13 脱出
一気に手持ちの精霊全てを召喚したレイアは、すぐに指示を出す。ブラッディドラグーンは、召喚術師の真骨頂ともいえる数の暴力でゴリ押せば、恐らく何とかなるだろう。ただしそれは、魔力が全快の状態だったら。
今のレイアの魔力は、アンナたちの所に来るまで身体強化を掛けた状態だったし、何よりその前から精霊を召喚しており、自身も魔術を使って戦っている。カイルたちとの戦いの後から多少魔力が増えているとはいえ、残りの魔力量を考えるとそんなに多く召喚出来ない。残りから計算するに、六体同時召喚をあと五回できる程度だろう。三十体も数が増やせるので、足止めをするなら十分だろう。
しかしそれをすると、背後にいる五人組の少年少女たちと逃げる時、魔力が底を尽いた状態なので危険だ。やるとしたら、三回使って十八体召喚し、残りは温存・回復薬を使って回復した方がいいだろう。
そこまで考えたところで、五体の騎士精霊が吹っ飛んだ。尻尾による一撃を受け流し損ねたらしい。
「流石は大型の魔物だねぇ……。ボクの騎士精霊たち、結構強くなったはずなのに、それでも足止めするのが精いっぱいだなんて……」
正直、少し自信を無くしてしまう。セリナが索敵した時に上級並みだと言っていたが、まさにその通りだと思う。吹っ飛ばされて行く騎士精霊を見て、乾いた笑みを浮かべるレイア。ふぅっと小さく息を吐き出し、もう一本魔力回復薬を取り出し、蓋を開けて中身を呷る。ほろ苦い味が口に広がり、魔力を回復させる。
『月が地の果てに沈み、空は明るく染まり、陽が大地を淡く照らす。眠りについていた者たちは、今夜明けとともに目を覚ます』
【魔術:暁天の燈】
光中級魔術の詠唱を滑舌よく唱え、発動させる。足元に大きな、まるで詠唱に入っている言葉と同じように、星が散りばめられているような魔術法陣が現れる。そしてその法陣と同じ物が、騎士精霊の頭上に現れ、ブラッディドラグーンの頭上には反転している法陣が現れる。
【魔術:暁天の燈】は、自分の指定した味方に一時的に身体能力の上昇と、一定の攻撃の無効化の支援魔術が掛けられ、敵には逆に動きを阻害する魔術が掛けられる。これも、覚えた三つの中級魔術の一つである。ちなみに効果は、精霊にもちゃんと現れる。
魔術を掛けられた騎士精霊たちは、動きと技のキレが増し、逆にブラッディドラグーンの動きが精彩さに欠け始めてきた。
『乙女が月光の下で旋律を奏でれば、名もなき星と共に歌が唄われる。それは滅びの旋律で、忘れられた歌。今この世に、悲しき歌を再び響かせよ』
【魔術:忘却された星空の夜想曲】
続けて詠唱し、攻撃魔術を発動。二十もの魔術法陣が現れ、光が尾を引いてブラッディドラグーンに襲い掛かる。着弾した光弾は、大きな炸裂音を響かせる。
「ゴァア!?」
いくつもの光弾が炸裂したことで、ブラッディドラグーンは声を上げる。その隙に、騎士精霊たちが一斉に攻撃を仕掛ける。次々と振るわれる剣が、鈍い金属音を森の中に響かせる。それでもなお、固い鱗に僅かな傷をつけることが精いっぱいだ。
アンナたちは、中級魔術に加え精霊の一撃が効いていないのを確認すると、だんだん絶望した表情を浮かべ始める。精霊は、並みの冒険者では到底及ばない力を持っている。騎士精霊に至っては、戦わせ続ければどんどん成長して行く。
見るからにシャドウナイトとアークナイトは、相当剣の腕がいいことが分かるが、それでもなお大きな傷を与えることが出来ないのだ。絶望するなと言う方が難しい。
「ベル、グレン!」
「了解!」
「承知!」
【シルフィードの息吹】
【サラマンダーの息吹】
