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PK職っていいものですよ?  作者: aaa168(スリーエー)
『ラロック・アイス』編
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回避

恥ずかしながら少しエタっておりました。

投稿遅れて申し訳ないです……

《???様との決闘に敗れました》



「……負けたか」



気付けば、俺は、空を見上げていた。


初めての正々堂々とした勝負が、黒星で終わってしまうとはな。



「いやあ、惜しかったよ漆黒君」



甘いマスクのまま、夜はそう言う。


ああ、何でだろうな。凄くその表情に腹が立つ。



「慰めの嘘なら要らねー。お前、まだまだ『手』があるだろ」



最後、武技を放とうとした時。


本当に惜しかったと言うのなら、あの余裕の顔はあり得ない。


俺が偽装という切り札を出したのにも関わらず、俺は最後まで……この男の切り札を引き出せなかった。



「……さあ、それはどうかな」



ニコやかな顔のまま、含みを持ってそう告げる夜。


はいはい悔しい悔しい。あーあ。



「フフ、少なくとも――君との勝負は非常に楽しかったよ。これは本当だ」


「はっ、そっか」



楽しい、か。


俺は立ち上がり、夜と向かい合う。



「完敗だ、夜。俺も楽しかったぜ」



《決闘専用フィールドから離脱します》



――――――――――――



身体がラロックアイスへと戻る。



「……さて。ギルドの皆が呼んでいる。ありがとう漆黒君。良い時間を過ごせたよ」


「はは、ギルドマスターは忙しいんだな」



まったくだ、と笑う夜。カリスマ性が漂っている。


この男のギルド、一体どれだけの規模なのやら。




「最後に。――漆黒君は、このゲームの事をどう思う」


「……は?」



変わる雰囲気。


唐突すぎて頭が追い付かない。


「完成度が高すぎるこの世界。そして私にある、『魔法の才能』。私は――不思議で仕方ないんだ」


……EFOというゲームは、完璧だ。突如現れた、新星のフルダイブVRMMO。


これまでに似たようなVR物は出ていた。が、ここまでの物は全くに現れておらず。


完成度も高く、あらゆるプレイヤー層がこのゲームにのめり込んでいる。


実際、EFOが現れてからは殆どのVRゲーが過疎っているのだ。



文字通りの『仮想世界』。


バグなんて聞いたことがない。メンテナンスも殆ど無い。


そしてこの男が言っていた『魔法の才能がある』というのが、意識過剰でも何でもない唯の真実であるとしたら。



……なんてな。



「まるで、『もう一つの世界』に入り込んだみたいだろう?」


「はは、変わった考えをお持ちで。残念だがこれは『ゲーム』だ」



もちろんログアウトも出来るし、ゲームのステータス等がある、これはれっきとした『ゲーム』だ。


俺はそう思っているし、この考えが変わる事もないだろう。


VRという技術が進んできている今。100年前にこのゲームが出ていたら信じるかもな。



「これはゲームだ。俺は心の底からそう思っている。それ以上でも以下でもない」


「フフ、そうか。いやいやすまない。昔からこういった物語が好きでね。ちょっとからかってみたくなったんだ」



悪戯に笑う夜は、軽くそう言ってのける。


ったく……



「君は本当に面白い。それでは。君とはまた闘うような気がするよ」



そう言って去っていく夜。



……本当に、不思議な男だった。




―――――――――――



「ふう」



あの男と闘って分かった、俺の課題点。


『回避』。


『制御』。


この他にもいっぱいあるけども……取り合えずこの2つ。



回避に関しては、以前から感じていた。


俺はスピード頼りの行動が多い。


回避がそれだ。スキルを使わず、俺のDEXによるスピードだけで行ってきた。


それを続けていれば、いずれそれが通用しない敵も出て来る。というか出てきたねさっき。


より洗練された回避術を得る。それが第一の目標。



二つに制御。


俺の早すぎるスピードを制御出来るようにしよう。以上。


まあ言ってしまえば加減すればいいんだが、それでは面白くないし、俺の敏捷が勿体ない。


極限のスピードかつ、そのスピードを最大限に活かしていきたいのだ。



この2つは、夜に対する課題でもある。


それだけ悔しかったってこった。完敗だったからな。


「さて」



俺の課題は見つかった。


そして、この課題をクリアするには実戦の中からキーを見つけていくしかない。


頑張るぞー。そうと決まればスノウフィールドへ。



――――――――――――




スノウフィールドまで歩く途中、イメージを膨らませる。


手に持つナイフ。これで防御ってのもやっぱ無茶だよなあ……


『攻撃は最大の防御』。古代から語り継がれる戦闘の諺だ。


攻撃回数を高め相手に何をさせ無くする事は、結果としては自分の身を守る為とも取れるとかなんとか。



『攻撃』と『防御』、戦闘では常にこの二つが行ったり来たり。


夜との戦闘では、基本俺が『防御』側だった。攻撃のターンが来たのは、本当に最後の一瞬だけだ。


そりゃ負けるわ。ずっと翻弄されてたし。


遠距離との戦闘は、本当に距離を縮めるまでが辛い。そこを何とかしなきゃな。



「ファイヤーランス!」



俺のレベル帯の場所まで移動した所、ソロのプレイヤーを丁度見つける。 


