第4話 桜会議
一十三の微かな思いは、より大きくなっていく。杏と犬太のとった行動とは・・・
「俺帰るわ」
「え?」
一十三の机からぴょんと跳び下りると、犬太は窓縁に飛び乗った。今日の放課後二人で森を探検するはずだった。だがなぜ中止になったのだろうか?一十三の驚きに犬太は手を振って、校舎から去り際にこう言った。
「お前、かくれん事件に興味があるんじゃねえのか?」
「え?・・・いや私は別n」
―バンッ
突然一十三の心の部屋に杏が入ってきた。杏はこの前、犬太に案内された【杏の森】で出会い、犬太を助けるために一十三が死にかけたその時に、杏が一十三の体に乗り移って敵を一網打尽にした話は、神螺儀小で密かに噂になっている。杏は、人ではないとても小さな妖精的存在だが、杏自身は自分のことを全く知らない。杏は一十三の心に入ると、自動的に一十三と体が入れ替わるように、一十三と約束をした。理由は犬太と友達としていられる為には、運動神経最悪の自分より、乗り移った時に運動能力が格段にアップする杏に頼る他ないからである。
「あったりめえじゃねえか!・・ってお前も参加しねえのか?」
「んーパス。ちょっと野暮用があってな。んじゃあな」
「おう!またな」
杏と犬太は手を振り合って別れた。自分がするはずだった別れの挨拶を奪われて、ものすごく不機嫌になる一十三を一十三の心の部屋で説得した。心の奥にいる時は《》の括弧にする。
「まあまあ・・でも面白そうじゃん!かくれんぼ!」
《・・でも杏ってじっとするの好き?》
「!・・・かくれんぼってじっとするゲームだっけ?」
《・・・はああ》
一十三は説明が面倒だなあと思いながらも、可能な限り分かり易く、杏に一から十まで説明した。
《まずね。一人の鬼役を決めるの。その鬼役が目を瞑って百を数えきる間に、他の人が決められた範囲の中のどこかに隠れるんだけど・・》
「百数えきったら?」
《鬼役が隠れている皆を探して見つけるの》
「見つかったら終わり?」
《うん。終わるまで一つにまとまってじっとすると思う》
「鬼役一人って寂しくないか?」
《うーん、絶対一人ってわけじゃないかもしれないけど・・私やったことないからそこまでは判らないかな・・・》
この学校に来るまでずっと父の指導を受けてきた一十三は、今の一年間を夢のように過ごしてきた。指導中は一人っきり・・だったような気がする。いや、何だかもう一人自分と同じくらいの、同じ顔の女の子がいたような気もするが、まあ基本的には一人だ。集団で行動することはまずなかった。考え込む一十三の顔を、杏はじーっと覗いている。それを困った顔で目を逸らす一十三だったが、やっと満足した杏がにやりと不敵な笑みを浮かべて、こう提案した。
「んじゃ、そのかくれんぼ事件の奴と一緒にやってみようぜ」
「・・えええ!?いきなりどうしたの!?」
「ニッヒヒィ・・・いいじゃねえか。桜も俺も初体験かくれんぼツアーだぜ!」
「え・・ええ!?意味わかんないよ。私、行かないからね!」
「かくれんぼやってみたくないの?」
隠れるという行為は少しばかし自信があった。自分は結構小柄で体も柔らかい。鬼に見つからないという、体における自信が一十三には確かにあった。
「・・やってみたいけど・・・」
「んじゃ決定―!」
そして杏もそんな一十三の本心に気付いていた。そして自分ももちろん一十三と一緒にやってみたいと思っていた。そんな二人の想いは、杏の強引な決断により決定したのだった。
好奇心は何よりにも勝るとはよく言ったものだ。ここからどんな波乱な戦いになるかを、一十三は思い知ることになる。