることを期待していた男性冒険者たちは、少しがっかりしながらも、どのみち美女、美少女が作った料理なので気を取り直す。かなり大量に作られているので、どんどん皿や容器に盛っていく。
「もっと色々作りたかったけど、あらかじめ用意された分しかないから、仕方ないわね」
おそらくこの中で一番レパートリーが多いであろうリーリスが、あまり本領を発揮できなかったと少し苦笑するが、みな凄まじい勢いで食べているので大丈夫だろうと、自分の分の夕飯を食べ始める。
最初にホワイトシチューと口に運ぶと、程よいとろみにまろやかな味わいに満足する。ホワイトシチューは、リーリスの得意料理なのだ。ちなみにリーリスもレイアと同じで、将来結婚した時に料理が出来ておかないとダメだと、料理人の父親に教えられたのだ。元々料理を見ているのが好きだったし、ごっこ遊びでもやっていたので、実際に教えられて作るようになった時は、本当に楽しかったことを覚えている。
もし冒険者を続けることが出来なくなったら、本格的に料理人になろうかと考える。
「本当、リーリスって料理上手よねぇ。どうして冒険者になったのよ?」
隣でサンドイッチをもぐもぐと頬張っているルーシーがそう質問する。実際、店を出せるレベルで美味しいのだ。上手く行けば、冒険者より稼げるだろう。なぜ冒険者になったのか、昔から何度も疑問に思っていた。
「それ、ボクも思いました。こんなに上手なら、料理人になった方が良かったと思います」
レイアも絶対そうした方が良かっただろうと思ったのか、リーリスに同意する。
「まあ、冒険者に憧れてってのが殆んどね。昔から冒険譚とか、そういったのを読むのが好きで、私も冒険譚に出てくる英雄のようになりたいって思ったのよ。後は、レイアちゃんと同じように、親への仕送り。冒険者は、上手く軌道に乗ることが出来ると他の職に比べると、凄い稼げるでしょ? うちは貧乏ってほどでもないけど、他と比べるとささやかな生活しかしていなかったしね。レイアちゃんと同じように、親を少し贅沢させたくってね」
前半は多くの冒険者と共通していることだ。レイアも親への仕送りが殆んどの理由だが、少なからず物語に憧れているところもある。
「確かに冒険者は憧れでもあるけど、よく親が許可したわね?」
「最後の最後まで反対してたけどね。何とか説得して、少し無理矢理納得させた感じ」
「やっぱリーリスもそうなのね。私もよ」
「私は大丈夫だったけどね。むしろ喜ばれたわ」
最後まで親が反対して、無理矢理納得させたことに関しては、カエデ以外全員同じだった。カエデの場合、東洋の剣士なので力を付けたら家を出る決まりがあるそうだ。東洋の剣士はよく分からない。
「レイアちゃんなんか、大変だったでしょ?」
「そうですね。お父さんとお母さん、それに五歳上のお姉ちゃんも止めておけって言ってきて。猛反対って訳じゃないですけど、割と最後まで粘っていました。仕送りと一緒にお手紙も送るようにするという条件付きで、納得させましたけど」
「典型的な親バカ……って訳でもないわね。それが普通だと思うもの」
六人とも、冒険者になると言った時の親の話をしあって、最初の場を盛り上げる。途中まで中々盛り上がっていたが、途中からカエデが付いてこれなくなってしまい、急いで話題を転換した。次の話題は、ガールズトークでありがちな恋バナになった。
今度はレイアが付いてこれなかった。村にいた頃も、どちらかというと同い年の女のことしか遊んでいなかったし、本人の知らないところでアルバートが村の男子たちが、レイアに近寄らないようにしていたことが原因だ。結果的にこの手の話に滅法弱くなった。
いきなりそんな話を振られたレイアは、顔を真っ赤にしてあわあわと慌てだし、リーリスたち五人は嗜虐心をくすぐられ、集中砲火を浴びせた。湯気が出そうなほど真っ赤になり、目尻に涙をうっすらと浮かべた辺りで、すかさず話題転換。こんな具合に話がころころ変わって行き、恥ずかしさや僅かな怒りの行き場がなくなり、レイアは頬を膨らませた。