丁度遠距離職の魔法使いだ。見た目は男、青年よりかは少し年を取っている見た目だな。


考えても仕方がない、とりあえず実戦。見た所一人で余裕そうに狩ってるし、弱くはないだろう。




「よっ」



懐のナイフを、魔法使いへと投げる。


「っ!フェード!」



反応した。同時にスキルか何かで一瞬で距離を取る。



「……何だ?当たっていたらどうする」



当てるつもりだったんだけど。


それにしてもそんなスキルあったのね、また一つ夜の余裕の訳が分かった気がするよ。


魔法使いにとって距離を詰められる事は死へと繋がる、それを防げるそのスキルはかなり有用だろうな。



「ほら、かかって来いよ」


「そうか……なら何故ここへ来ない?お前盗賊だろ」



笑ってそう言う魔法使い。


確かにその通りだな……でも近付いたら練習の意味がねえ。



「それじゃ、『卑怯』だろ?いいから魔法でも何でも打って来いって」



口が避けても「練習台だから」なんて言えないわな。



「……はあ?ったくやっとPK職が釣れたと思ったら……」



呟きながら、俺の方を向く魔法使い。



「舐めんじゃねえぞ――ファイアーボール!」


「っ!」



俺でも使った事のある、基本のキのファイアーボール。


どうしてそんな魔法を――なんて考えは、文字通り『一刻』も立たずに知ることになる。



「早え!」



詠唱などまるで無いかのような、発動スピード。


夜以上だ――焦るな、これは絶好の練習台だろ!



「――ファイアーボール!ファイアーボール!」



ファイアーボールの連打。


此方に息を付かせない、魔法の連続攻撃。


俺の目の前へ飛んでくる火の連弾は、中々に迫力満点だ。



「――っ」



いざ、真剣に立ち向かうと正直怖い。


リアルでデカい火の玉でも飛んで来たらどうする?逃げるよな。


俺の頭に教え込ませる――これはゲーム、恐れるな。当たっても死にやしねえよ。


目を逸らすな、しっかり観察しろ。


『逃げるんじゃない』、『避けるんだ』。



「……」



ゆっくりと、魔法をしっかりと見据えながら歩く。そして――飛んでくる火の玉の軌道を予測して、ワザとギリギリで避ける。


魔法から目は絶対に背けない。やる事は簡単だ、観察して、魔法の軌道上の外へ前進すればいいだけ。


慎重に、かつ大胆に。人混みの中を、優雅に前進するように。そんなイメージで。



「んな――」




見えたのは、減少していない俺のHPと、驚いた表情の魔法使い。


どうやら成功したようだ。



「ファイアーボール!ファイアーボール!ファイアーボール!!」


詠唱の連続。


火魔法に向かって、ゆっくりと前進する。


意識すればこんなにも違うとは。スピードが早いせいで気付けなかった。その片鱗は今まで何回か体験しただろうにな。


敏捷は、どのゲームでも回避率に影響する様に。


避ける、という行動に、敏捷値は大きな恩恵を与えてくれる!



「ありがとな、なんか掴めた気がするわ」



意識して行うと、本当に簡単に、気持ちが良すぎる程上手く回避出来た。


コツは攻撃を怖がらない事。当たるか当たらないかの瀬戸際を見極め、ギリギリで避ける事。


回避がこんなに癖になるとは。いやああっと言う間だった。熱中し過ぎたな……


「ひっ――」


気付けば、目の前に魔法使いが居る程。


最後の火の玉が俺のすぐ横を通った所で、俺はナイフを振りかざす。



「スティング」


「フェード!!」



ナイフの武技を発動すれば、また魔法使いは距離を取る。


そりゃそうだよな。避けなきゃ死ぬんだから。



「……ま、参った!俺の負けだ、勘弁してくれ」



手を上げる魔法使い。


……降参か。まあいいや。


「ごめんごめん、ちょっと練習したかっただけなんだ。んじゃ」


別に今はPKが目的じゃない。


俺は特に奪取なんかもせず、次の練習相手を探すべく踵を返す。



「……何もしねえのかよ、良く分んねえなあ……」



今の相手は初歩の練習として100点だった。


恐らく一番避けやすい魔法であるファイアーボールの連打。


回避のコツを体感する上では本当に素晴らしい敵だったな……感謝ですね。



「ふう」



後は実戦を繰り返してモノにする。


俺のステータスなら……回避を極めれば、かなりの武器になる。


よーし、やる気が湧いてきた!この調子で頑張ろう。



――――――――――――




あれからモンスターやプレイヤーで回避の練習を続け……気付けば、時計の針が二を刺していた。


思い返せば中々に暴れた気がするな、取り合えず練習台になりそうな奴には喧嘩吹っ掛けたし。


……まあいっか!俺の名前が真っ赤になっているのも気にしちゃいけない。


PKぺナルティなんて気にしちゃ、PK職なんてやってらんねえわ。


唯一つご理解して欲しいのは、俺は一度もキルしていない事。


どうやらPKペナルティは、挑んだ段階で着くみたいだな。


《ラロック・アイス・シティに移動しました!》


そんなこんなで逃げ続け、無事帰還。




「そろそろ落ちるか……」




……そういえば、立花が今日でテスト終わりとかなんとか言ってたっけ。


カオリも戻ってくるだろう、レベル上げ手伝ってあげなきゃな。




そんな事を考えながら、俺はログアウトを押したのだった。




今日はクリスマスイブですね(血涙)

クリスマスイベントとかも書いていきたいと思います。ネトゲでは無いのを見たことありませんからね……

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