レイアの指示により、ベルとグレンが同時に息吹を放つ。灼熱の炎が螺旋状の風と合わさり、ラッセンの炎となり襲い掛かる。森の中でそんなのを使えば木々や草花が瞬時に灰と化すし、他に燃え移って火事になる。そうならないように、前もってセリナが結界を張ってある。この結界によって、完全に燃えないということはないが、被害は最小限に抑えることができる。
放たれた螺旋の炎が通り過ぎると、草花が燃え、木も一部が燃える。しかし結界の効果によって、即座に鎮火される。ブラッディドラグーンの足止めをしていた騎士精霊たちは、炎が近くまでやってくると、即座にその場から離脱。二体のアークナイトがレイアの前にやって来て、熱波と爆風から身を守るように盾を構える。
炎が当たる直前、更に威力を上げるためにセリナがブラッディドラグーンの周囲に水を生成する。それらが接触すると同時に、あまりの熱量に水が一気に気化。水蒸気爆発が発生する。
ボシュッという音とともに、大量の水蒸気が発生。凄まじい熱が襲い掛かるが、アークナイトの盾とセリナの結界で難を逃れる。もうもうと水蒸気が舞い上がる中、レイアは索敵魔術を発動させる。今の一撃で倒せるような相手ではないことを理解しているので、今どこにいるのかを確認するためだ。
索敵魔術で探ってみると、ブラッディドラグーンは最初にいた位置から動いていないのが分かった。今のうちに逃げるべきだと思い、レイアはぼんやりと見える五人組の方に振り返る。
「みんな、今のうちに逃げるよ!」
少し疲労を感じさせる声音で、声をかける。
「い、今のうちにって言われても、煙のせいで回りが見えない! 下手に動くことなんてできないよ!」
ジェラールがレイアに向かって、少し大きめの声で返す。確かに彼の言う通り、発生した水蒸気のせいで周囲がまともに見えない。特に彼らにはカッシュという怪我人を抱えている。いきなり襲撃されたら、非常に不利だ。
「大丈夫! ボクを信じて!」
だが返って来たのは、自信の篭った声だった。普通、つい少し前にあったばかりの冒険者を信じるなんてことはしないが、どういう訳かレイアは信用できると感じていた。
「……分かった。私はあなたを信じるわ」
アンナは少しだけ考えるそぶりを見せてから、そう呟いた。どういう訳か、レイアは信じられるのだ。それに、どう見ても人を騙せるようなタイプではないとも、持ち前の観察力で理解した。
あっさりと信じると口にしたため、ジェラールたちは少し驚いた表情になるが、やがて真剣な表情になり頷く。彼らもまた、レイアを信じてくれるようだ。
いきなり信じてくれだなんて、なんて変なことを言っているんだ。普通できるはずがないと思っていたレイアは、少しだけ驚いて目をぱちくりとさせるが、ひとまずここから脱出することが出来るのでほっと息を吐く。
早速ベルを先行させて、進む道にいる魔物を全て狩ってらいながら、その後をついて行こうと言おうとするが、その前に大きな衝突音が響いた。いきなりのことでびっくりして、体をびくりと震わせて振り返る。そこには、半壊した塔楯を持ち、自身もまた半壊し姿を消していくアークナイトの姿があった。どうやら、ブラッディドラグーンが炎の球を吐き出し、こちらに飛んできたそれを防いだようだ。
「そう言えばトカゲって、生き物の熱を見ることが出来るんだっけ……」
以前トカゲ系の魔物についてルミアと一緒に勉強した際、大体のトカゲ系の魔物は生物発するる熱を、視認することが出来る。故に、物陰に隠れてもあまり意味がないので、遭遇したら即討伐するべきと言われていた。
ブラッディドラグーンは、名前にドラグーンと付いているが、実際は体の巨大なトカゲだ。肉食で、口から火を吐くのでドラゴンっぽいということから、こんな名前がついている。魔物の名前は、結構安直なものだ。