そんなこんなで食事を楽しんだ後、今度はその場にいる女性全員が今一番したいであろうことを、ベルがぽつりと口にした。
「そういえば、さっき上から魔物を探している時に、綺麗で割と大きな泉を見つけたんだけど、そこで水浴びしに行かない?」
その言葉に、聞こえた女性たちはバッ! と振り返り、一気に向けられた視線にベルはびくん、と体を震わせる。
「どの辺にあったのかしら?」
「む、向こうの方よ。多分、湧き水とかで出来ているんじゃないかな? 大丈夫な水かどうかは分からないけど、そこはセリナを喚べば解決する話だし」
周囲からじっと向けられる視線に微妙な寒気を感じながら、ベルはそう言う。セリナの名が出たのは、水質の確認が出来るし、仮に身に影響の出る水だとしてもそれを浄化することが出来るからだ。水精霊だからこそ出来ることである。
「それで、ここにいる全員は行くのよね?」
「「「「「行く!」」」」」
その場にいる女性冒険者たちは、声を揃えて言う。遠征なので身を綺麗にする場所は無いと思っていたが、思わぬ誤算だった。もしかしたらと思い、念のため用意していた体を拭くタオルを取りに、一斉に鞄をあさり始める。
レイアも鞄の中を探り、タオルと替えの下着と寝巻を取り出し、他の女性たちが来るのを待つ。少し待って全員が集まったのを確認すると、早速ベルは全員を引き連れて泉の方へと向かって行く。周囲はすでにやや薄暗いので、一緒に行くことになった女性組合員が照明魔道具を持っていく。ついでに、騎士精霊を十体ほど引き連れていく。覗き防止用だ。
ベースキャンプを出てから約十分ほど、ベルの言った通り大きな泉が姿を現した。水は透き通っていて確かに綺麗だ。それでも念のためと、レイアは水精霊ウンディーネのセリナを召喚する。
「お呼びですか、ご主人様」
「うん、この泉の水質を調べてほしくって。もし危険があるなら、浄化をお願いしたいんだけど、いいかな?」
「ご主人様の頼みです。断れるはずがありませんよ!」
そう笑顔でいい、セリナはしゃがみこんで泉に手を入れ、水質を調べ始める。一方でその場にいる女性たちは、「ご主人様」と呼ばれたレイアに向けて、温かい笑みを浮かべていた。契約精霊が勝手にそう呼んでいるだけなのかもしれないけど、それでも微笑ましく思ったのだ。
その視線に気付いたレイアは、恥ずかしそうに頬を染めて少し俯いた。
「調べ終えました。水質は上質、飲んでも体に害はありません。念のため、私の力を流し込んでおきました」
「ありがとう、セリナ。……一緒に水浴びする?」
「是非!」
召喚して水質調査させるだけさせて、そのまま送還するのも可哀そうなのでそう提案すると、嬉しそうな表情になる。とにかく、問題ないことが確認されたので、待ちかねた女性たちは服を脱ぎ始める。健康的な白い肌が、惜しげもなく晒される。
スレンダーからグラマラス、長身、平均的、小柄等々、様々なスタイルをした女性の魅惑的な肢体が、その場を埋め尽くす。総じて、瑞々しい肌をしている。冒険者になっても、肌や髪の毛の手入れは怠っていないらしい。
少し恥ずかし気に服を脱いで、素早く丁寧に服を畳んだレイアは、てててと泉に向かい、一回しゃがんで右手を浸してどれくらい冷たいかを確認する。湧き水らしいのだが、それほど冷たくはない。丁度いいくらいだ。ちらりと隣のセリナを見てみると、ペロッと舌を出す。つまり、セリナが水温を少し調整してくれたようだ。
小さく苦笑したレイアは立ち上がり、泉に身を沈めていく。
「あ、奥の方はご主人様の倍くらいの深さがあるので、気を付けてくださいね」
「それをもっと先に言って」
腰辺りまで使ったところで、セリナがそう忠告する。もしその忠告を受けずそのまま進んでいったら、カナヅチなレイアは間違いなく溺れていた。そのことにほっとしつつ、水浴びを始める。
