第20話 三人寄れば文殊後晴れ
飯子、一十三、飯子は力を合わせて那奈子を救うことを決意する。だが那奈子も一筋縄ではいかず・・・
「あああああああああああああああ!」
那奈子は暴走した。目から口から、穴という穴からどす黒い色、真赤な色が那奈子の体から勢いを増して飛び出してきた。その衝撃は途轍もない。三人はその衝撃の渦に巻き込まれ、後方に吹き飛ばされ尻餅を付いた。
「那奈子ちゃん・・・」
「一体どうなって」
「くっ・・・!」
絶望する二人に一十三は一瞬諦めるという言葉を思い出した。
「あきらめ・・・ちゃ・・・だめ・・・・・那奈子さんを・・取り戻さないと・・」
絶望する飯子は、何故ここまで一十三が諦めないのか理解できなかった。でも一十三が諦めないのに今、自分が諦めるわけにはいかない。そう思った。
「私の友達を・・・やっとできた友達を・・・こんな所で・・・絶対に嫌!」
「桜様、ご命令を」
静歌は今自分がどうすべきかを考えた。そして理解が追いついていない自分と未だ諦めない一十三、どちらに託すかを考えた。そして決まった。一十三の諦めない心に懸けてみようと。不確定な未来に懸けてみようと思ったのだ。そして一十三は飯子、そして静歌を見て言った。
「静歌は私と伊達さんを守って」
「御意」
静歌は一十三と飯子に向けられる赤と黒の絵の具のような攻撃を、素早い蹴りやパンチで無力化することが出来た。静歌の体力はまだ二人よりもあり、存分に二人を守ることが出来ると自信を取り戻した静歌は、敵に果敢に立ち向かうのであった。静歌を見た飯子も同様に一十三に問う。
「私はどうしたらいい?」
「手を繋いで?私と一緒に那奈子さんを取り返そう!」
「うん!絶対に離さないから」
「うん」
ムッ!とまた手を繋ぐ二人を見て嫉妬の感情が溢れ(あふれ)そうになる静歌だったが、この気持ちは後でいい。今大事なことはここを乗り切る事だ。ここが正念場だと三人は自然に気合が入った。
「行くよ」
「那奈子ちゃん・・・待っててね」
一十三と飯子は那奈子の手を片手ずつ握った。暴走する中で、掌が赤と黒の色から力が一番薄い位置にいた為に出来た事だった。だが那奈子もただでは倒れない。手の握っている二人に那奈子が襲いかかってくる。黒い色は痛み、赤色は苦しみ。一十三が色に触れて解ったことは、この色の正体であり、混ざり合えばまさに地獄であるということだった。色の猛攻に耐えながら一十三は考えた。どうしたら目覚めた那奈子に再び会えるのか。ずっと考えている時間はもうない。でもこんな地獄の中を冷静に考えることは、今の一十三にとってとても困難であった。そんな時、飯子が一十三を呼ぶ声がした。
「さくちゃん、私に任せて?」
「・・うん、分かった」
那奈子の事を一番分かっているのは飯子だけ。一十三は飯子に任せた。任された飯子は意を決して、那奈子に問いかけた。
「起きてるんでしょ?」
「・・・」
「私とまた遊ぼう?」
「・・・駄目だよ」
那奈子の確かな声を聞き取ることに成功した飯子は、心の中で(よっしゃ!)と歓喜した。
「!・・・やっぱりいるのね」
暴走する赤と黒の渦の中から、那奈子の悲しみの顔が徐々(じょじょ)に露わになっていく。だが渦に巻き込まれそうなほど微かで、儚い那奈子の声。飯子は後もう少しだと最後の勢いを付けた。
「駄目だよ・・・色んな人を巻き込んで、こんな酷いことになったのに、私だけ助かるなんて・・・ひき」
「卑怯者なんかじゃない。私に任せてほしいの」
「桜ちゃん・・・あなた一体何者なの?」
そして一人最後まで諦めなかった一十三に、那奈子は一瞬だけ興味を惹かれた。
「私は・・・・・伊達さんの友達だよ。もちろんあなたも静歌も友達」
「・・・・でも私解らない。どうやって攫ってきた人を助けられるのか・・」
「それは・・・・・」
《俺なら知ってる・・イテッ》
(杏!?大丈夫?)
杏はようやく起きた。だが今杏は今も深い傷を負っていて、完全に回復できていなかった。一十三はこんなにきつそうな杏の顔を見るのは初めてだった。
《俺だけじゃだめだ。手の空いている奴がいないと》
「手の空いている・・・あ」
「何でしょうか?桜様」
小刀を持って、絵の具の猛攻を上手く切り抜けている静歌は、ふと一十三と目が合った。
三人が力を合わせて那奈子を救うシーンは、やっぱりかっこいい。でも那奈子も自分がやってしまったことを、一体どうしたらいいのかと自分を追い詰めていく。一十三は飯子と静歌に比べて判断力が優れ、、静歌は他二人と比べて力があり、飯子は那奈子のことを知る一番の理解者である。三人の良い所を上手く使って、那奈子を取り戻せ!次回、杏参加の四殊の知恵!




