とある落ちこぼれの華麗なる活躍 ~金策編そのニ~
アホ作者が重要な設定をすっかり忘れていたため、前話を少し訂正しました。
カジノの筆頭ディーラーが『痩身の男』から『狼人族の男』に変更されていますので、ご注意下さい。
ひょんな事から始まった、『丸裸』筆頭ディーラーとの一対一での真剣勝負。
俺の持ち金は、賭博場で荒稼ぎした金貨七二〇枚分ものチップで、対する景品は、艶めかしい衣装に身を包んだ美人のバニーちゃんである。
勝利条件は、筆頭ディーラーであるロッホとの勝負で、バニーちゃんの販売価格である金貨二〇〇枚以上の金額を稼ぐ事。
つまり、俺の手持ちの金額が金貨九二〇枚を超えれば、俺の勝利ってこった。
……ってか、バニーちゃんとの一夜が金貨二〇〇枚って、どんだけ高ぇんだよ。
下手したら、一人前のファーゼストの従者が雇える金額なんじゃねえか?
まあ、さっきのバニーちゃんの反応からすると、たぶん一度も買われた事はないだろうから、それを加味した値段なんだろうが…………
そんな俺の疑問を他所に、ロッホとの戦いは幕を開けた。
そして…………
「――――はへ?」
たったの数十分で、チップの山は瓦礫と化したのだった。
「おやおや、また私の勝ちですね」
目の前の狼人族の男は、わざとらしい笑みを浮かべてチップを回収する。
今やロッホの手元にはチップが城壁のように築かれており、対して俺の前には、あと数回ゲームに挑むだけの賭け金しか残されていない。
ゲームの内容は至極単純。
たった二つの選択肢の中から、当たりを引くだけというもの。
なのに、俺はロッホに手も足も出ず、ボロクソのように負けたのである。
「嘘……だろ?なんで、こんなゲームで負けんだよ…………」
呆然とする俺の顔を見て、ロッホは牙を覗かせながらクツクツと笑った。
二者択一の勝負。
単純に考えて、確率二分の一の勝負で一方的に負けるなんてこたぁ考えられない。
確かに、駆け引きの部分でロッホに分があるのは間違いないだろう。
しかし、だからといって、こんなにも一方的に負けが込むのはあまりにも不自然である。
……だとすればだ、そこには何らかのカラクリがあると考えるのが自然じゃねえか?
「やい、てめぇイカサマしてんじゃねえだろうな?」
俺がその言葉を吐いた瞬間、賭博場の空気が一斉にざわつくのが感じられた。
「――おいおい、あいつ今イカサマって言ったよな?」
「――まじかよ、久し振りに聞いたぜ」
「――ほっほっほ、面白い見世物が始まりそうですね」
筆頭ディーラーとの一騎討ちという、ただでさえ人目を引く勝負をしているってのに、更に多くの好奇の視線が寄せられる。
そんな中、ロッホは面白そうに表情を歪めて口を開いた。
「……お客様、その単語が何を意味するのか、ご存知の上での発言ですか?」
ロッホの目が鋭く光る。
それに気圧されてしまいそうになるが、俺は相手に悟られないよう、勢いに任せて言葉を続ける。
「あん?イカサマにご存知もクソもねえだろうが。てめえがイカサマしてなけりゃ、確率二分の一の勝負で、こんなにも負けるわけねえだろ!!」
「そこまで仰るのであればどうぞ。……私がどんなイカサマをしていたというのか、ご開示下さい」
するとロッホは、そうあっさりと言い出した。
これから俺が何を言い出すのか、完全に見物を決め込むようである。
……ぐぬぬ、まさかこんな事になるとは。
確率二分の一の勝負で、勝率はたったの二割五分。
この数字から見ても、相手がイカサマをしているのは間違いないのだろうが、正直言ってロッホが何を仕掛けているのか全く見当も付かない。
想像していた以上に注目を集めてしまったのも誤算である。
こうなってしまっては、今更後に引ける状況でもない。
