第29話 救出作戦 ~謎の少女~
ちょっと話が長いので二分割します。次の話もすぐに投稿するよ。一十三と飯子は葉奈子の前に現れた。そして一十三は即座に静歌の下へ向かうのが・・・?
―静歌!杏!
現れたのは飯子だけではなかった。飯子の後ろにひょっこりと一十三が顔を出したかと思えば、グラウンド上で倒れている静歌を目にした途端、一目散に静歌の元へ駆け寄った。一十三は座り込み静歌の安否を確認する中、静歌の胸から「フッ」と魂のような真っ白な雪玉が現れた。雪玉が一十三の気配に気付くと、最後の力を振り絞ってゆらゆらと一十三の胸に飛び込んだ。一十三がその雪玉を見てすぐに、雪玉が杏であることを理解すると、優しく自分の胸に誘い、抱き締めた。そして今にも消えそうな雪玉を見て泣いた。一十三の目から一筋、二筋の涙が頬を伝って、顎の中心に集まる。そして合流した涙は大きな滴となって雪玉に落下した。
―ふあ―
涙で濡れた雪玉は溶け、その中から蝶のような羽を生やした、一十三の手のひらにすっぽりと収まるくらいの着物を着た少女が現れた。一十三の温かい手を感じた杏は、ようやく意識を取り戻して目を覚ました。一十三の泣き顔を見ると、困った顔で言った。
《あいつ強すぎて、静歌も俺も気絶しちゃって・・勝てなくて・・悔しくて・・・・》
「分かったから。・・よしよし」
静歌の体を庇いながら戦い続けた杏だったが、しかし葉奈子の力は絶大で、初めて杏が気絶に追い込まれた。一十三は今回の敵が前のどの敵よりも強く、杏を今から無理をさせてしまう自分を恨んだ。でも自分と飯子だけでは駄目なんだ。一十三は涙を袖で拭いて、意を決して杏に訊いた。
「疲れてるところゴメン、もう少しだけ戦える?」
必死に絞り出した一十三の声は、杏の頭を優しく撫でつつもまだ戦いたい意思を示した。杏は学校の校舎と合体した葉奈子を目にしても尚、戦おうとする一十三に疑問を質問した。
《俺と静歌でも倒せなかったんだぞ!・・あ、あんなでっかいんだぞ、あいつ!・・・・怖く・・ないのか?》
動揺する杏に、一十三は困った顔で笑った。
「・・・怖いけど・・・目の前で泣くの我慢する飯子ちゃんを見るのはもう・・・嫌。後さ、飯子ちゃんと一緒にいて楽しいって思えたの。もし那奈子ちゃんと・・静歌と四人・・杏と五人で一緒に遠足に行けたらって思ったの。ここで逃げたらその夢が叶わないから。犬太君ばっかりじゃない。私の力だけじゃ何もできない。杏に頼りっぱなしなっちゃったけど・・・でも私だって戦って、戦って那奈子ちゃんを友達にしたいの」
涙をもう流さないように、必死に目に力を込めて答える一十三に、杏は何だかおかしくなった。
《わかった、わかった。しょうがねえな・・・俺がいなきゃ泣き虫桜だしな!》
「泣き虫じゃ・・・・・なくないけど」
一十三は否定しようとしたみたいだが、残念ながらさっき泣いたことを思い出し顔が赤くなった。
《後悔すんなよ?》
「もうしてる。でも、それ以上に杏と一緒にいられて楽しいの。杏と皆で遊べばもっと・・・」
一十三の自然な笑顔が杏の顔も笑顔に変えた。『楽しい』という感情が大きければ大きいいほど、杏の力は大きく、そして強くなっていった。杏の羽が段々と黄色が濃くなり、少しずつ発光していった。
一十三はふと静歌を見ると、静歌はぐっすりと眠っていた。なぜあの大蛇の塊を二度も受け、こうして眠っているのか。それは杏が覚えていた。
それは葉奈子が【幽夢一体】を発動させた時だった。子供達に標的を定めた葉奈子は、何本もの髪を束ねた蛇の群れを子供達に向かって攻撃したのだった。激しく揺れる地震、空から降ってくる迅雷、身動き取れないくらいの突風で、静歌の体を借りた杏はどうすることもできない。
その時、
―やめろー!