これは結構厄介なことになるなと冷や汗を流すレイアだが、魔物は考える暇など与えるつもりはないようで、ガンガン火球を飛ばしてくる。
『魔を退ける光よ。悪を妨げる障壁よ。我が身を守れ』
【魔術:光絶】
光初級結界魔術を発動させ、防ごうと試みるが、少し威力が減衰しただけで防ぎきれなかった。こうなることは予想できていたので、レイアは全く慌てていない。
【嵐撃の塔】
結界が破壊されたすぐあと、ベルが風精霊術で火球を上に吹き飛ばす。【嵐撃の塔】は凄まじい突風を乱回転させながら、それを竜巻のように発生させて、対象を上に吹き飛ばしながらズタズタにするという、結構恐ろしい精霊術だ。生半可な術だと逆に威力を上げてしまうか、突破されてしまうので、その術を使うことにしたのだ。
【水砕の海竜】
続いてセリナが少ない攻撃精霊術を発動させる。夥しいほどの水が生成され、それが圧縮され、やがて姿を変えていく。現れたのは、水で出来た蛇のような竜だった。この術は、水戦略級魔術【魔術:海竜・覇王の咆哮】と見た目が酷似しているが、少し違う。
【水砕の海竜】は内部で激しく渦を巻いており、更に水の刃と鋼鉄すらも圧壊させるほどの水圧が発生している。ここまでは酷似しているが、違う点は竜の口から超高圧縮された水を、息吹のように飛ばすことが出来るという点だ。これは、今は契約してそれほど時間が立っていないので本来の力を発揮し切れていないが、仮に全力を発揮出来たら上級の魔物なら簡単に両断出来るそうだ。この話をしている時、ニコニコと微笑んでいたので、レイアは少しだけ恐怖を感じた。
そんな術を発動させたセリナは、細くたおやかな右人差し指を指揮棒のように振るう。それに呼応して、水の竜が動き出す。今もなお火球を吐き出し続けているブラッディドラグーンのいるであろうところに、顎を開きながら進んでいく。火球は全て、ベルが対処していた。
「ここは私が食い止めます。ご主人様方は、お逃げください」
真剣な表情で、セリナがそう言う。もしこれが人間だったら、レイアは間違いなく置いて行くことは出来ないと言っていた。だがあいにく、セリナやベルは人ではない。精霊だ。そう簡単には死なない。故に、
「分かった。ここは任せるよ。ただ、無茶はしないでね?」
「承知しております。十分に皆様との距離を稼げたと判断したら、即座に戻ります」
レイアはこくりと頷き、アンナたちに声をかけて一体だけアークナイトを呼び戻し、走り始める。背後から咆哮と轟音が聞こえてくるが、全員振り向かずにひたすら走って行く。
ジェラールはいまだ意識を失っているカッシュを、ヨナは魔力切れで意識を失ったリンを抱えて、先頭を走っているレイアの後に続く。途中で襲撃してくる魔物は、先んじて詠唱を唱えてそのまま起動せずにいる魔術や、アークナイトによって倒される。
精霊にブラッディドラグーンを任せて退避した六人は、振り返ることなく張りし続け、森の外に出ることが出来た。元素精霊である風精霊のベル、炎精霊のグレン、水精霊のセリナはやられていないと確信しているが、多重召喚した騎士精霊は恐らく、既に倒されているだろう。あれを倒せるようになるためには、もっと強い魔物を倒し、より多く互いに修練させるしかなさそうだ。
「……流石にここまで追ってこないみたいね」
森を出てすぐ六人は立ち止まり、アンナが振り返ってそう呟く。ベルたちの足止めが効いているうえに、ブラッディドラグーンの活動範囲が非常に狭いことが、幸いした。
「ありがとう。もし君がいなかったら、俺たちは今頃、あいつに殺されていたよ」
呼吸を整え、しかし疲労を感じさせる声で、ジェラールがお礼を述べる。彼の言う通り、レイア自身実力が足りていないけれど、それでも来てくれたおかげで五人とも死なずに済んだ。今だに意識を失っているカッシュも、来てくれたおかげで命拾いをした。彼らにとって、レイアは命の恩人となる。
