第17話 ぶつかり合う杏の猛攻
ついに一十三・杏が立ち上がる。力任せの杏の怒涛の攻撃に怯む那奈子。だが那奈子の分身の数には、いまだ限界を見せる兆しがなかった・・・
「次から次へと・・・かくれんぼじゃないじゃないのぉ!」
那奈子は凄まじいほどの怒りを露わにした。その怒りはもちろん・・・
「お前の相手はこの俺だー!」
一十三と入れ替わった杏だった。那奈子の分身は十人、二十人と増え一十三に襲いかかった。
「何だよそれ!面白いじゃん!」
一十三は那奈子の分身の能力を絶賛し、手いっぱいに広げて分身数人を十把一絡げに抱き着いてきた。そして抱き着いたかと思えば、杏は台風の目となって分身達を走りながら吹き飛ばしていった。分身達はその勢いで激しく壁や窓ガラス、天井板などにぶつかって雲の様に霧散した。そして一十三の勢いは止まらず、分身達を力と勢いで消しながら、那奈子の元へ猛スピードで突っ込んだ。
「止まらない!?」
「おりゃああ!」
那奈子は一十三の変わりように、その大胆な攻撃に驚愕した。だが、那奈子の前に飯子が庇うように現れた。
《今伊達ちゃんは操られて》
「解ってる!はあ!!!」
杏は一十三の言葉を先読みした。その上で飯子の腹に向かって、手を交差させて突っ込んだ。
「ぐはあ!」
飯子は猛スピードで腹に突っ込んできた杏を押さえることが出来ず、そのまま静歌と那奈子よりも後方に吹っ飛んだ。
「嘘・・」
「よそ見してんじゃねえ!」
杏の猛攻は収まらない。床に頭から強打した飯子の意識ははっきりしないまま、ボーっと天井を向いていた。杏は勢いを落とさずくるりと後ろに回ると、那奈子を真正面からタックルしてきた。
「かくれんぼじゃなくてプロレスごっこでもするつもり!」
那奈子の怒りは頂点に達した。自分の遊びができないことに憤った那奈子の髪が一気に逆立ち、その髪は大きくそして長いモンスターのような生き物に変身した。その何本かに束ねられたモンスターヘアーは杏に猛襲してきた。
「おお!」
《おおじゃないよ!避けないと!》
「あっそうだった」
寸でのところで一十三の声を聴いた杏は、くるりと後方一回転してモンスターヘアーの攻撃を避けた。はずだった。
《杏下!》
「え?」
「遅い!」
一足遅かった。避けた場所から一気に那奈子の分身が十体も現れ、杏の体にタコの足の様に絡みついてきた。杏は必死にそれ解こうとするが、抵抗すればするほど那奈子の分身の締め付けが大きく強くなっていった。これ以上抵抗したら命に関わってしまうと思った杏は、一先ず動きを止め相手の出方を見ることにした。そして静歌も分身の間の手にかかり、杏共々(ともども)現在分身によって、これ以上身動きが取れない状況になっていた。
「ふふっ・・やっとつっかまーえた♪」
「くっ・・・」
静歌は一連の一十三の猛攻撃を見ていた。そして分かった。自分よりも凄く強い。だったら何故、弱い私にいつも怯えていたのか、と疑問が頭を過った。だが今はそんな時ではない。
「那奈子!何をするつもりだ!」
「何って神様のルールを破った罰よ」
「うわあ!!」
《静歌!》
一十三の声も空しく、分身達によって体を覆い尽くされた静歌は、忽ち黒い石のように動かなくなった。一十三は一気に恐怖した。杏の力では那奈子に対抗するほどの力があるのだろうか?今圧倒的に不利なこの状況で・・・
「次はお前だ!」
「うぐっ・・・ああ!」
杏の体に巻き付く分身が、徐々に自分の体を浸蝕していく。自分の体が静歌のように石になってしまう・・・襲いかかる分身の浸蝕に、杏と一十三は段々と意識が遠のいていくのが分かった。
「待ってよ!那奈子ちゃん!」
「え?」
今どこからか声がした。薄れゆく意識の中、一十三は杏を通じて振り向く那奈子の視線の先を見た。那奈子の一十三に映っている景色は・・・伊達飯子の姿だった。
那奈子の分身は、一度に十人もの分身を作り出すことができる。だがもちろん代償はある。・・・いや、あった。だがそれは貴神となったことで、とても少ない代償で分身を即座に作り出すことができるようになった。結果杏の猛攻であっても、貴神・那奈子を倒すことはとても難しくなったのだ。そして、ピンチになった一十三・杏と静歌の前に現れたのは、正気を取り戻した飯子の姿であった。
やっぱり戦闘シーンを描くと文字数が格段に多くなって、読む人も疲れるんじゃないかと気が気じゃありませんでした。まあ、まだ続くんですけどね・・・杏の得意技はやっぱり力技。まあ暴力というわけなんですが、まあ基本的には自分よりも強そうな相手を前にすれば、さらに力が増すタイプです。でも静歌の常人の力では那奈子に勝つことはできません。頭を使う一十三と、体で暴れる杏、一体どう切り抜けるか・・・次回に続く。




