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「さっきまでひやひやしながら一人で戦ってたのがバカみたいだな……」
雨森が戦闘に参加したことで、ダンジョンの難易度が本来想定されていたレベルまで下がり、今までとは比べものにならない速度で進んでいく。
「本当はもうちょっと早く戦おうと思ったんだけど、どうせなら窮地に陥ったところを助けたいと思って」
早くピンチにならないかなって待ってたんだよね、なんてことを雨森はのたまう。
後ろからスキルを叩き込んでやろうか。
初心者を無茶させないように、なんて考えてた俺の親切心を返して欲しい。
釈然としない気持ちのまま、八つ当たりするように現れるモンスターを切り裂いていく。
多少無茶をしても、雨森が後ろから的確に援護をしてくれるので危険にさらされることはない。
「さすが最前線組、動きが的確だなぁ」
「まぁやりこんでるからね。それに、村内君は動きが読みやすいし」
そんな単純な動きをしているつもりはないのだけど、雨森的にはわかりやすいらしい。
最前線で遊んでいるプレイヤーたちはステータスだけじゃなくてプレイヤースキルも高いだろうから、彼らに比べると支援もしやすいのかもしれない。
「っと、また群れか。雨森さん頼みます」
「オッケー任せて!」
奥から現れた武装したゴブリンの集団に向けて雨森が杖を構える。
「ヒートストーム」
合成された二つの属性をもつ魔法スキルがゴブリンたちを蹂躙していく。
高熱の暴風にさらされゴブリンたちはこちらに近づくこともできず体力を削られていった。
「薙ぎ払い!」
雨森の魔法が解けたタイミングを見計らって、俺がゴブリンたちにトドメを刺す。
俺だけなら間違いなく苦戦していただろう相手だが、一人協力者が増えただけで随分と楽に倒せるようになった。
「お、ようやくボス部屋か」
ゴブリンたちの集団を倒した先には、禍々しい装飾が施された巨大な門が佇んでいた。
ようやくダンジョンの最深部までたどり着いたようだ。
お互い各種強化スキルを使って強敵と戦う準備をすませる。
中ボスであの強さだったのだから、これから戦う相手は二人でも結構苦戦するだろう。
「準備はいい?」
「こっちは大丈夫。私の護衛はお願いね?」
視線を交わして用意が整ったことを確認した後、門に手を添える。
ぐっと力をこめると甲高い金属音をたててゆっくりと開いていった。
「……なんにもいないぞ」
門の先にはだだっ広い空間が広がっていて、何かがいるような気配はない。
中ボスの蜘蛛のように天井に張り付いているのかとおもって確認したが、そこにも何かがいる気配はない。
「ボス部屋には間違いないだろうから気をつけてね」
雨森はそう言いながら入口から動こうとしない。
なるほど、俺一人で調べてこいと、気をつけてねってのはそういうことか。
「近接特化とはいえ俺も耐久力は皆無なんだぞ……」
そうはいってもどちらかが動かないといけないので、いつ奇襲されても大丈夫なように周囲に注意を払いながらゆっくり進んでいく。
「なんだあれ、岩か?」
相変わらず生物の気配は一切ないが、どうやら広間の中央には瓦礫のようなものがたくさん打ち捨てられているようだった。
なるほど、あの下から飛び出てくるのか。
ということは地面に潜るタイプかと推測し、足元に注意しながら瓦礫の山に近づいていく。
「村内君! よけて!」
足元に神経を集中させながら一歩一歩進んでいくと、急に雨森の声が広間に響き渡った。
はっとして注意がおろそかになっていた頭上に視線を向けると、いつの間にか宙にういた瓦礫が勢いをつけて俺の方へと向かってきていた。
「ぐっ、瞬身!」
直撃すれすれのところをスキルを使って交わすが、無理な使い方をしたため体制を崩して思いっきり体を地面に叩きつけてしまう。
慌てて起き上がった俺の目の前には、大量の瓦礫がまるで意志を持っているかのように舞い上がり、巨大な人の形を作り上げていく光景が映し出される。
「よりにもよってゴーレムかよ……!」
掲示板で存在だけは聞いたことがある目の前の強敵を目にし、俺は背筋に冷たいものが伝わるのを感じていた。