第11話 相見える時
謎のナットドライバーを発見した三人はその持ち主を調べた。そしてようやく那奈子は動き出す・・・!
「・・・」
「どうしたんだろうね、この子」
突然会話の中に入ってきたかと思えば、一十三と飯子の手を握る。まるで二人きりにしないように壁を作るような静歌の行動に、二人は呆然とした顔で見た。今三人はようやく階段を上がり終え、三階に辿り着いた。静歌は手を繋いで以来、一十三や飯子を見ることなく、真っ直ぐ前だけを向いて進み続けていた。三階の廊下は、また二階や一階の時と同じような暗闇が廊下を支配していた。そして静歌達はあの叫び声の元へ急いだ。
《おい桜、何時まで怖がってんだ?》
(だって暗いとこにいると、ずっと不安なんだもん)
一十三の心の部屋で、杏の『暴れたい』と言う本能はどんどん膨れ上がっていた。次々と叫び声が暗闇の学校に起こっている今の状況は、一十三にとって最悪だった。そして何時までも怯え続ける一十三に、イライラの限界を迎えた杏はついに怒り出した。だが一十三の恐怖はいまだ健在であり、一人仲間が増えたとて恐怖がわずかに減っただけ。
《俺に代わるか?》
(・・・もう少しだけ待って!)
《なんでだよ?怖いんじゃねえのか?》
(そうだけど・・・)
一十三は恐怖よりも、叫び声の原因が何なのかとても気になっていた。それともう一つ。
(できれば私のままで謎を解きたい・・かな?)
《ふーん・・まあいっか。俺今すっげー動きたい気分なんだからな。頼むぜ?》
(解ってるってば・・・でも私の体なんだから暴れすぎないでよ?毎回病院帰りは嫌だからね?)
《おう!》
杏の暴れっぷりは、日々一十三の体に大きなダメージを残していた。その度に神螺儀病院に行き続けたことで、病院の人に顔を覚えられるようになっていた。でも杏と代わりばんこしていると、体がどんどん引き締まり、強い筋肉が付いていくのが分かった。自分の体が強くなるのは悪い事ではない。強くなる度に怪我がどんどん減って、朝起きれば早く運動したいという気持ちが大きくなっていった。杏と一緒にいるということは自分が運動型の体になっていくということなのだろう。そう感じ始めていた。だけど最近犬太と一十三が仲良くなる時間が増え始めると、杏に代わってやる機会も少しずつ減っていき、犬太と杏の遊ぶ時間が少なくなっていた。それが杏のイライラする原因の大部分であったのだ。
《約束だぜ》
(分かった・・・約束だね)
そして一時的に杏は眠りについた。一十三はもし自分の身に危険が及んだとしても、すぐに杏を呼び出せるように、より一層気を引き締めようと誓ったのだった。
「これは・・・」
「父さんがよく使ってる・・えっと・・」
「ナットドライバー」
「そうそうそれそれ」
「伊達さんのお父さんは機械を扱う仕事なの?」
「そうみたいだね。だからよく見るんだ、これ」
歩いて五十メートルくらい歩いていると、目の前にナットドライバーが廊下の下に無造作に転がっていた。飯子はそれを何の躊躇いもなく、拾って一十三と静歌に見せた。
「おい、敵の罠かもしれないのに・・」
静歌は怒って注意したが、飯子は「別にないけど」とあっけらかんとした態度を見せた。飯子は先ほどとても怖がっていたが、一十三達と出会ったことで心に余裕が出来たようである。
「ちょっと待って」
「「?」」
一十三はあることに気が付いた。ナットドライバーの持ち手をよく見ると、何か文字らしきものが描いてあった。
「伊達さん、それ貸して?」
「うん、いいよ」
快く貸してくれた飯子に感謝した一十三は、ナットドライバーに描かれた文字を確認した。マジックペンで『テココ』とカタカナで書かれていた。一十三は真っ先に思い出した。
「これ・・靉寿梃弧子さんのものじゃ・・」
「ああ知ってる!天才科学者の!」
「知ってるの?私と同じ五年生だよ?」
「だって、うち等のクラスにも靉寿梃弧子が開発した道具が大活躍中だからね」
一十三は、下級生である飯子でさえ知っている有名人であったことに驚いた。眼鏡と大人用の白衣を着て、いかにも科学者の立ち振る舞いを見せる靉寿梃弧子は、一十三の同じクラスである。だがまだ話したことはないが、一十三にとっては気になる生徒の一人でもある。だが静歌は意気投合する二人の会話を見て、またムカッと胸の中に針が刺さったような感覚に襲われた。そして二人その会話を遮るように入り込んだ。
「その靉寿梃弧子も何者かに誘拐されたとしたら・・・・」
その時、
―やっとここまで来たみたいね。
「「「!」」」
天井から、少女の声が廊下中に響き渡る。飯子と一十三はその言葉と共に全身が一気に凍りついた。だが静歌は怖がる素振りもなく、二人の前に守るようにして背中を向け、天井を睨み付けた。
「お前が誘拐事件の犯人か!」
―うん。あなたたちと遊ぶための人数合わせよ。さあ始めましょう。かくれんぼ。
「まだ話は終わって!」
静歌の追及を悉く無視した少女は、クスクスと笑った。
―ガシャン!・・ガシャガシャガシャガシャ
彼女の笑い声と共に、この階の全ての扉が全開した。飯子と一十三は震えた手を合わせ、そのまま膝からガックシと二人合わせて地面に崩れ落ちた。返答を要求した静歌の言葉は空しく、扉の開く音にかき消されたのだった。
突然扉が独りでに開くとか怖すぎて言葉にできない・・・ナットドライバーは先端が丸くて、円柱の凹みがあるドライバーであり、あんまり私は使ったことがありません。というか私事が多くて済みません。次からVS那奈子篇になりますね。