「!」
空から降ってきたその声は、瞬く間に子供達の前に消えていった。そして気づいた時には蛇の槍は『くの字』に折れ曲り、九十度右方向の地面に突き刺さっていた。
「何!?・・・これは・・・・」
葉奈子は突然の異変に驚くが、弾かれた感触はなかった。
だが杏だけはそれを目撃していた。
「お前・・・誰だ?」
葉奈子や子供達は見えていないが、確かに杏の目には子供達の目の前で、葉奈子の髪の槍を片手で弾いた少女が立っていた。服は頭からパーカーを被って短パンを着た、見たことのないが面影が一十三っぽい少女。声もそういえば一十三に似ている・・・と、傍観していた杏に突然少女が睨みつけてきた。
「!・・・何だよ・・味方なのか?」
杏は必死に地面にしがみ付いている間に、少女は睨みついたままこちらにじりじりと近づいていく。地震も雷も突風も少女には全く聞いていない。杏はその姿に恐怖したが、手を離せば風に飛ばされると思い、少女が目の前に来るまでただじっと怯えていた。少女が近づく間、何故か杏と少女以外の時間が止まったような感覚に襲われた。どうして葉奈子の攻撃を片手で弾くことが出来るのか、何故葉奈子が起こした自然災害に何のダメージも受けないのか。杏は少女に訊きたいことがいっぱいあったが、少女はそれを遮って語り始めた。
―あなたが桜一十三の『守護』?
「・・・へ?しゅご・・知らねえ」
杏にとって初めて聞く言葉だったが、少女は無視して続ける。
―そう。姉さんがあなたを選んだの・・・・
少女は目を瞑り、一呼吸付いてからこう言った。
―私は姉さんを助けたかっただけ。別にあなたを助けたわけじゃない。
「姉って・・・お前まさか・・・一十三の妹?」
―・・・私の名前は【左久良瞳】。まだ籠の中で待つ救世主。
「?????」
―もしまた会えるなら・・・姉さんとお風呂に入りたいな。
「・・え・・・あ・・・はあ・・」
―友達が何人もいて羨ましい。私には出来ないや。
「そうか?・・俺が作ってやろうか?」
―ゴメンね。それは出来ないの。私には私の守護がお父様から決められているから・・・それじゃあね。またいつか・・・
「ちょっとま」
―プツン・・・・・・
それから杏は、瞳と話した記憶だけがすっぽりと抜け落ちていた。つまり瞳と出会い、一十三が目の前まで近づいた後から、完全体の葉奈子に攻撃されるまでの間の記憶がなくなっていた。
「!静歌ちゃんを安全なところに移動させなきゃ!」
焦る一十三に杏はあの時の少女を思い出した。もしかしたらあいつが静歌を守ってくれたのかと・・・だが確証がないため一十三に伝えるのを躊躇い、そして諦めた。だが静歌のお蔭で、ここまで踏ん張ることが出来たのも事実だ。杏は静歌を見て言った。
《ああ、こいつはすげえ頑張った。だから後ですげえお礼しなきゃ、この気持ちは収まらねえ》
「うん。静歌ちゃんってちゃんと名前で言いたい。静歌ちゃんといろんな話をしてみたいから。友達になれるように頑張らなきゃ・・・」
一十三は静歌をグラウンドから離れた木陰に移動させた。そしてグラウンド上で蹲る子供達を発見した一十三は、すぐさま駆け寄ってこう叫んだ。
「あっちの静歌ちゃんの居るところに移動して?歩けない人いる?」
「桜ちゃん、私も手伝う」
「僕だってこれくらいは・・・」
「ありがとう」
梃弧子と阿木斗も子供達を早く助けたいと思い、一十三と一緒に子供達を静歌のいる場所まで移動させた。子供達にこれ以上の危ない目に遭わせないように・・・梃弧子と阿木斗は子供達の傍で待機することで、子供達をすぐに守れるようにと一十三に提案した。
「解った。後でまた会おう」
「当然」
「僕じゃなくて・・恵美にね」
「・・・うん」
一十三は梃弧子達と暫しの別れをすると、戦いの場『グラウンド場』へ移動したのだった。
まさか十ページになるとは思わなかったので分けます。そして佐久良瞳。名前は一緒なのに漢字が違うのはなぜか。瞳とはいったい何者なのか?それはまた何れわかるさ・・何れな・・・そしていざ最終決戦の場へ・・・次回決着!




