第10話 ご対面のこんばんは
少し間が空いたことを謝ります。一十三と静歌はゆっくりと叫び声の元へ導かれてゆく中、階段の折り返し地点である少女に出会った・・・
―ねえ!
「ひぃいい!」
「・・・ようやく現れましたか」
三階に向かう階段を上っている途中だった。上り階段の途中にある折り返し地点で、一十三達は後ろの方から声が響き渡った。驚き体を跳ねる一十三に対し、静歌は冷静沈着な態度で、声のした方へ振り向き話し始めた。
「・・私も一緒についてっていいかい?」
声の正体は、自分たちと同じくらいの背丈で、少しぽっちゃり系でポニーテールの女の子であった。手と手を擦り合わせ、学校の中の怖さを必死に堪えているように見える。自分と同じように怖いのだろうと理解した一十三だが、だったらなぜこんな所にいるの?という疑問が生まれた。だがそんな疑問を静歌はすぐさま言い放つ。
「ここに何の用だ、返答次第では・・」
「怖いからやめて!」
一瞬殺気を見せた静歌を必死で止めた一十三に、女の子は思わずクスッと笑って緊張が解けたように答えた。
「別に隠すことじゃないよ。夜の七時ごろに宿題の教科書を忘れたことを思い出してね。私の担任は宿題に厳しくて、どんな理由であっても鬼の形相で拳骨してくるんだ。だからとっとと教室に行って、ノートを持って帰ろうとしたんだけど・・・やっぱり夜の学校って・・なんか言い知れぬ恐怖があってね。いつの間にか足が竦んで動けなくなっちゃった」
照れ笑いを浮かべる少女を、目を未だに睨みつける静歌はさらに追及する。
「何階だ?」
「三階だよ。四年一組【伊達飯子】、一緒に行かないか?怖くてね」
飯子は体を震わせながら手を合わせて懇願した。一十三はすぐに共感すると、飯子の手に覆い被せるように手を合わせ、大きく「うん!」と頷いた。
「桜様!まだ敵かどうか分からないんですよ!」
「こんなに怖がってるんだよ!私だったら耐えられない」
一十三は静歌の言い分もごもっともだと思った。だが一十三は、飯子が本当に怖くて震えていると思っており、静歌にとってもここまで食い下がる一十三は初めてであった。初めての体験をした時、人もまた初めての行動をとってしまう。静歌もまたその一人であり、初めて一十三の反論を認めたのだった。
「・・・分かりました。でもしっかりと監視しますからね」
「うん、ありがとう」
「・・・」
更に初めてだった。自分をあんなに怯えていた一十三が自分にお礼を言う。静歌は大きく動揺した。
「あんたちって友達?」
「「!」」
二人で話し込んでしまったせいか、飯子は退屈を紛らわすように言った。一十三と静歌は吃驚ついでに、思いきり首を横に振って「違う」と大振りに否定した。
「私のお供というか・・・」
「それじゃあ友達ってことね」
「え?・・ええ?」
「違います!私は桜様の・・」
「でも楽しそう、私も混ぜてよ?」
飯子は気さくに二人の間に入り込んだ。そしてそれが一十三にとって不快ではなかった。
「えっと・・その」
「私の事は伊達ちゃんでいいから」
「え・・あ・・伊達・・ちゃん」
「そうそう・・・あんたたちの名前教えてくれる?」
「あ、はい。私が桜一十三で、この子が・・」
静歌は仲良く話し込む二人を見ていると、妙に胸がもやもやと気持ち悪い感覚に襲われた。そして無性に二人の会話を邪魔したくなってしまう気持ちに変わっていった。
「二人とも。話している暇があったら三階に行きますよ!」
「はあ~い、行こう?【さくちゃん】」
「は、はい!」
一十三の手をギュッと握ってついてくる飯子の行動が、又もや無性にムカついてきた静歌はハサミで切るように二人の手と手に割って入った。
「それじゃあ行きますよ」
右手に飯子の手、左手に一十三の手を握った静歌は、初めて握った一十三の手に言いようのない快感を走らせながら、三人は三階に挑むのであった。
飯子ちゃんのイラストはもうちょっとぽっちゃりにしたかったです。それでいっぱい動けばスリムになるみたいな感じで二種類の飯子を楽しめるように・・・と思ったのですが、まだまだぽっちゃりを描くのが足りないみたいです。もっと描いて慣れないと・・・静歌の心境の変化も見逃せません。




