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PK職っていいものですよ?  作者: aaa168(スリーエー)
『ラロック・アイス』編
43/46

夜の決闘②

おはようございます。

久々に力を入れてバトルを書きました。おかしい所があるかもしれません……



《戦闘を開始します》





告げるアナウンス。両者動かず。


油断はしない。


この男からは、俺の『魔法職』の考えが、覆されるような気がしたからだ。



「……来ないのか?」



夜は笑ってそう言う。


俺は出方を伺ってんだ……詠唱を開始した時点で、一気に飛び込む!



「一つ。自惚れた事を言おうか。私には魔法の才能がある」


……何言ってんだコイツ。


そう口から出かけたが、その反応を見透かされているような気がして止めた。


この男は、一体何なんだ?



「何が言いたい」


「フフ、ただの戯言と受け取ってくれ。さあ――やろうか!」



表情が一変する。


攻撃します、と顔に書いている様だ。



「シャドウ・ブレード……」


「――っ!」


夜の詠唱。俺はその瞬間に走る。


スタートダッシュ、その後魔法陣がどれ程進んでいるか確認する為、夜の方を見た。




魔法陣は――



「ダブル」



――既に、完成されていた。


いくら何でも早すぎる。

今までの出会ってきた魔法職とは段違いだ。



詠唱の名の通り、剣を象った黒い魔法が二つ、直進してこっちへ飛んでくる。



「よっ!」



走りながら、開いている片手でポケットのナイフを投擲。


取り合えず相殺出来るか見ておく。



「まじか」


「そんなモノ、効くわけがないだろう」


俺のナイフはまるで玩具のように弾かれた。


勢いも全く無くなっていない。


『意味がない』。そういうことだろうな。



……まだ、慌てるには早い。




落ち着け、これを回避して一気に飛び込むんだ。二つといえど、俺ならいけるはず。


疾走スキルは使うか?いいや、疾走はまだ……これ位の攻撃なら避けられるだろう。



魔法が俺にぶつかるギリギリの距離で横に跳び避ける。これで行く。



「っと!」


タイミングを見極めて。


距離を縮めながら、俺は飛んでくる魔法を避ける為跳んだ。


「……よし!」


HPバーは減っていない。避けるのに成功した。


喜んでいる暇など無い。夜は詠唱をしている様子もなかった、今は手薄なはず――



「――!」



猛烈な嫌な予感。


逃げろと、俺の脳が知らせている。



「――嘘だろ」



命令に従い止まることなく後ろを向けば、避けたはずの黒い剣が――こちらへ戻ってきている。


物理法則を無視した軌道で『直角』に曲がり、スピードを上げこちらの脳天へ。


だが、気付けた。逃げられない距離ではない。走ってこのまま夜へと突っ込むぞ!



「シャドウ・ブレード」



夜の容赦ない追加魔法。



「ダブル」



「だから早いんだって!」



襲い掛かる黒い剣。


前方二本・後方二本。このままで避けきれるのか?


迷っている場合ではない――使う!



「疾走」



瞬間、俺の身体が、足が軽くなった。


――行ける。


疾走スキルにより前方からの刃を右へ走って避け、そのまま夜へ走る。


後ろから追ってくる感覚は消えていた。


行けるぞ――剣は、このスピードなら余裕で引き離せる!



「シャドウ・ナイフ」



――束の間の希望が見えた瞬間、次に現れたのは剣ではなく、ナイフだった。

      

夜の詠唱の後現れた魔法のナイフが、こっちへ飛んでくる。



明らかにスピードが剣よりも早い。


距離が近い事もあり、こちらへ届くまでは一瞬だ。


射線から避けるべく足を動かす、が。



「くっ――」




乗り過ぎたスピードで、方向転換が出来ない。



疾走スキルの欠点は分かっていた――そのスピードで、自身のコントロールが取れない事。


いずれ……この『速さ』が、俺に扱えなくなる次元まで到達する事。


冷静さを欠いて、俺はその欠点が頭から完全に飛んでいた。



「――っ!」



方向を変えるのは不可能。そう判断した俺は接近を諦め横に跳んだ。


じゃないと確実に食らうからだ。



普通ならこれで終わり――だが。


後ろを向くまでもなく分かる。『帰ってくる』ナイフの感覚を。


無理な大勢のせいで着地したせいか、思うように身体が動かない。



走らなければ、逃げなければ――間に合わな――!