「このカードだ!このカードになんか印でも付いてんだろ?」
俺は勝負に使われた四枚のカードを手に取り、ロッホへと突き出した。
「………………」
訪れる静寂。
実際は数秒程度だったんだろうが、俺にはその時間が痛い程に長く感じられた。
「…………ぷっ」
ロッホの吹き出すような笑い声を合図に、会場は時間を取り戻す。
「ぶははははは!一体何を言い出すかと思えば、カードに印ですって?笑わせないで下さい、ぶははははは!!」
「て、てめえ!!」
俺は思わず身を乗り出して掴みかかろうとするが、ロッホはそれをスルリと躱して、何事も無かったように笑い続けている。
「仮に……くくくっ……仮に印が付いているとして、それは一体どこに付いているんですか?」
「それはだな……」
ロッホの指摘を受け、改めてカードを見直してみるが、どのカードもマーキングがされているようには見えない。
「ありませんよね?そのカードは、勝負の直前に開封した新品の市販品です。それは一緒に確認したじゃありませんか?」
「ぐぬぬ……」
ロッホの指摘に、返す言葉が出てこない。
というか、ロッホが本当にイカサマを行っているかどうかすら分かってねえのに、その証拠を突き付けるなんて、できる訳がねえ。
「ほら、どうしました?イカサマの証明をできなければ、このゲームは貴方の負けですよ?」
そう言ってロッホは、笑いを噛み殺しながら、楽しそうな笑みを浮かべた。
完全にこちらを小馬鹿にしたような、人を苛つかせる類の表情である。
「…………」
しかし、俺はそれに対して黙る事しかできない。
勢いだけで『イカサマだ!』と言っているのだから、当然といっちゃ当然の話だ。
「――では、貴方の負けと言う事で宜しいですね?」
ロッホはそれだけ言うと、罰金として、俺の手元にあるなけなしのチップを、根こそぎ回収していったのだった。
明らかに不正が行われている事が察せられるのに、誰も声を上げる事は無く、それどころか観客からは、どこか白けたような空気が漂ってくる。
皆、俺が『イカサマ』と言い出した事に、期待を寄せていたのだろう。
それなのに、その結末が呆気ないもんだから、一気に興が醒めてしまったのだ。
それも仕方のない事だろう、この賭博場で『イカサマ』と言ったら、大きな目玉の一つなのだから。
実はここ『丸裸』には、賭博場のくせに『イカサマ』が半ば容認されているという、最大の特徴がある。
……というより、いくら禁止してもイカサマする客が後を絶たないもんだから、イカサマがルール化していると言った方が正しいのかもしれない。
イカサマを指摘したい場合、その時の勝負の二倍の賭け金を用意すれば、ゲームは成立。
そして、もし不正を暴かれた場合は、配当金の一〇倍の金額を支払わなければならないというのが、そのルールである。
つまり、俺は残っていたなけなしのチップを賭け金にして、ロッホのイカサマを暴くというゲームを始めちまったってワケだ。
そして、結果はご覧の通り。
考えなしに『イカサマ』を叫んだツケは、俺の破産という結果でもって償う事となったのだった。
天国から地獄への急転直下。
金貨七二〇枚もの大金が、あっと言う間に溶けて今や無一文である。
大金を得るのも一瞬だが、それを失うのもまた一瞬であり、これこそがこの賭博場の恐ろしさだ。
調子に乗って有り金を全部スっちまうなんざ、ここでは珍しくもないのだろう。
今まで俺達の勝負を見物していた観客も興味が薄れていったようで、周囲からは人が遠ざかっていく気配が感じられる。
『丸裸』の洗礼を身をもって味わった俺は、テーブルに突っ伏し、体を震わせながら誰にも聞こえないぐらいの大きさで、小さく呟いたのだった。
――計画通り、と。
……今回はここまで。




