とある落ちこぼれの華麗なる活躍 ~金策編その四~
リハビリ中φ(。_。*)カキカキ
「お黙りなさい、この痴れ者め!衆目の面前であのような破廉恥な行為に及ぶなど恥を知りなさい!!」
「は、破廉恥……?」
整った眉目を釣り上げ、その面持ちを怒りに染めるフローレンス。
……但し、その格好はバニースーツだ。
肩と背中をさらけ出し、堂々と張られた胸は今にも溢れそうで、俺の眼前には際どい食い込みのハイレグが存在している。
その艶めかしい肢体を前に、俺の喉は無意識の内に上下に動いていた。
「な、なんですの……?」
俺の視線にたじろぐフローレンス。
「いやいやいやいや、そんな格好しておきながら、いまさら破廉恥もクソもねえだろうが」
「うっ……」
どうやら、自分でも思う所があったらしい。
フローレンスは思い出したように腕で胸元を隠し、俺の視線から逃れるように身をよじる。
しかし、その恥じらう仕草が、俺の目にはかえって扇情的に映っていた。
「だ、だいたい、巫女さんが人前で肌晒してんじゃねえよ。それこそ『破廉恥』なんじゃねえのか?」
「あっ、その……いえ、私もこの格好はちょっと恥ずかしいとは思っていたのですが……」
……思ってたんなら、何でそんな格好してるんだよ!何で巫女がバニースーツなんだよ!!
俺は心の中で叫び、それから一番の疑問を突き付ける。
「そもそもだ、そいつは春を売るための衣装だろう。巫女さんが売ったら一番ダメなもんでしょ!」
「春を……売る???」
良く分かっていないのか、俺の言葉にフローレンスは首をかしげてみせる。
「だーかーらー、そいつはエッチな商売をするための衣装なの!春を売るってのは、ベッドの中で男のアレやコレやに、いやらしい事をしてお金を貰う商売の事なの!」
「!!!」
ようやく意味が分かったようで、フローレンスは途端に顔を真っ赤に染めた。
「ななななな何を言っていますの!?そそそそそそんな、まるで私がふしだらな女のようではありませんか!!」
「そうだよ!だからさっきからそう言ってんだろうが、何で巫女さんがこんな所で身体を売ってんだよって!?」
耳の先まで茹で上がり、わなわなと震えて羞恥に悶えるフローレンスの様子に、嘘や演技といったものは一切感じられない。
……おいおい、マジで分かってなかったのかよ。
ってか、何がどうなっていやがんだ?
バニーがエルフで巫女でギャンブルの商品で…………って全く分かんねえよ、クソがっ!
ああもう、誰でもいいからこの状況を説明しやがれ!!!
「――はっ!!そういう事でしたのね、危うく騙される所でした……」
何がどうなったのか知らないが、フローレンスは納得したように独りごちる。
「私を煙に巻くつもりでしょうが、そうはいきません!ロッホさん、早くこの無礼極まりない不届き物を、つまみ出して下さいまし」
そして、どんな思考に行き着いたのか、そんな事を言い出した。
「待て待て待て待て待て待て!どうしてそうなった、さっきまでの話を聞いていたんじゃねえのか?」
「ふん、あなたのような下品で不埒な輩の話を真に受ける方が間違っているのではなくて?ロッホさんは、道に迷って途方に暮れていた私に優しくしてくれた紳士ですのよ。彼がそんな事をする訳無いじゃありませんか!!」
……ああクソっ、何か分かってきた。
いや、良く分からんけど、コイツがどうしようもねえ世間知らずだってのは良ぉーく分かった。
「そのロッホが『売る』とか『買う』とか言ってんだよ!お前だって聞いてただろう!?」
「……え?」
「さっきまでのだって、俺がお前を購入するためのゲームだっただろうが!まさか、それすらも分からなかったのか?」
「……私を……購入する?」
「そうだよ!」
まさか本当に分かっていなかったのか、目の前の箱入りエルフは俺の言葉を確かめるように反芻する。
そして、その意味が理解できた所で俺の顔を見上げた。
「やっぱりあなたは悪者でしたのね!巫女を手籠めにしようなど万死に値しますの!そこへ直りなさい!!」
「……って、違ぇーよ!!そうじゃねえだろうが、どう考えてもそこのロッホがお前を売ろうとしていたって話じゃねえか!!」
「そうでしたの!?」
だぁぁぁもう!『そうでしたの!?』じゃねえよ、それぐらい分かれやこのクソ世間知らずが!
