第15話 那奈子 ~貴神の儀式~
那奈子の過去篇、ここに完結。北条那奈子は貴神高鬼と出会った。つい話しかけてしまった那奈子に高鬼はニヤリと不気味にほくそ笑むのであった・・・
そんなある日、校舎裏で誰かが円を描くように歩きながら、ノートをじっと見つめている姿を発見した。私は彼の行為に興味が湧いて、つい近づいてしまった。彼の傍まで近づいて「何してるの?」と、名前も知らない彼に話しかけたことが、私の運命を大きく変えることになった。彼は私を見てにやりと笑ってこう言った。
「君は【北条那奈子】だね。僕は【貴神高鬼】、君より一学年高い五年生だ。君の願いを叶えてあげたいと常日頃から思っていたんだ。でも君はとても近寄りがたいオーラがあるみたいで近づけなかったけれど、君の方から来るなんて好都合なことこの上ない。ちょっとそのままじっとしてくれないか?すぐに終わるよ」
貴神高鬼。聞いたことがない名前。だけど彼の話している姿は、どこか演技じみていてとても気持ちが悪い。近づかなければよかったと、すぐに踵を返して帰ろうとした。
「あれ?・・」
だが何故だろう。全く体が動かない。体を誰かに縛り付けられるかのように、体中がぎしぎしと締め付けられた。
「痛い・・・」
「待ってと言ったはずだよ。カメラを撮影するだけだから・・・」
貴神高鬼はズボンのポケットから四角い機械のようなものを取り出すと、カメラの大きなレンズを私に向けた。レンズを向けられた私は、さらに顔が誰かに縛り付けられるかのような激痛に見舞われた。彼は苦痛に歪む私を見て、にやにや笑ってカシャリッとカメラの上の突起物を押していた。
その時。
「ひぃ!・・・誰よ・・・・あなた・・」
私以外の周りの空間が突然歪みだした。そしてカメラから赤と黒の絵の具が飛び散って交わるように、二つの色だけが支配する空間に変わっていた。目の前にいるはずの貴神高鬼は既にいない。代わりに禍々(まがまが)しい異形の何かが、私をじっと睨んでいるように見えた。
〝お前が一番目の【貴神】か・・・〟
「貴神?・・・」
それはあの少年の名前。でも私の名は【北条那奈子】なはず・・・
〝お前は我、我はお前。お前の感情の一片が我を産み、貴神高鬼が我を一個の生物としてお前の体から解き放った〟
「・・意味が分からない・・・」
脳が理解に追いつけない。突然のことで一時的に麻痺しているのだ。体の硬直は締め付けられるような苦しい痛みだけではない。私は今、混乱している。
〝我の願いは、かくれんぼを多くの人間と楽しむこと。あんな一人の女と二人で遊ぶなんてつまらん。興醒めだ。さっさと捨てるぞ〟
「!」
一人の女。それは伊達さんの事だ。私が初めてできた友達。年は十才も離れているけれど、私にとっての最大の理解者であり楽しさを共有する同志。彼女の悪口は許さない!
「伊達さんを悪く言わないで!」
硬直状態の私が必死に吐き出した言葉。だが、この異形な何かは「フッ」と笑った。
〝だがお前の心にもあるだろう?もう二人だけのかくれんぼなどつまらん・・と〟
「それは・・・」
確かにそれはあった。だがそれは私や、伊達さんが他の人よりも生徒との交流が苦手なだけだ。そして二人の関係を薄れさせてしまうことへの懸念もあった。友達が増えるということは遊びの幅が広がるということ。でも友達が増えれば、元いた友達との時間も多少なりとも減るということだ。私はそれが嫌だった。彼女との他愛もない会話、そして遊びが私の心を、勉強づくしで傷ついた私の心を癒してくれた。それは私が今まで受けたことのないような体験で、更なる友達を求めることは、伊達さんとの思い出を裏切ってしまうのではないかという罪悪感があった。
〝だがこのままではかくれんぼに飽きてしまうぞ?〟
「!」
私の心を見透かすように、異形の何かは痛いところを付いてきた。私は同じルールで伊達さんと遊んできたかくれんぼは、今では少し食傷気味だった。飽き始めていたのも事実。私にとってのかくれんぼの理想とは一体なんだったのか。と最近悩んでいたのを、こいつは知っているのだ。
「でも・・・・」
〝もうよい・・・お前の考えなど私の願いの前では全て無効だ〟
「何ですって!?」
〝お前のような脆弱な人間などいらん。私が代わりに使ってやろう!〟
「え」
「きゃあああああ!」
私の口の中に、その異形な何かがすごい勢いで入っていった。そして私の意識はそこで途切れた。その後、体育館であの事件は起こったのだった。
那奈子は実は二十歳だったのです。でも背丈は一十三達の年ごろとほとんど変わりはない。でも十年も年上なので結構物知り。貴神高鬼はカメラをいつもバックに入れていて、ターゲットを発見するとバックから取り出して、首にかけてからカメラを起動させる。デジカメだとなんか違うので、大きな円柱に見えるレンズのカメラで理解してくだされば幸いです。次からは一十三と那奈子の戦いが再開します。




