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蜘蛛を片付けた後、俺が後一撃で死にそうなくらいギリギリの体力になったため、この部屋で休憩することとなった。
中ボス部屋やボス部屋は他の雑魚モンスターが入ってこないのでダンジョンではある意味唯一の安全地帯だ。
そこで雨森に本当の実力を聞いていたのだが。
「魔法特化の上級プレイヤー、しかもレアスキル持ちかよ」
「これでも最前線で冒険してたからね!」
思ってた以上のガチっぷりに、珍しく俺の方が引いていた。
テスターをしていた人間でも、かなりやり込んでいる部類だろう、多分俺といい勝負だ。
「昨日遅くまでいた理由も俺と同じか……」
「みんなに付き合ってるのも楽しいけど、それだけだと消化不良だったからね」
初心者ロールプレイに飽きて、夜中までその分最前線の攻略をしていたというところか。
「というかなんで初心者ロールなんてしてたんだ?」
「そりゃ皆の前で強力なスキルうちまくったら引かれるだろうし。村内君はよくわかっているとおもうけど」
おっしゃるとおりで。
さすがクラスの人気者雨森、ちゃんと皆の印象を考えて行動しているらしい。
「それにしても村内君、やっと私の目を見て話してくれるようになったね」
そう言われてふと、自分がちゃんと人の目を見て話せていることに気がつく。
「……おぉ」
「おぉって……。一緒に戦ったから少しは慣れてくれたのかな?」
二人で蜘蛛に追いかけられた仲だし、そういうことなのかもしれない。
「なんだろう、雨森と話をしていると違和感がないというか、ずっと前にもこんな風に話をしたことがあるような」
っと、俺はなにを口走っているのか。
あんまり余計な事を言うと消されてしまう、教室内での人権が。
慌てて口をつぐんだ俺とは対照的に、なぜか雨森は少し嬉しそうにほほえむ。
「村内君、気持ちは嬉しいけどいきなりナンパ師みたいな事を言い出すのはどうかと思うよ」
気のせいだったようだ。
「よし、この話はやめよう。それでさ、ちょっと聞きたい事があるんだけどさ」
「魔法合成の事なら秘密だよ?」
聞きたい事を先に言われてしまってぐっと言葉に詰まる。
なんて察しの良さだ。
「レアスキルについて詮索するのはマナー違反、村内君なら知っているよね?」
リンクコネクトには、レアスキルと呼ばれているスキルがいくつかある。
普通のスキルは、前提となるスキルを取得していく事で新しく取得できるようになっていく。
対してレアスキルは取得できるようになる条件が不明、しかも強力なものが多い。
そのため持っていないプレイヤーはレアスキルを得ようと、持っているプレイヤーに情報を提供するよう強要したことがあり、テスト初期にかなり大きな騒動になった。
ユニークスキルは独占すればかなりのアドバンテージになるし、言いたくないプレイヤーも結構いる。
もちろん情報を提供してくれる人も多いのだが、それを人に強要するのはやめようというのが今のプレイヤー間での暗黙の了解だった。
とはいえ。
「やっぱり気になるんだよなレアスキル……」
魔法合成は、いくつか判明している魔法系のレアスキルだ。
複数の魔法スキルを同時使用する事で強力な別スキルに変化させる事ができるらしい。
「だいたい村内君は近接特化キャラなんでしょ? 魔法系スキルは使わないじゃん」
「そりゃそうだけど。レアスキルという響きに憧れが」
俺もレアスキルがなんでもいいから欲しくて、情報が掲載されている掲示板に書いてあるレアスキル取得の仮説を、かたっぱしから試してみた事がある。
結局ひとつもとれなかったけど。
「特化されたステータスを持ってるとレアスキルを取得しやすいって話だけど、まだ情報不足だからね」
「俺も結構特化型だと思うんだけどなぁ」
近接系レアスキルとか手に入らないものだろうか。
「まぁ気長にやってればそのうちとれるよ。というか、そんなにレアスキル欲しいなら最前線参加すればいいんじゃないかな?」
「ぐぅ……。まぁそうなんだけど」
レアスキルは、ダンジョン踏破やボス討伐なんかでも手に入る事があるらしい。
攻略の最前線では常に新たなスキルや武器、アイテムなど新しい情報があふれているので、確かにレアスキルが欲しいならば最前線に参加するのが一番の近道だ。
「……他人と、パーティ組める気がしないんだ」
「……」
雨森が今日何度目かの可哀想なものを見る表情を浮かべる。
「ま、そういうことなら私が暇な時はパーティ組んであげるよ! 私とならパーティ組めそうでしょ?」
「雨森、お前本当いいやつだな……」
俺も雨森信者になりそうだ。
昨日は散々心の中で罵ってごめんな。
「さて、そろそろ動けそう?」
「ん、まぁ7割回復って感じだけど、なんとかなるだろ」
体力表示を確認すると4分の3くらいまでは体力が戻っている。
これからは雨森も参戦するらしいし、恐らくなんとかなるだろう。
「それじゃあさっさと抜けちゃおうか、もうあと半分もないだろうし」
雨森の言葉に頷いて、俺たちは再びダンジョンの攻略へと踏み出した。