8話 負けず嫌い
魔王がいなくなり、一先ずその場は収まった。
だが俺は自分の考えの甘さを痛感していた。
魔王が強いとは思っていたが、まさかあそこ迄とは思わなかった。
俺が黙っていると神が立ち上がった。
「炎真さん、一緒に天界に来てください。見てもらいたいものがあります」
そう言うと神は「転移!」と唱えるとその場に魔法陣が現れる。
一瞬光に包み込まれると場所が変わっていた。どうやらここが天界らしい。
地面が雲のようになっていてフカフカだ。
なんだか不思議な安心感がある場所だな・・・。
「そういえば、おっさん怪我大丈夫なのか?」
「ええ。少し待ってください――再生!」
呪文を唱えると神のなくなっていた腕と足が再生し、怪我が一瞬にして治ってしまった。
「この魔法は天界で使ったほうが効果が高いんです。欠損した部分も治るほどにね」
「・・・でも神であるアンタがそんな重傷を負うなんてな」
「わかったでしょう?何故魔王の討伐ではなく封印なのか」
あぁ、身に染みたよ。
強い、ただそれだけだ。
正直、封印もできるのか疑わしい。
「怖いですか?」
神が俺に問う。
俺は素直に怖いと答えた。
神は「そうでしょうね」と俺の気持ちを肯定する。
すると神が魔法陣を展開し、ある映像を見せる。
「これは・・・」
「歴代転生者の戦いの記憶です」
そこには戦いを挑む転生者とこの世界の住人と思われる魔法使いや剣士が映っていた。
そして、無残にも全員が惨殺されてしまう。
他の映像も同じ。
目を抉り取られ、腕を引きちぎられ、内臓をブチまけられ。
見ているだけで吐き気がしてくる。
どれも見てはいられない映像だった。
「・・・ひどいな」
「えぇ、この時の魔王はただ人間を破壊するという快楽を楽しむだけの存在でした。もうこの時点で神よりも強かったです」
「この時点?」
「魔王を倒すために何人もの転生者が命を落としました。ですが99人目の転生者”クロル”が魔王を討伐の一歩手前まで追い詰めたのです」
映像が切り替わり、巨大な十字架と本を持った男が映る。
「クロルは元エクソシストで、死んだときに身につけていた十字架と聖書が魂武器となりました」
「それって・・・」
「あなたと同じく魂武器を2つ持っていたんです。聖書は一文を唱えると属性を付与したり相手の動きを制限する能力を持ち、十字架は剣にもなります。強力な光を放ち、並の魔物ならそれだけで浄化される強力な能力を有していました」
映像には巨大な十字架と聖書で戦うクロルが魔王を圧倒していた。
聖書で動きを止め、十字架の光で弱めた後に切る。
魔王はそれによりかなり弱まっているように見える。
だが最後にクロルがとどめを刺そうとした瞬間、大量の闇が魔王を覆い尽くす。
「魔王は死の目前でした。しかし、ここで最悪の事態が起きました」
闇が晴れると、そこには先ほどよりも明らかにパワーアップした魔王の姿。
刹那、クロルの右腕に黒い炎が襲い消し去った。
「あれはさっきの!」
「地獄魔法――魔界の意思に選ばれしものだけが使用できる最凶の魔法です」
魔界?意思?なんだかよくわからん。
「魔界とは天界と対になる存在です。違うのは魔界自体が意思を持つということです」
「魔界自体?」
「魔界に住人はいません。魔界という世界そのものが生物のようになっています。本来この世界には干渉しないのですが、稀に気に入ったものに力を与えることがあるのです」
「魔王は選ばれたのか?」
「基本的に与えられたものは力に耐えられず、体が崩壊してしまいます。崩壊しなかったとしても、1分も保たずに死に至ります」
だが映像の魔王は1分経っても死に至らず力を使いこなしている。
「・・・魔王はその強力な力に耐え切ったのです。そして完全に地獄魔法を使いこなしました」
魔王はクロルの右腕を消し去った後、完全にクロルを圧倒する。
黒い炎、黒い水、黒い風を使い、クロルの目や足を次々破壊していく。
