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悪徳領主ルドルフの華麗なる日常  作者: 増田匠見(旧master1415)


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とある落ちこぼれの華麗なる活躍 ~修行編その六~

本当は修行編を終える予定でしたが、文字数が増えてきたのと、書き終えるまでまだ時間がかかりそうなので、取り敢えず区切りの良さそうな所まで投稿します。

 そんなこんなで、気が付けばファーゼストでの滞在期間は一ヶ月を超えようとしていた。


 初めはどうなる事かと心配していた新兵訓練だったが、同じ境遇の仲間と励まし合う事でなんとか乗り越える事が出来ていた。

 隊の連中ともすっかり仲良くなり、今では家族同然の付き合いをしている。


 日を追うごとに肉体に掛かる負荷はどんどん増していったが、パン料理長が俺達の限界を的確に見抜いてしごくもんだから、脱落する奴は誰一人として現れない。


 それもそのはず。

 パン料理長の専門は医術と料理。

 今でこそ新兵訓練の教官を務めたりファーゼスト家の厨房で働いたりしているが、若い頃は『赤獣人(せきじゅうじん)』の一員として世界各地で病気や怪我と戦っていたらしい。


 肉体をどこまで酷使すれば壊れるか、また、壊れたらどう治せばいいのかを熟知したパン料理長の訓練は、正に効率的の一言。


 あんまり詳しい所までは理解出来なかったが、『タンパクシツ』や『ゴールデンタイム』がどうとか、『チョウサイセイ』や『デンキシゲキ』がこうとかで、とにかく『食事』『医学』の面から『魔術』までもを駆使して、俺達の肉体改造を行っていたようだ。


 おかげで、俺の身体からはすっかり贅肉(ぜいにく)が削ぎ落とされ、筋肉も付いて全体的に引き締まったボディを手に入れる事が出来た。 

 ……割れた腹筋をなぞる感覚が癖になりそうである。


 さて、そんな新兵訓練もそろそろ終わりが見え始めた頃、俺にとある任務が与えられた。

 それも、『黒麒麟』が直々に発令した最重要任務である。


 俺は家令のヨーゼフさんに呼び出され、秘密裏にその任務の内容を聞かされた。


 何でも、今ファーゼストに滞在している聖女様に何らかの脅威が迫っているらしく、その企みを防ぐために、聖女様に四六時中張り付いていろとの事だった。

 相手の素性などは一切不明。

 しかも厄介な事に、かなり綿密な計画が立てられているらしく、あの『黒麒麟』でさえもその全貌を掴めていないらしい。


『黒麒麟』をして「こちらの予想を上回る油断ならん相手」と言わしめる人間を、俺なんかがどうにか出来るとも思えないんだが、相手の出方が分からない以上、とにかくどんな状況にも応じられる対応力の高い人材が望まれているという事で、俺に白羽の矢が当たったようだ。


 というか、ヨーゼフさんの中でそんな条件に当てはまる人物は俺しか該当せず、殆ど名指しに近い人選らしい。


 相変わらず、なんて無茶苦茶な要求をしやがるんだ?

 こちとら、新兵訓練も終えていないような、ファーゼスト家の下っ端も下っ端。

 『黒い牙(ブラックファング)』なんて大層な名前が付いちゃいるが、その二つ名だって『黒麒麟』の野郎が勝手に吹聴しているだけの、ハリボテの名前だぞ。

 そんな人間に、『聖女様』なんていう超VIPの護衛なんて務まるわけがねえだろ!




 ――断る!俺は絶対に嫌だ!!




 ……などと思いつつも、俺は二つの返事でこの任務を引き受けた。


 というか、引き受けるしかなかった。

 俺の処刑が『黒麒麟』の気まぐれで保留にされている現状、飼い犬宜しく尻尾を振る事だけが生き残る道なのである。

 ひょっとしたらそんな事はないのかもしれねえが、自分の命を賭け金にしてまで、反抗的な態度を取る気にはなれない。


 こうして俺は、いつどこから刺客が襲ってくるか分からないという、胃が痛くなるような任務に取りかかるハメになったのだった。




 そして、監視対象である聖女様は今――





「うわ〜、すっごく高〜い!」


 巨体のデクに持ち上げられて、きゃっきゃきゃっきゃと大はしゃぎしていた。


 ……くっそ、俺の気も知らずに呑気(のんき)に遊びやがって!!


「デクちゃん、もう一回!ね、もう一回高い高いして~!」


「いいだど。ほだら、もう一回いぐだど?」


 余程気に入ったのか、もう一度『高い高い』をせがむ聖女様。

 デクも恐ろしげな顔を笑顔に歪めて快諾し、一旦聖女様を地面に下ろして準備を整えた。


 そして――



 ――ブォォン!!




