第23話 救出作戦 ~阿木斗の作戦~
阿木斗は言う。夢を無理やり壊せば、那奈子の心が壊れてしまい、心が壊れれば体もいずれ壊れてしまう。そして少しでも多くの子供達を元の世界へ帰す為に動く静歌達と、静歌達の帰りを待つ一十三達であった・・・
静歌と杏が那奈子の夢の世界で頑張っている間、ここ神螺儀小学校三階の校舎では・・・
「どれくらいいるの?攫われた人」
「五人くらいかな・・あ、でもさっき靉寿さんともう一人の生徒が攫われて・・・」
「七人か」
「うん」
一十三と飯子は、未だに暴れる那奈子を二人がかりで取り押さえていた。杏のいない時間はずっと不安だったが、飯子がいる。一人じゃ駄目かもしれないけど、二人なら・・・一十三は那奈子を取り押さえている間、そんなことを考えていた。
「ふーん・・・一人で大丈夫かな?」
「・・・分からないけど信じてみよう。静歌のこと(杏のことも)」
杏がいるととても心強かった。もし静歌の大きな支えになれば・・一十三の杏にかける信頼はとても大きく、犬太との仲が羨ましくもあった。
「ん~、私は初めて会ったばっかりだし、まだ信じるなんて難しいかな。でも今はさくちゃんと那奈子ちゃんの手を握ってるってことがとても新鮮で嬉しいんだ。だから今度は静歌ちゃんの手も握ってさ、友達の輪を作ってみたいな」
「友達の輪?」
「皆で手を取り合って輪っかみたいにするの。きっと楽しいよ?」
「そう・・かな」
飯子の言う友達の輪に、一十三は少し興味が湧いた。そしていつかそれ叶う時が来たら・・・今は絶対耐えなきゃいけないんだ。と今一度手に力を込めた一十三であった。一十三は久しぶりの静かな心の中で、自分や静歌、飯子や那奈子と手を繋いで輪を作るさまを想像してみた。
そして、
「ふふっ」
と笑った一十三に、飯子もにんまり笑って、
「どう?」
と答えた。
「本当にそうなったら・・ううん。そんな未来を私は・・・」
飯子と自然と会話をしている自分が、何だか鏡の向こう側にいる別の自分のように思えた。でも違う。しっかりとした自分がここにあって、杏がいないというこの不安も、友達の輪という名の大きな夢が、一十三の心を大きな自信に変えていった。
飯子は那奈子を助けたい。那奈子ちゃんがこんなことになっていることを今まで知らなかったという罪悪感をこのままにしたくない。さくちゃんと静歌ちゃんと一緒なら、もしかしたら那奈子ちゃんや攫われた人達を助け出せるかもしれない。那奈子ちゃんが望む、沢山の人とかくれんぼをしたいという夢を叶えるために、飯子は覚悟した。
ここは那奈子の夢の世界。そしてこの中にいるのが、暴走した夢の欠片によって攫われた子供達と静歌、杏そして那奈子本人、合わせて合計八名+杏+那奈子。静歌と杏は、攫われた子供達を夢の世界から元の世界へ助け出して、最終的に那奈子を助けることが目的だ。現在那奈子は子供たち七人とグランド場でかくれんぼをしている。その間静歌達は、物陰に隠れ、那奈子が数を数え終わる前に、隠れている子供達を何時連れ出そうか考えていた。
攫われた子供達の中で、【牧野恵美】の中に眠っていた【阿木斗】は、恵美の危機と那奈子を暴走させた犯人に強く怒り、静歌達に協力したいと提案した。だが静歌は、突然協力を煽ってきた相手をそう簡単に信用できるわけがなかった。阿木斗はそんな静歌を見透かしていたかのように、那奈子の暴走を止める方法があると言ってきた。その真意は・・・
「那奈子を止める方法・・・それはこの世界にいる那奈子を封印すること」
「封印?」
「この世界の那奈子はとても強い。でも攫われた子供達を一人でも多く元の世界に帰せば、那奈子の力は格段に下がる。僕以外の子供を全員帰した時に、杏の力で多くの人とかくれんぼがしたいという夢だけを、那奈子の心のずっと奥深くに封印する。そして全員が脱出した後、残った僕がこの大きくなったこの世界を収縮させて、那奈子に返す。もう二度とこんなことが起きないくらいに小さくして・・・」
長い説明を終えた阿木斗に静歌が一言。
「壊すじゃ駄目なのか?」
「この世界を壊すということは、那奈子の心を壊し、那奈子自身も壊してしまう。だから決して壊してはいけない。もし壊すことが出来るのなら、それは那奈子自身がやらねばならない。でもこの世界は、外部から無理やり暴走させた夢の世界。もし那奈子を自力で助けたいなら、那奈子の説得が最優先。出来る?」
阿木斗はそう言って、静歌の返答を待たずに。那奈子の手から最も遠い校長の銅像まで走り去った。かくれんぼを再開したようだ。静歌は生まれて一度も説得したことはない。初挑戦で那奈子を説得させることが出来るのだろうか?静歌の心は大きく揺れた。
《おい。時間がねえ。とりあえず阿木斗以外の子供を助けるぞ》
「あ・・ああ」
静歌は一先ず悩みを止め、杏に急かされるように子供がどこに隠れているか探し始めた。
まず一人目。小柄でへそを出していつも鼻を穿っている十歳の少年。
「名前は?」
「ほしじょらかじゅきぃ(星空和樹)!」
「星空和樹か・・分かった。覚えた」
静歌の耳はいい。相手の言いたいことは静歌の耳にしっかりと伝わっていた。静歌は真剣に相手の目を睨まないように、目力を話している間だけ弱めることに専念した。これは少年と話す前に、杏から聞かされた案であった。
星空和樹少年に出会う前、隠れている子供を探している最中の事だった・・・
《おめえは目がめっちゃ怖い!とにかく優しい感じの目にしろ》
(そんなのどうしたら・・・)
《とにかく口らへんに力籠めてろ。子供ってのは怖い顔してる奴とはぜってー話さねえからな》
(やってみる・・・・こんな感じか?)