「クロルは自分の敗北を悟りました。ですが魔王を危険と判断したクロルは命をかけて封印することを決めたのです」
クロルは聖書と十字架から極大な光を放ち魔王に突撃していった。
光がその場を覆い尽くす。
一瞬の静寂の後に光が晴れる。
そこには十字架に磔になっている魔王と倒れたクロルの姿があった。
「魂武器は自分の命と引き換えに使える”絶死業術”という技が使えるのです」
「俺も使えるのか?」
「魂武器がかなり強くならないと使えません。今は無理です」
ということはクロルは相当修行したってことか。
「クロルの絶死業術は十字架の呪い。相手を永遠に封印することができる技です。それが解かれたということは、かなり強力な相手が敵にいるということでしょうね」
・・・命をかけて、か。
少し前まで不良と喧嘩してた俺がそんなことになるなんてな。
「その時クロルと一緒にいたメンバーが開発したのが、魔法スキルと魂武器を使う封印方法です。もう2度と転生者が死ななくてもいいように、と」
俺は黙って話を聞いた。
正直、なぜ俺がそんなことをしなければいけないのか、と考えてしまった。
ただの男子高校生だった俺が。
「クロルが命がけで封印し平和が訪れて200年たちました。しかしまた魔王は復活してしまった。そして呼び寄せた転生者はクロルと同じ魂武器が2つ。私は奇跡だと思いました」
神がまっすぐ俺を見て真剣に嘆願する。
「炎真さん、あなたからしたら何故自分がと思うでしょう。しかし、あなたしかいないのです!魔王は強い、クロルも神も勝てないほどに。ですがどうか、この世界のために魔王封印に協力してはいただけませんか」
神は俺に土下座した。
地面に頭を擦り付け必死だった。
俺は・・・
「いつも不良に絡まれてうんざりしてた俺に、今度は魔王を相手にしろってか。全く嫌になるぜ・・・。正直この世界が滅ぼうがどうでもいいだよ。どうせ一度死んでるんだしな」
ほんとに来るとこまで来ちまった感じだな。
「炎真さん・・・」
「けどなおっさん――俺は死ねと言われるのが嫌いなんだよ」
「え?」
「売られた喧嘩は必ず買うのが俺のルールだ」
喧嘩を売られ始めた時からそうだ。
逃げればいいのに、無視すればいいのに、俺はいつも受けてたった。
結局俺は――
「俺は、負けず嫌いなんだ!」
俺は神に笑顔で言う。
怖いし、強いし、正直逃げたい。
けど、魔王がせっかく名前を覚えてくれたんだ、ここで俺が立ち向かわないと逆に魔王の怒りを買いそうだ。
それに、クロルが命をかけて自分と関係ない世界を救おうとしたんだ。
だったら俺も救ってやろうじゃないか。
「――!!ありがとうございます。炎真さん」
「でも今のままじゃ勝てないし、また修行頼むよ」
「えぇ、もちろん!では、早速始めますか」
「え、今から!?」
「もちろん、魔王が復活するまでは少し時間がありますから。たっぷり修行しましょう」
「じょ、上等だ!やってやるわ!!」
俺は魂武器を起動させ神に向かっていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(炎真さん、あなたならもしかしたら魔王を倒せるかもしてませんね・・・)
神は願う。
絶望の中、召喚した転生者が希望であることを。
そして再び世に平和が訪れることを――
とりあえずここまでが自分の中の第0章。プロローグです。
次回からは第1章が始まる――と言いたいところですが一度、登場人物や用語の整理をしたいと思います。
ここまでのあらすじとして掲載するので見てください。
ところで、ブックマークのところ見たら2人登録してくれていたことがわかり、とても嬉しかったです!
文章もストーリー作りも下手なこのお話を気に入ってくださり、本当にありがとうごさいます!
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