第9話 響く声
那奈子の襲撃は続く中、一十三と静歌は学校の奥へ奥へと進んでいくのであった・・・
「濡れてる・・・・」
ここは神螺儀小学校二階。叫び声が聞こえたと思われる場所。(懐中電灯を持ってくるのを忘れた)桜一十三と、(まさかと思って懐中電灯を持ってきた)静歌がアンモニアの臭いを辿って着いた先にあったものは、廊下に染みついているおしっこの跡だった。しかもまだ時間はそんなに経っていないようで、まだ地面に完全に染みきっていない。
「桜様、これはやはり・・・」
「叫び声の・・人?」
「そうなりますね」
「・・・でもいないってことは」
周りを見渡して、自分達以外の気配がないことを確認した一十三は、恐る恐る静歌に目を向けた。静歌は冷静に答える。
「何者かに誘拐されたか、それとも・・・」
「ひぃ!・・・やっぱり神隠し・・・かな?」
「それはまだ確証がないので・・・」
「で・・でも!」
「とりあえず他を当たってみましょう。とりあえず」
―きゃあああああああ
「!」
「!」
さらに上の階から鳴り響いた叫び声に一十三、そして静歌は驚き天井を向いた。一十三の顔は驚きすぎて目が点になり顎が外れた・・・のを静歌は瞬時に顎を治した。だが一十三は更に膝をガックシと落としてお漏らしをしたのだった。今スカートとパンツを履いている一十三に、もしもの時と思って持ってきた替えのパンツ。一十三の部屋から勝手に持ち出した苺パンツを持った静歌は、濡れたパンツを瞬時に剥ぎ取り、一瞬のうちに隠し持っていたタオルで濡れた部分を拭き取ってから、替えの苺パンツを着させる。ここまで0・。01秒。まさにスピード解決である。一十三は一瞬下が濡れたような感触があったが、まさかと思ってパンツを確認すると・・・さっきまで着ていた骸骨柄が、いつの間にか苺柄のパンツに替わっていたのだ。
「・・・まいっか」
だが一十三にとって下着を気にしたことはあまりない。種類が違っても着けていればノープロブレムという大らかな性格のお蔭で、事の一十三の失禁事件は静歌の全面的な協力により解決したのだった。濡れた骸骨柄のパンツは、何でも入る消臭性抜群の胸ポケットに収納済みである。
「!」
そうして一十三の失禁を対処していた静歌は、再び背後から自分たちをじっと見つめている、最初の視線と同じような感覚の視線に気が付いた。だが静歌は振り向かなくても分かるレベルであり、ようやくその視線が何かを訴えるような感覚に似ていることにに気付いた。
(これは助けを求める時の・・)
だが静歌はさっきの悲鳴の方が気になったため、やっぱり視線のことは後回しにしたのだった。
ちょっと前の話。恵美が神隠しのように消えたすぐ後の事。
「ここ・・・学校?」
靉寿梃子は眼鏡を掛け直し、注意深く周りを確認した。真っ暗な空間に目を慣れさせるのに少々時間がかかったが二、三分ではっきりと見えるようになった。その結果ここが学校であり、時間は暗さ読んで夜だということが分かった。そしてすぐに上の看板を見て、ここが三階の科学物理室前ということも後で分かった。
「私・・・ここに何の用で来たっけかな~・・・うーむ、分からんぞ」
目を瞑り記憶を辿ってみたが全く見当がつかない。まさか自分が操られてここに連れてこられたということは知る由もない梃弧子は、とりあえず今いる三階に何か手がかりがあるか歩き回ることにした。と思った矢先のことだ。
―ねえ、かくれんぼしよ?
「ふぇ?」
後ろを振り向いたその時、目の前に自分と同じ背格好の上は洋服、下は袴姿の女の子が立っていた。しかも笑顔で。梃弧子は女の子に途轍もない恐怖を感じて、恐る恐る訊いた。
「・・・どちら様?」
―・・・那奈子だよ♪
「・・・知らないですね」
―・・・かくれんぼしよ?
「・・・私、もうそんな年じゃないので。というか私は研究するのが好きなんで帰らせていただ」
梃弧子は那奈子に対し完全に腰が抜けかけ、一目散に帰りたい衝動を必死に抑えていた。那奈子に適当な挨拶をした後すぐに帰ろうとしたが・・・・那奈子はそれを許さなかった。
―かくれんぼしよ?
「いやだから」
―かくれんぼしよ?
「・・・・帰らせ・・ひゃぃん!?」
何度も同じことを発する那奈子に、もうすっごいやばい奴という認識を持った梃弧子は、挨拶を諦めてすぐに後ろに回れ右をして逃げようとした。だがそこも那奈子が笑顔で「かくれんぼしよ?」と目の前で言ってきた。瞬間移動したのか?
「へ・・へへ・・へえ・・・凄いな~あなたってマジシャンか何か?」
―かくれんぼしないと・・・
「?・・??????」
那奈子は俯くと、梃弧子の周りに次々と那奈子に似た少女が現れ、いつのまにか梃弧子が身動き取れなくなるまで埋め尽くされたのだった。逃げる気力も失せるほどの速い増殖に梃弧子は呆気に取られていたが、ハッと気を取り直すと、眼前に那奈子が笑顔で耳元で小声でこう言った。
―かくれんぼしろ
「きゃああああああ!!!??」
そして那奈子の軍団は次々と梃弧子に襲いかかった。梃弧子の叫び声は段々と小さくなっていった。そして残ったのは那奈子の笑い声だった。
―ふふふふ・・・
―コトン
そして梃弧子と那奈子はその場から消えた。
その時、梃弧子の白衣のポケットからナットドライバーが、痕跡を残すようにその場に小さく落下したのだった。
そしてその叫び声を聞いた一十三たちは、急いでその三階に向かった。
失禁は年を取るほど恥ずかしく思える行為です。ちゃんとあの時トイレに行けばよかったとか、我慢するんじゃなかったとか、私はすぐ我慢していっぱい貯めてから出す方です。つまり失禁しやすい体質なんです。だから膀胱炎にならないか、尿路結石にならないかとヒヤヒヤしながら生活しています。というか我慢のしすぎは体に毒だと思っておかないと危ないですよ。
怯える一十三に冷静な静歌、二人の今の関係はどう変わっていくのかも見どころかもしれません。恵美に続いて梃弧子が狙われ、二人はどこに連れ去られたのでしょうか・・・次回分かるかも?