「当たり前のことをしただけだよ。ボク、昔から困っている人を見かけると、放っておけない性分だから」
「けど、ジェラールの言う通り、本当に助かったわ。大したことは出来ないけれど、せめて何かお礼をさせてほしいのだけど」
大切な幼馴染であるカッシュを助けてくれたことに、非常に感謝しているアンナは、お礼をさせてほしいと述べる。
「そ、そんな! お礼なんていいよ! 今言った通り、放っておけないから助けただけで!」
「だからこそよ。あなたにとって当たり前なことをしたことでも、私たちにとっては本当にありがたいことなの。私たち五人の命を救ってくれた恩人に、何もしないっていうのは、礼儀に反するわ」
「そうだぜ。アンナの言う通りだ。俺たちはまだFランクになったばかりだから、そんなに金を持っていないけど、せめて何かお礼させてほしい。何もしないのは、アンナの言う通り、礼儀に反するからな」
この五人がこうまでお礼をしたい訳は、冒険者組合で登録し、そこで少しの間だけ師事してくれた冒険者から、助けて貰ったら絶対に何かお礼をしろと口酸っぱく言われていたからだ。たった一週間程度だったけれど、その教えはしっかりと五人に伝わっている。
レイアは本当にお礼はいいと言い続けたが、ジェラール、アンナ、ヨナの三人が主張を曲げなかったし、途中で合流したベルたちも、お礼は受けた方がいいとレイアを説得したため折れて、街に戻ったらご飯を奢ってもらうことにした。
もっと贅沢してもいいのだと言ってきたが、これ以上は譲れないと反発したため、彼らは街でご馳走を奢ることにした。
♢
街に戻る途中、意識を失っていたカッシュとリンが目を覚まし、ジェラールが何があったかを説明し、そこでまた少しごたごたしたが、特に発展することなく丸く収まるということがあってからしばらくして、六人は街に着いた。
今現在、冒険者が好んで行く大衆食堂にいる。ここでジェラールたち五人がレイアにご飯を奢ることになっている。今日はシェリーが寝坊してしまい、お弁当を作っていなかったため、昼頃に帰ってくる予定だったので、この辺の予定はいい。けれど、やはり奢ってもらうのはなんだか気が引けてしまう。
「や、やっぱりボクも少しお金出した方がいいと思うんだけど……」
ここにきてなお、やっぱり少しだけでもいいから自分もお金を出した方がいいのではと思い、五人にそう提案するレイア。
「ダメだ」
「ダメよ」
「ダメだね」
「却下」
「却下だな」
しかし五人全員がレイアの提案を切り捨てる。レイアが自分も出した方がいいと思ったわけは、五人が大衆食堂の中で、一番値段の高い料理セットを注文したからである。レイアが寝泊まりしている宿の食堂の、一番高いセットに比べれば安いが、Fランク冒険者の懐ではそこそこ大きな打撃を受けることになる。
Dランクになってから実入りが良くなり、今の所少し贅沢出来るので、少しだけでも負担を軽くしようと思った故の発言だが、どうしてもそこは譲れないようだ。
しばらくして運ばれてきたのは、そこそこ豪華な料理だった。ローストビーフに海鮮サラダ。東洋の国から取り寄せたライス、クリーミーなトウモロコシのスープ、チキンステーキ、その他の料理三つ。なるほど、確かに冒険者向けの食堂の一番の料理だ。質もさることながら、量が多い。とにかく多い。絶対に食べきれない。ジェラールたちもここまで量が多いと思っていなかったらしく、若干頬を引き攣らせている。
ベル、セリナ、グレンはそのまま召喚したままなので、彼らにも分けることにした。元からそうするつもりだが。
「お、思ったより量が多いね」