誰かに顔が怖いと言われたことがなかった静歌は、初めて眉間から口の方へ力を集中した。いつも眉間を生やし相手を威嚇している顔が、眉間から皺が消え、顎の方に皺が出現し、顎自体が若干震えている。杏は呆れて言った。
《お前下手か》
(うるさい!こっちだって必死なんだ!で?こんな感じでいいのか?)
中々上手くいかない静歌に、杏の苛立ちがどんどん上がっていく。
《力をもうちょっと抜けね?》
(え?・・・む~!)
《もうちょっと!》
(もう・・・限界・・)
周りから見れば、静歌一人で木とにらめっこしている風にしか見えない。そんな中、近くで隠れていた少年は、つい気になって静歌の方に近づいて行った。
《まあ・・・これでいっか・・・ったく、桜もお前も何で力んじまうんだろうな》
(これが・・・普通・・なのか?)
《お前らが無駄に力使いすぎるんだよ!子供相手なんだから、もっと力抜いて喋ればいいじゃねえか》
(私は桜様で精いっぱいだ。他の同世代とはまだ・・)
《じゃあ俺は何だよ》
(お前はライバルだ)
《・・・へ?》
何でライバル呼ばわりされるのか、杏の頭から大きなハテナマークが現れた。
その時。
「お兄・・ちゃん?」
「私はお姉ちゃんだ!・・・え?」
突然後ろから声がして、言葉が反射的に出てきてしまった。だが杏が言われた通り、力みすぎないように目をとにかく意識から外し、口元に意識を向ける。その手順を踏んでから少年に向き直り、今に至るわけだ。
「・・・お兄ちゃんって言った?」
「だって服がそれっぽい」
「!・・ああ、そうだったな。だが私は静歌という、れっきとした女の子だ。間違えるなよ」
にっこりと笑顔で和樹に振りまくが、笑顔の底から湧き上がる怒りを、少年は瞬時に感じ取った。
「おに・・お姉ちゃん・・怖い」
「・・・ハ!いや・・済まない」
静歌は我に返って、和樹に斜め四十五度の謝罪をすると、気を取り直して本題に入った。
「・・・コホン!では本題だ。今から君をここから逃がす。もちろん行き着く先は元の場所だ。安心しろ」
静歌の説明を聞いた少年は、ブンブンと大きく首を横に振って答えた。
「帰るの嫌!もっと遊ぶの!」
「え?・・でもここは」
まさか否定されるとは思ってもみなかった静歌は動揺し、和樹はついに泣き出した。
「だってパパもママも全然遊んでくれなかった!仕事仕事仕事って言って・・・・もうパパもママも大嫌い!でも那奈子ちゃんは一緒に何時までも遊んでくれる・・・だから大好き!この世界も大好き!」
彼は洗脳されているわけではなかった。ずっと一人にされた鬱憤をこの世界で発散しているのだ。静歌はここからどうすればいいか、すぐさま考え始めた。
もし阿木斗の言った説明が分からなかった場合、日本語下手でごめんなさい。私の説明が下手なせいです。とにかく試行錯誤して書いたのですが、やはり言葉で表すのは難しい。阿木斗は夢を小さくする力があり、杏もずっと神蜾儀の森にいた守り神だったので『封印する力』を備えている。貴神・那奈子を倒すには阿木斗と杏が鍵になるだろう。攫われた子供の一人、星空和樹の本心を聞いた静歌はどうする!?




