第3話 暴走 ~荒れる体育館~
女子Dの正体が明らかになると同時に、一つの噂を耳にする少女が一人。物語の主役であり、今回は犬太とは別行動をとることになる桜一十三であった・・・
そして有無を言わさず、かくれんぼゲームが始まった。突如体育館全体が真っ暗になったかと思えば、周りから跳び箱やマット、いろんなボールにバレーボールのネット、卓球台。他にもいろんなスポーツに使う道具が体育館の至る所にばら撒かれた。戸惑う生徒、教員を余所に那奈子は、「フフフフッ」と不気味な笑い声を洩らしながら、ゆっくりと百から数を数え始めたのだった。
「どうしてこんなこと?」
女子Dはさっきまで自分と遊んでいたはずなのに、どうして他の皆まで巻き込んで、こんな大事なことするのだろう。那奈子に疑問を投げかける。だが、那奈子は数えることを止めず、女子Dの心に直接答えた。
「あなたじゃ満足できないの」
「え・・」
女子Dは絶望した。ずっと友達だと思っていた那奈子はあっさり自分を捨てたのだ。初めて友達が出来たこと、そして一瞬にして捨てられたこと。彼女の心のショックはとても大きく体は硬直した。止まった女子Dに対し、生徒達は恐怖に怯えながらも猛スピードで隠れ果せた。そして那奈子は最後の数を叫ぶ。
「ゼーロー」
女子Dは固まったまま、那奈子の目の前に突っ立っていた。那奈子は笑顔で言った。
「さあ、みんなどこぉ?」
振り向くと、そこには女子Dの悲しむ顔が目に映った。だが那奈子は何故泣いているのか理解できないまま、ガッカリ肩を落としてこう言った。
「ねえ、あなた。昨日までのあなたの隠れ技は何だったの?このゲームはあなたと私で、最後のディナーとして楽しむはずだったのに・・・・はあ・・もうや~めた」
―バァ
真っ暗な空間は消えた。
体育館はさっきまでの風貌を取り戻した。生徒や教員達は隠れている場所ではなく、真っ黒になる前の立ち位置に戻っていた。
だがたった一人、女子Dを除いて・・・
この事件は『かくれんぼ隠し事件』として全生徒中に噂になった。女子D【伊達飯子】はこれ以降、どこからも発見されることはなかった。彼女は友達がいなかった。そのことが原因で噂が肥大化していって今では・・・
『幽霊那奈子と伊達飯子が共謀して学校でかくれんぼを始めたが、途中に那奈子が裏切って恭を神隠しに会わせた』
神隠しかどうかは分からないが、那奈子さんは一気に悪霊として生徒から嫌われ者になった。この事件以降かくれんぼが起こると、那奈子さんともう一人の生徒が全身真っ黒の姿で、一緒にかくれんぼの鬼として登場するようになったのだった。
一十三が転校して一か月後の話。
そして今。
「桜ちゃん」
「え!」
最近一十三に話しかけてくれる生徒が増えた。だが一十三は、いまだに犬太以外の人と話すことができず、また体をもじもじさせながら目線を相手からずらしていた。一体どんな風に話せばいいか。しかも自分も知らない他人とどうやって関わればいいか。また新たなる壁が自分の前に、大きく立ち塞がったのを感じた。犬太と同じように話せれば・・・一十三はそう思って、一度このクラスのリーダー的存在である、【中村剛】に試しそうと思ったのだが、結局言えずに終わった。つまりそそり立つ壁の前で、何時までも立ち往生している状態だった。
「・・ええっと」
「おい」
「!」
後ろから一十三の肩に手を乗せたのは犬太だった。転入したその日に彼と出会い、大きな事件に巻き込まれたが、そのお蔭で一十三は犬太と友達になったのだ。犬太は肩に乗せたまま、何もするでもなくじっとしていたが、一十三は不思議と体の緊張が溶けていった。
「桜ちゃんって、かくれんぼ事件知ってる?」
「え?・・・いや・・全然」
必死に首や手を左右に振って言葉と体で訴えると、女子生徒は「ふーん」と言うとニヤリと笑って説明し始めた。
「かくれんぼをして見つかっちゃった生徒をどこかへ隠しちゃうの。神隠しって言うんだけどね・・・」
女子生徒の長い話が終わると、最後にこう締めくくった。
「・・・とにかく、夜中にかくれんぼはぜぇ~ったいやめてよね!」
「は・・・はい!分かりました」
「そ・・・それじゃあねぇ~」
女子生徒も初めて一十三と話すのに、どんな話をしたらいいか悩んでいたが、やっぱり有名な噂話が良いかもと思って勇気を出して言ってみると、一十三は逃げずに聞いてくれた。それが彼女にとっては大成功であり、とても満足したように満面の笑みで手を振うと、ランドセルをかろって(九州の方言で、背負う)帰って行った。
「えーっと・・・」
「こいつもお前の事が気になってたんだろ?・・・良かったじゃねえか。話せて」
さっきの女子生徒の勢いに圧倒されながらも、辛うじて手を振って固まっていた一十三に、犬太は細い目で見つめながらランドセルをかろった。一十三はさっきの生徒の行動を思い出した。すると手足がビクビクと震えていたことや、冷や汗があったこと、動作が少し大げさだったこと。この一連の行動が自分もよく知っている。いや、自分もよく陥る緊張から来るものだということを思い出した。
「・・・あの子も・・私と同じだったんだ・・・」
「初めては誰でも緊張するし、勇気もいる。けどそれが出来た時の達成感はいいぞ、桜」
「・・・はい」
一十三はまだ初めてのことが多すぎて、一体どこから手を付けていいのか分からない。けれど犬太の傍ばかりじゃいられない。犬太がいなくても自分一人で壁を乗り越えたい。一十三の想いは、振り子のように揺れ動くのだった。
ここから仲間集めが始まりますね。わくわくします。ワンピースの時もやっぱり仲間集めがワクワクしたのを思い出します。そこまで大人数にはならないのであしからず・・・