「これ、絶対大人数の冒険者パーティー向けだろ……。ちゃんとメニューの説明書きを見ておけばよかった……」
これにしようと言い出したカッシュは、少し反省していた。命の恩人に、生半可な値段の料理を食べさせるわけにはいかないと、メニューを見た時に一番金額の高いこのセットを見つけ、勢いでこれにしたのだ。
「もう少し考えて行動した方がいいぞ、カッシュよ」
反省している様子のカッシュに、グレンがそう声をかける。ぬいぐるみのように、レイアの腕に抱えられた状態で。
今グレンは、普通の猫とあまり変わらない大きさになっている。というのも、レイアと同じ大きさのまま街の中を歩くのは、踏まれる危険もそうだがとにかく通行人の邪魔になってしまう。そうならないようにと、大きさをどうにかできないのかと頼まれ、今の大きさになった。
この際、体の一部に纏っていた炎は消えて、体が赤いただのトカゲのように見える。
「それにしても、まさか君があのレイア・エヴァンデールだったなんて、思いもしなかったよ」
「アタシは、もしかしてとは思ってたわ。特徴が一致しているし」
ジェラールは、この食堂に着いてすぐに自己紹介をするまで、レイアだと気付かなかったらしいが、リンは特徴を知っていたようで確信はしていなかったが、予想はしていたらしい。
「私も! ここの所結構話題だもんね。FランクからEを飛ばしてDランクになった、新人冒険者の召喚術師ってことした知らなかったけど、こんなに可愛い女の子とは思っていなかったよ」
やはりと言うべきか、新人狩りを倒したことは伏せられているため知らないようだが、その結果で一級飛ばして昇格したことは今話題らしい。ここの所、特に注目されているのは気付いていたし、中には嫉妬の視線を向けていることも気付いている。
「それよりも、エヴァンデールさんはパーティーを組んでいないのかい?」
早速運ばれてきた料理に手を付け始めると、ヨナがそう質問してくる。
「ボクのことはレイアでいいよ。……そうだね。パーティーは組んでいない、というか組まないかな」
「そうなのかい? いくら召喚術師でも、一人に変わりないから危ないと思うんだけど」
「召喚術師だから、かな。例え数的に不利でも、精霊を召喚すれば逆転できるし、それ以上にパーティー組んだら他の人たちの役割を奪っちゃうから」
「他の? ……あぁ、そういうこと」
一瞬ヨナは首をかしげるが、すぐに意味を理解し納得する。他の四人も、レイアがパーティーを組んでいないと言ったときは、かなり驚いた顔をしていたが、ヨナと同じように理解すると納得する。
ジェラールたちは、剣士であるジェラールとカッシュが前衛、弓使いのヨナが中衛か後衛、退魔術師のリンと魔術師のアンナが後衛を務める。前衛二人が壁役となり、術師が詠唱を完了するまで持ちこたえ、ヨナが前衛二人の補助をする。術師二人は、詠唱が完了次第、すぐに指示を出して前衛を下がらせてから、特大の攻撃を叩きこむ。まさに、鉄板の編成だ。
しかし、レイアは騎士精霊を召喚するだけで、魔術の詠唱を唱えている間の壁役を、補うことが出来る。中衛・後衛も、ベル、セリナ、グレンを召喚すれば、こちらも補える。そうなると、最悪パーティー内が荒れてしまい、解散してしまうかもしれない。ずっとそのことを危惧しているため、パーティーを組まない。
そのことを、説明されなくても理解し、召喚術師の有用さとともに、危険性も理解する。
「確かに、自分ひとりでそこまでできるなら、パーティーは組まなくても大丈夫だろうな。けど、流石にずっと一人だと限界が来るはずだ。いずれ、パーティーは組んだ方がいい」
東洋特産の、甘みのある白いライスを頬張り、咀嚼して飲み込んだジェラールがそう言う。