 一瞬にして聖女様の姿が霞み、気が付けばその身体はデクの頭上に高々と掲げられていた。


 デクの驚異的な身体能力が可能とする、想像を絶する超加速。

 不穏な風切り音をさせながら行われるその行為は、もはや『高い高い』などという生温い次元を超越し、間違っても女子供にやってはいけないような、名状しがたい()()()と化していた。


 ……たぶん、俺がこれをやったら一瞬で気絶すると思う。


 それを嬉々として受け入れ、何度も何度も要求する聖女様は、やはり俺達一般人と少々頭の作りが異なるようだ。

 さすがファーゼスト家に嫁入りした人間である。


「……はぁ」


 俺は今日、何度目になるか分からない溜息を吐いた。


 まったく、真面目に警戒しているのが馬鹿らしくなってくるぜ。

 肝心の護衛対象に危機感はねえし、それどころかデクと一緒になって和気藹々(わきあいあい)と遊んでいやがる。

 かといって、特に不審人物が現れる気配もねえから、注意するほどでもねえ。


 それに、ここはあの『黒麒麟』の本拠地だぞ?

 不審者が組織的な活動を行えるような場所じゃねえし、そもそもまともな悪党なら『黒麒麟』に手を出そうとするわけがねえ。

 しかもターゲットとなっているのは、神の寵愛を受けた聖女様。

 それに手を出すって事は、神に刃向かうのと同義である。

 これだけの条件が揃っているのに、リスクを(おか)してまで聖女様を狙う奴なんて本当にいんのか?


 そんな俺の心の内なんてこれっぽっちも理解せずに、聖女様とデクは、目の前でただただ楽しそうに、瞬間移動のような遊びを繰り返していた。


「もう一回、もう一回!今度は全力で『ぶぉぉぉん!!』ってやって~!!」


「だ、ダメだど。全力でやっだら、ちょっど危ないかもじれないだど……」


 ……って、ちょっと待て!

 今まで手加減してたのか?手加減して()()なのか!?

 ()()以上の『本気』って、それ絶対にヤバイだろうが!!


「う~ん…………うん大丈夫、大丈夫!()()()()はしないから、全力でやっちゃって!!」


 一体どこにそんな根拠があるのだろうか、聖女様は自信満々に言ってのけた。


「ぞ、ぞうが?聖女様がぞう言うなら、ぎっど大丈夫だど……」


 そう言ってデクは、聖女様を一旦地面に下ろして全身に力を滾らせ始める。


 ……ダメだ、どう考えても嫌な予感しかしない。


「あっ、ちょっと待――」


 しかし俺が制止する間もなく、デク渾身の『高い高い』は()()されてしまった。



 ――ズゥゥゥン!



 デクの足が大地にめり込み、地響きのようなものが聞こえてくる。

 振り上げられる腕は既に肉眼で捉える事はできず、どれだけの速度が出ているか想像もつかない。

 やや遅れて、鞭を走らせた時のような破裂音が鳴り、ようやくデクの頭の上で腕が止まった。


 そして――


「……あで?」


 聖女様の身体は、デクの手の中から完全にすっぽ抜けていた。







 …………ちょっ。







 一瞬で、豆粒みたいに小さくなって遠ざかる聖女様。







 ………………ちょっ。







「な"んだっでどぅばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」







 気が付けば俺は、聖女様が飛んで行った方を見つめながら、あらん限りの力で叫んでいた。


 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て。


 何がどうなった?

 聖女様が飛んだ?

 すっぽ抜けた?

 あんなに高く?

 どんだけ?


 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。


 落下。

 死ぬ。

 聖女様。

 無理。

 責任。

 デク。

 俺。

 ……死ぬ。


 まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。


 目まぐるしい早さで思考が駆け巡り、断片的な情報が頭の中で飛び交う。

 聖女様が落ちてくるまで、あともう何秒もない。

 このまま地面に激突すれば、いくら聖女様といえど絶対に無事では済まないだろう。

 俺は無我夢中で聖女様の落下地点を予測し、そこに自分の身体を滑り込ませた。


 俺の身体がどれだけのクッションになるか分からねえが、咄嗟に出来る行動がそれしかなかったんだから仕方がねえ。

 きっと、聖女様の下敷きになってグチャグチャになっちまうんだろうな。


 …………ああそうか、『黒麒麟』の言っていた脅威ってデクの事だったのか。

 そりゃさすがの俺も予想ができない訳だ、ハッハッハッハ!


 俺はその時が訪れるのを、現実逃避しながら待っていた。

華麗にジョブ・チェンジ!

新しい職場で、慣れない仕事に悪戦苦闘する毎日で、更新が滞っております。

エタらないから許して……ね?

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