「――そこまでにして頂きましょうか」
突如、俺達の会話にロッホが割って入る。
「お客様、ウチの大事な商品に変な事を吹き込むのはお止め下さい」
これ以上都合の悪い事実を話されるのは面白くないのだろう。
ロッホの言葉は丁寧であるものの、その態度からは敵意のようなものがはっきりと感じられる。
「あん?変な事も何も本当の事だろうが」
「チップが尽きたのであればゲームはもうお終いです。どうぞ、お帰りはあちらです」
とっとと帰れとばかりに出口を指差すロッホ。
しかし、既にフローレンスの中ではロッホに対する疑念が十分に育っているようだった。
「ロッホさん答えて下さい、あなたは私を騙していたのですか?」
「さあ、お客様がお帰りだ。丁重にお見送りして差し上げなさい」
フローレンスを無視してロッホは黒服達に指示を出す。
すると、今まで様子を窺っていた黒服達が動き出し、俺をつまみ出しそうとこちらに向かってくる。
どうやら、強引に事態を収めるつもりらしい。
そんなロッホの態度にフローレンスは焦りを見せる。
「この格好で立っていれば、お金が稼げるというのは嘘でしたの?ねえ、ロッホさん!?」
「嘘ではありませんよ?ほら、現にあなたには金貨二〇〇枚もの値段が付いたではありませんか?」
「ロッホ……さん?」
「くくくっ、全くどうしようもない世間知らずですね。他国に持って行けば、エルフが一体幾らの値段で売れるのかご存知無いのですか?」
「嘘……でしょ?」
「まさか神楽巫女というのは少々予想外でしたが、それならそれで別の役割も期待できます。私としても手荒な事はしたくありませんので、大人しくしていてもらえますか?」
「そんな……まさか…………」
もはや隠す気もないロッホの態度に、フローレンスは愕然としてその場に崩れ落ちたのだった。
……はあ、やっぱりこの箱入り娘騙されてたんじゃねえか。
どこの田舎から出てきたのか知らねえが、自分から進んで奴隷商にとっ捕まるたあ、世間知らずにも程があるぜ。
もしくは、余程甘やかされて大事に育てられたらしい。
むしろ、『巫女』って言ってたぐらいだから、世間から隔離されていた可能性の方が高いのか。
……まあ、どちらにしろここで退場する俺には関係の無い事だ。
いつファーゼストの刺客が追い付いてくるか分からない中、余計な事に首を突っ込んでいる暇はねえ。
予定通りに黒服達につまみ出されて、このままデクやネズミと一緒にこの街からオサラバってもんよ。
エルフ娘のこの後を考えると、ちったあ可哀想な気もするが、助け出そうにもその手段が無いんだからどうしようもねえな。
例えば、俺に人外じみた圧倒的な力でもありゃ、正義感を振りかざして、ヒーロー宜しく颯爽と悪を成敗するなんて事も可能なのかもしれないが、生憎と申し訳程度の実力しか持っていない事は、この俺自身が良く分かっている。
だから、目の前のエルフがどれだけ助けを求めても、俺にはどうする事も出来ない。
どうにかするだけの力が俺には無いのだから。
……うんそうだ、やっぱり仕方がねぇ。
俺がエルフを助け出せなくても、手段が無ぇんだからしょうがねえじゃねえか。
……仕方ねえ……仕方ねえ。
はあ、仕方がねえじゃねえか、全く手が出ねえんだからよ。
そりゃ、何か手がありゃ俺だってよ…………
「――ッ!!!」
突然、弾かれたようにフローレンスが駆け出した。
出口に向かって一直線に、脇目も振らず一目散に飛び出す。
何を思ったのか知らないが、このまま強引に逃げるつもりのようだ。
しかし、そんな事をロッホが許すはずもなく、フローレンスはすぐに黒服達によって取り押さえられてしまった。
「放しなさい下郎め!兄様に、兄様に共魔の森の事を伝えなければならないのに!!……って、ちょっとどこを触っていますの!変態、この変態!!」
自身の拘束を振り払おうと、黒服をげしげしと足蹴にするフローレンス。
しかし、当然ながらその程度では屈強な黒服の拘束から逃れる事は出来ない。
そして、とうとう我慢の出来なくなったロッホが、フローレンスに詰め寄って腕を振り上げた。
「全く、このじゃじゃ馬エルフが!」
「ひっ!!」
短い悲鳴。
もしかしたら、生まれて初めて他人から手を上げられるのかもしれない。
フローレンスの表情は酷く強張り、恐怖に染まっている。
「――金がありゃいいんだろう、なあ!?」
……気が付けば俺は口を挟んでいた。
俺の一言に、一同の動きが止まる。
摘まみだそうとしていた黒服を押しのけ、俺はロッホの野郎の前まで進み出る。
「金貨一枚用意すりゃあ、いつでも『奈落の穴』に挑戦していいんだったよな、ロッホさんよ」
訝しそうな視線を寄越すロッホ。
「何を言うかと思えば。ふん、無一文のあなたのどこにそんな物が……」
「答えろよ、金貨一枚用意すりゃあ勝負を受けてくれるんだろう?そんで金貨二〇〇枚分勝ちゃあ、そこのエルフは俺のもんだったよな?」
バニーちゃんとの熱い一夜が金貨二〇〇枚とか、妙に高過ぎる値段だとは思っていたんだよ。
だけどさっきの話を聞いて納得したぜ。
もしもそれが、他国で秘密裏に販売したエルフの奴隷の値段だとしたら納得のいく金額だ。
つまり、さっきまでのゲームはバニーちゃんの貞操を賭けた勝負ではなく、もともとフローレンスの身柄そのものを賭けた勝負だったって訳だ。
なら、その勝負に勝てば、合法的にフローレンスの身柄を解放できるってもんだ。
「…………」
何を考えているのか、ロッホは無言でこちらを睨む。
「それとも何か、この店は一度客と約束した事を、簡単に反故にするような信用ならない店だっていうのか?あん?」
俺の挑発に、それでもロッホは無言を返す。
しばらくして結論が出たのだろう、ロッホは俺を睨むのを止めると、牙を剝き出しながら口を開いたのだった。
「いいでしょう、もう一度あなたとの勝負を受けて立ちましょう!」
よし、言質は取った。
これでゲームに勝ちゃあ、フローレンスの身柄は取り戻せるって訳だ。
……ったくよ、全く手が出ねえんなら仕方がなかったがよ、思いついちまったんだから仕方がねえよな?
仕方がねえ、仕方がねえ。
本当は助けられるのに見捨てるなんて、最高に後味悪い真似出来る訳ねえよな?
だからよ、正義感を振りかざしたヒーロー宜しく、悪の親玉退治といこうじゃねえか。
……ってなわけだ、ネズミ、稼いだ金を持ってきな!
そんでもって、この犬野郎をフルボッコにしてしまえ!!