「いつもルミアさんに、同じこと言われているよ。ボクも組んだ方がいいとは思ってるけど、どうしても危惧していることが頭を過って、怖くなっちゃって……」
どうしても危惧していることが起きたらどうしようという気持ちがあり、組みたくても組むことが出来ない。密かに増加しているレイアファンの人たちに声を掛ければ、喜んで迎え入れるだろうが、大半は男性だし全員女性に飢えているので、そこに知識だけは豊富だけれどとても純情で汚れを知らないレイアが入れば、非常に危険だ。
そのことを考えると、現状維持かジェラールたちのパーティーに入った方がいいのかもしれない。彼らなら、レイアが入っても嫌な顔はしなさそうだ。とはいえ、役割を奪いかねないので入るつもりはない。せめて、レイアと同じソロの冒険者がいれば、問題はなかったかもしれない。特に、同い年の術師などの後衛の女子。
「もしレイアちゃんと同じソロの人だったら、そんなことはないかもしれないけどね。でも、レイアちゃんくらいの新人冒険者は、あまりいないと思うよ」
アンナの言う通り、大体の駆け出し、新人冒険者はほとんどパーティーを組んでいる。むしろ、ソロでいる方が珍しい。ソロでいるのは、中級になってから増え始めて、上級だと半分まではいかないが初級に比べると多くなっている。主に、依頼達成後の報酬の振り分けなどが面倒なので、一人でいることが多いが。
「そういえば、レイアちゃんて今いくつなのかしら?」
小分けにされたライスのほのかな甘みを楽しんでいたリンが、少しだけ視線を下に落として質問する。
「ボクは今、十四歳だよ?」
「ごふっ!?」
素直に年齢を答えたら、コップの水を飲んでいたアンナが咽る。リンは、口をぽかんと開けている。
「じゅ、十四歳……?」
同じく驚いていたヨナが、確認するように呟く。
「そうだよ?」
どうして聞き返して来たのか、もう何となく理解したので、頬を少し赤くして言い返す。
「わ、私より二歳も年下なのにそんなに……」
「世の中は不平等よ……。不平等で満ち溢れているわっ……!」
女子二人が、ジトッとした目でレイアを見ながらそう呟く。レイアはもう、苦笑いを浮かべるしかなかった。
ちょっと気まずい雰囲気になったが、すぐに元に戻り楽しく会話をした六人は、精霊三体を含めてなお少し多い料理を二時間ほどで平らげた。それでも少し食べすぎなくらいで、しばらくその場に残って談笑した。
帰り際、ジェラールがダメもとでパーティーに誘ってきたが、気持ちだけ受け取って断った。レイア本人も言っていたし、五人全員パーティーは組みたいけれど、三人以上で前衛のいるところは入れないと言っていたし、理解しているのでやっぱり駄目だったと肩をすくめただけだった。
帰りにレイアは、やっぱりせっかく誘ってくれたんだから、お試しでもいいから参加してみようかと考えたけれど、それでもやっぱり召喚術師である自分が行くと、ジェラールとカッシュの役割を奪いかねないから、行くべきではないという考えが混ざり、悩みながら宿に戻った。
その後も、お風呂に入っている間も寝る直前まで考え続け、そこで気付いた。自分は魔術師でもあるんだから、別にいいのではないか、と。主に魔術を使って、危なくなったら召喚術を使えばいいではないか、と。
翌日、組合に行ったら丁度ジェラールたちがおり、召喚術師ではなく魔術師として、お試しで参加することにした。これには五人とも大喜びしたが、それ以上にルミアが喜んでいた。やっとパーティーを組んでくれたと、抱き着きながら。
普段決して大人しいわけではないが、それでも冷静なルミアしか知らないジェラールたちは、そんな彼女が大喜びする姿を見て唖然としていたのは、言うまでもないだろう。
面白いと感じましたら、どうか、評価をお願いします!