「――ぐっ!!!」



バランスを崩しながら、地面を転がり回り回避。




「……流石に、食らうよな」



足への痛覚。


ナイフは俺の足先に突き刺さっていた。


幸い場所が場所なだけ、軽傷で済んだ。……軽傷といっても、HPは二割減っているが。




「フフ、その速さが君の武器か。足元で済んで良かったな」



追撃に備えた所で、俺にそう話す夜。


……今攻撃すりゃ終わってたろ……


完全に、俺はアイツの手のひらの上ってことか。



「ったく、チートかよ、あんたは」



「……褒め言葉として受け取っておこう」


夜の追尾してくる魔法は、本当にチート並の強さだ。


盾を持たない俺にとっては、厄介すぎる。



「……ふう、いつまで待ってくれるんだ?」



俺が立ち上がり、構えなおした所で夜は微笑む。



「君は、私の攻撃を二発でも食らえば綺麗に死ぬ。……次は外さない。策が無ければ君は一分も無く死ぬだろう」



策があるかないかで言えば、無い。


が。




「だから、どうした?」




夜の言葉の意味は分かっている。『諦めろ』。


分かっていた。


分かった上で、笑ってそう吐き捨てる。





「……やろうぜ、最初っからな。見逃してくれた礼だ」



俺は最初の地点に戻り、そう挑発する。



「……ハハハ!楽しませてくれよ!漆黒!」


「ああ」



ポケットに手を突っ込む。……大丈夫、入ってんな。





夜とのお喋りのおかげか、疾走スキルのクールタイムは終了している。



俺は両手を地面に付け、腰を下げる。右足を後ろに屈み、前傾姿勢。


前は見ない。見るのは地面。


俺の知っている、最速のスタート姿勢だ。



「シャドウ・ナイフ」


詠唱を開始する夜。


「疾走!!!」


同時に俺は疾走を発動する。


そしてその発動と共に、スタートを切る。


前を恐れず、足を前に、力強く。


「――っ、早え」


初めてだ、こんなスピードは。


まるで矢。方向転換なんて出来やしない、ただ真っ直ぐに。


だが、これで上等。


「勝負を諦めたか!」



聞こえる、夜の声。


確かにそうだろうな。恐らく今、俺の心臓めがけて魔法のナイフが生成されている。


避けなければ死ぬ。



だが――避けなければ、お前の追尾は意味がないからな。


そこを突く。まずは一発入れる。その後の事は1mmも考えない。思考の邪魔だ。




「俺のナイフは――食らっといた方がいいぜ」




加速し続ける身体のまま、ポケットに仕込んだナイフを両手に持つ。


勝負を賭けた投擲を、放つ。



「そんなもの――私の魔法が弾き返す!」



前を見れば、魔法のナイフが飛んできていた。


胸目掛け飛んでくる。恐らくこのままでは確実に俺のナイフを弾き、俺の心臓に当たる。


綺麗な二枚抜きの完成って所か……


敵ながら天晴なコントロール。




――だが、それでいい!



「終わりだ、漆黒。……シャドウ・ナイフ」



夜の完璧なコントロールは、俺のナイフに目掛け飛んでいく。


追撃の夜の魔法が詠唱完了すれば、俺のHPはゼロだ。


勝利を確信してる所、悪いんだけどさ――



「――何だと!?」



それ、『ナイフ』じゃないんだわ。


『割れた』ナイフから、赤色の液体が空中に飛び出していた。


『ナイフに化けたHPポーション』が、綺麗に裂ける。



「ぐっ!!!」



その後俺の胸を刺すナイフ。


止まらない。俺はこのまま走る、ここを逃せば終わりだ!


あの液体が、空中に留まっている内に。



「っ――うめえ!」



HPポーションへ顔ごとダイブ。


身体がポーションを飲み込んでいく。

そして口からも追加で。


二本のHPポーション全て飲み干すなど無理だ、『少し』でも回復すればいい。


こういうのは、浴びても回復するのが定番だ。そしてその定番は、このゲームでも適応されていたらしい。



「……なるほど、『偽装』か!」



……『君は、私の攻撃を二発でも食らえば、綺麗に死ぬ』、そう言ったよな。


回復していく身体で、俺はスピードを落とさず突っ込んでいく。


一割でも回復すりゃ――話が違ってくるだろ!



「――っ、やられたよ、漆黒!」



トップスピードの俺の身体は、夜のすぐ傍まで持ってきてくれた。


「ぐっ――!」


そして直ぐに夜の追撃のナイフは、俺の身体を突き刺す。


……俺はまだ、死んじゃいない!



「だから、『食らっとけ』つったろ――スティング!」



武技の発動。


流石に詠唱完了直後。カウンターも追加攻撃もない。


存分に、やっと攻撃を食らわせられる!







《状態異常:沈黙となりました。一定時間スキルの発動が無効化されます》






「――――っ!?」


瞬間。俺の身体は――動かなくなった。


武技を発動させたと思ったら、発動していなかった。


脳が混乱している。……攻撃しなくては。今しかチャンスなんて――



「がっ!!」



俺は、夜の杖に殴られ飛ばされる。


「惜しかったな、漆黒」


そう、呟くように俺に言う夜。


共に、俺はHPがゼロとなった。



《???様との決闘に敗れました》



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