再会
《ラロック・アイス・シティでログインしました!》
イベント発表後、初めてのログインだ。
定番だが、この町も初イベントとあってあちこちに様々な飾りつけがされてある。
いつもの静かな雪の街から、賑やかな街となった感じ。
NPCなんかもイベントとあって、いつもと違う帽子やら服やら。
まあ初イベントだしな、盛り上げなきゃね。
「イベント、ぜひ参加して下さいね~!」
街を歩いていれば、そんな可愛らしい声が聞こえてきた。
雑貨屋や武器屋の看板娘達も、またこのイベントの盛り上げに一役買っているようだ。
「うおー!頑張るよ!」
「イベント衣装かわいい……」
「上位入れたら景品あげるね~!」
イベント中の特別衣装に身を包んだNPC娘達を囲むようにいる男達。
女性NPCは、男プレイヤーに多いに人気がある。
あれだけの男に囲まれていても全く動じない、嫌な顔一つせず変わらぬ笑顔を振り撒いている。
中身が無いというのは、デメリットなようでメリットなのかもしれない。
……なんて、考えていると一人の男がその中に入っていった。
「――あ!さとう たくやさん!イベント頑張って下さいね~!応援してます!」
瞬間、空気が凍る。
NPC娘が、今確かにプレイヤー個人を指してそう言っているのだ。とびきりの笑顔で。
……なんか本名っぽいけど大丈夫?
「はは、頑張るよ」
そう、『よくあること』のように。
それだけ言って、軽く応答して去って行くその男。
「……何だよ、アイツ……」
「どうやってあそこまで仲良く」
「悔しい……」
取り残された男達は、完全に敗北側。
……噂で聞いてたが、NPCガチ勢というやつらしい。初めて見た。
かわいいNPCが自分によくしてくれるのなら、案外悪くないかも。
俺?最近は目を合わせるだけで怖い顔されるようになったよ!
悪行をやればやるほど、NPCにも分かるようになるのかね。
―――――――――――――――
《ラロック・アイス・スノウフィールドに移動しました!》
「ファイヤーウェーブ!」
「スラッシュ!」
「ヒール!」
入った時間もあるが、現在狩場は物凄く活気がある。
イベントが始まる前に、出来るだけスキルや装備を整えておきたいという考えだろう。
その考えは俺も同じ。やる事は変わんないけどね。
「人、多いな……」
ただまあ、そう漏れてしまう程、人が多いのだ。
とてもやりづらい。PKした所でその後が地獄だなこりゃ。
―――――――――――――
「くっ……」
「油断したあ……」
《PKペナルティ、第一段階が発動しました。貴方をPKしたプレイヤーはPKペナルティを負わなくなります》
「悪く思うなよ」
本日最初の犠牲者を出した所。
剥ぎ取る暇もない。なんたってプレイヤーがあちこちにいるからな……皆気合入り過ぎ。
……という訳で、逃げまーす!ターゲットにされちゃ困るから。PKなんて先手じゃなきゃやってらんね。
《カオリ様がログインしました!》
《「しっこくさーん!しっこくさーん!》
うるせえ!
全力疾走――しようとすると、飛んでくるメッセージ。
ってカオリか、久しぶり――
「ファイアーアロー!」
「――!」
飛んでくる火の矢を避ける。まあ狙われてるなとは思ってたけどさ。
取り合えず一旦逃げよう。
「疾走!」
疾走発動、その場から走り抜ける。
本当に逃げるのに最高なスキルだ。このまま町まで行っちゃおう。
……カオリか、久しぶりに会うな。
―――――――――――――――
始まりの街、カオリと話し合った例の喫茶店がカオリとの集合場所だ。
ついたものの、やはり人が多い。
初イベントに寄せられて、新規もまた増えているんだと実感できる。
「……分かりやす」
PK職ってのは、中々誰が誰か分からない見た目だ。
フードで顔を隠しているからな。あっこの前の!みたいになったら面倒くさいし。
……んでまあカオリもアイアンヘルムで顔を隠しているものの、その図体と立ち振る舞いですぐ分かる。
「……あ!」
目が合った。
「へへ、しっこくさーん!お久しぶりでーす!」
俺を見つけるやいなや、大手を振りながらこちらに向かってくる。
コイツには周りのプレイヤーが見えていないんだろうか。
その巨体が発する威圧感で、自分が道を作っている事に気が付いているのだろうか。
「……?固まっちゃった!」
絶対気付いてないわ……
恐らく死んだ目をしている俺を、トントン叩くカオリ。
「誰?あれ……すげえ威圧感」
「絶対トッププレイヤーでしょ、あれ」
「おいおい、もしかして初心者狩りにでもしに来たのか?名前隠してるし……」
そこのプレイヤー共、聞こえてんぞ……
「よう、久しぶりだなカオリ……ここじゃあれだから、歩きながら話そうぜ」
「はーい!分かりました!えへへ……」
元気いいなほんと。
――――――――――――――
「……で、色々聞きたいんだけど」
「はい?」
「レベル上がってるし、この職業『狂戦士見習い』って何?」
確か最後に会った時はレベル15も行かないぐらいだったのに、それが超えて17。
職業も何かおっかない名前になっている。
威圧感が上がっていたのは、気のせいでなかったようだ。
「い、いやあ実は『朝の運動』がてらPK活動をしてまして……この職業は成り行きでなったものです、すごいつよいんですよ!」
「……」
「そ、そんな目で見ないで下さーいー!」
じっとり見てやると、ポカポカ叩きだすカオリさん。
死ぬからやめて。
ったく……立花と同じ事してんじゃねーか。
俺なんて学生の時は――あ、やめとこ。
狂戦士、ね。それにしても。
「カオリ、ずっと一人で狩ってきたのか」
「……?そうですけど。ふ、フレンドいないですし……」
そうか、ソロでPKを、ね。
「フレンドは俺がいるだろ……で、どうやってソロでPKをやって来たんだ?」
「え、ええー?へへ、そうでした!いや、別にどうって事はないですけど……そうですね」
区切って、カオリは口を開く。
「私はソロの方にずっと挑んでたんですけど。まず不意打ちして、それからクライっていう相手の動きを一瞬止めるスキルがあるんですけど、それを発動して……
バーサーカーの特殊武技のブラッディーアタックっていうのがあって、それで攻撃したら大体終わりました」
なっが。
流暢に喋るカオリ。
まさか、ここまで対人戦を出来るようになっているとは。
「ただやっぱりそれで終わらない事もあるので、その場合は――ん!」
俺は、カオリの口を手で押さえる。
これ以上は、『ネタバレ』だ。
「カオリ――俺と、闘わないか?」
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