程よく冷たい水は、レイアの白い肌を撫でるように伝い落ちていく。そのこそばゆさにぴくりと身をよじらせつつも、手で掬った水を零れない様に肌や髪の毛に塗るように洗って行く。他の女性たちも、程よい温度の水に心地よさそうに目を細め、体を清潔にしていく。
「いやー、こんなところにこんな綺麗な泉があるとは、思いもしなかったよー。ありがとうね、レイアちゃん」
近くにいた名前の知らない女性が、ニコニコと満面の笑みで礼を言う。
「お礼を言うならベルに言ってあげてください。ここを見つけたのは、ボクじゃなくてベルなので」
非常に女性的で蠱惑的なラインをしているので、恥ずかしそうに頬を赤くして、一度視線を逸らした後にそう言う。
「でも、レイアちゃんが召喚したから、ここに来れた訳だしさ。それに、見張りとして騎士精霊も使ってくれているし。これくらいのお礼は言わせてよ」
女性はそう言いながら右手で頭を、優しい手付きで撫でる。恥ずかしいが、頭を撫でて貰うのは気持ちいいのか、嬉しさと恥ずかしさの両方で頬を赤く染める。尤も、上げた視線を下におろすと、そこには凶器とも言えるほどの巨峰があり、咄嗟に目を逸らす。いくら同性でも、直視出来ない。
───ごぉん!
「ぎゃぁぁぁああああ!?」
「ゼン!? くっそぉ! いきなりなんなんだよ、こいつ!?」
「うお!? 何だこいつ、滅茶苦茶早───ぐぺっ!?」
「ジェームスぅ!? ちくしょぉぉぉおおおおお!! 楽園はすぐそこだってのに!」
すると、遠くから鈍い音が響くと同時に、悲鳴が聞こえてくる。それと一緒に怒号なども飛び交うが、最初に響いた音と同じ音が響いて行くうちに、次第に静かになって行く。
「何、今の?」
「まさか、覗きしようとしたのかしら?」
「間違いなくそうでしょ。相変わらず、男ってバカね」
その悲鳴が聞こえると同時に、その場にいる女性の全員が警戒心を一瞬で最大まで引き上げ、両腕で胸などを隠す。しかし、アークナイトとシャドウナイトが周囲を警戒しているので、こちらに来ることはまず不可能だろう。
「レイアちゃん。騎士精霊にはなんて指示を出したの?」
割と本気で撃退しているように聞こえたリリアナは、少し不安に思いながら質問する。
「召喚した時と変わらず、悪意や害意を持った存在は打ち払えって指示ですよ。多分、あれでも手加減はしているはずですよ」
「手加減しているんだ……」
どう考えてもしていなさそうな感じだったが、レイア自身そう言っているし、そうであると信じよう。その後も泉にゆっくりと浸かりながら賑やかに会話をして、その日の疲れをいやしていく。
体を清潔にした後、全員泉から上がってしっかりと水分を拭き取り、魔術師の女性に炎と風の複合魔術を全体にかけて髪の毛を乾かし、下着と寝巻を着てベースキャンプに戻る。その途中、何人か地面に倒れているかアークナイトとシャドウナイトに組み伏せられている男性を見かけたが、自業自得だと無視して行く。心優しいレイアは離すように指示を出そうとするが、カエデのその必要はないと言われ、一度心配そうな目を向けてから一緒に立ち去って行く。
ベースキャンプに着くと、今度はそれぞれのチームや組合の用意したテントを張る魔道具を使ってテントを張る。レイアはリーリスたちと臨時パーティーを組んでいるので、同じテントで夜を過ごす。ただ、六人が入るには少し狭いため、六人の内誰か一人が誰かと同じ寝袋で寝る必要がある。速攻でレイアに決まった。
その次に、だれが一緒に寝るかで揉めて、ジェーンが何故か持って来ていたトランプで勝負し、リリアナが今夜一緒に寝る権利を手に入れた。身長が一緒くらいだし、雰囲気も何となく似ているので、二人とも何となく姉妹のように見えた。
そして同じ寝袋に潜り込んで先に眠ってしまい、寄り添うように寝ている姿は、まるっきり双子の姉妹のようだった。