1-11
「よっし、飯食い行こうぜ」
授業終わりのチャイムが鳴るとすぐに杉浦が声をかけてくる。
「あ、ちょっと準備するから待って」
昼食を誰かと食べるなんて何年ぶりだろうかと感激しつつ、カバンから財布を取り出し杉浦についていく。
「村内も学食?」
「あぁ、たまに弁当作ってくる時もあるけど、昨日は結構遅くまでネトゲやってたし」
そっかそっかと杉浦は納得したように頷く。
「俺もついつい昨日は遅くまでやってたけど、村内は俺が落ちた時も残ってたもんな。昨日はあの後どこいってたんだ?」
「テスターやってたときに攻略できなかったダンジョンにリベンジに。結局負けちゃったけどね」
俺の話を興味深そうに聞きながら、興奮した様子で早く家帰って続きをしたいとつぶやいた。
「あんだけ強い村内でも苦戦するダンジョンがあるんだな。思ったよりずっと楽しめそうだリンクコネクト」
「俺なんてまだまだだよ。最前線で攻略やってる人たちはもっと強いし」
ゲームでも基本ぼっちプレイの俺だが、一応攻略組にも知り合いはいる。
その人たちの強さは半端じゃないので、謙遜でもなんでもなく俺なんかはまだまだだ。
ちなみにその攻略組の知り合い達は昔やっていた別のネトゲからの付き合いなので、割と仲はいい。
「テスターのトップ連中はすげえって話だもんな。やっぱり抽選落ちたのが悔やまれるぜ」
本当に心のそこから悔しそうに唸る杉浦をみて小さく笑う。
どうやら昨日一日だけで随分リンクコネクトに惚れ込んだようだ。
「やってる内に差はどんどん縮まってくさ。高レベルのスキルほどスキルポイントが必要だし、強くなりにくくなるからね」
始めたばかりの方が強さの上昇率が高いのは、リンクコネクトも他のゲームと違いない。
たった数時間で格上狩りができるようになった杉浦なら、のめり込み具合によっては結構上位プレイヤーに食い込めるんじゃないだろうか。
まぁ上位プレイヤーは結構色々なものを犠牲にしているのでそれがいい事なのはわからないけれど。
「俺もいつかは最前線で仲間と一緒に強敵相手に冒険を繰り広げたいもんだ」
楽しそうにそう口にする杉浦をみて、少しだけ羨ましいと思う。
もちろん一人でやっても十分楽しいのだが、パーティを組んで強敵に立ち向かうというシチュエーションに憧れだってある。
まぁ、昔やっていたゲームではパーティを組んでいた事もあったので、そういう経験がないわけじゃないんだけど。
そういえばあの時一緒に遊んでいた同い年の男の子は元気してるだろうかと、ふとそんな事が気にかかった。
「なぁ、それでちょっと頼みがあるんだけどさ」
「ん?」
杉浦のお願いとやらを、首を傾げて尋ねる。
「やっぱり、ネトゲする上で情報とか、上級者の意見って大事だと思うんだよ。だから、もしよかったらでいいんだけど、暇な時に俺と一緒に遊んでくれないか?」
確かに、リンクコネクトでも情報は大切だ。
初心者は手馴れたプレイヤーから色々教わった方が強くなるのも早い。
「……わかった、いいよ」
普段の俺なら断っていただろう。
でも、本当に楽しそうな杉浦をみていたから、ちょっとだけ手伝ってやってもいいかもしれないと思ってしまった。
まぁ、暇な時くらいなら付き合ってもいいだろう。
こうして昼飯に誘ってもらった礼もあるし。
「本当か! よかった、あんまり村内って人とつるむの好きそうじゃないからさ、断られるかと思ったぜ」
「別に俺にそんなつもりは全くないんだけどね……」
やっぱりみんなにそう思われてるのだろうか。
俺から話しかける勇気がないのと、人と目を合わせて喋るのが苦手ってだけなんだけど。
「それじゃあさ、早速今夜一緒にどっかいかないか?」
もちろんいいよ、と言いかけて、そういえば別の相手にも誘われていた事を思い出す。
「ごめん、今日は先約があるんだ。明日だったら大丈夫だと思うんだけど」
「お、そうか。わかった、じゃあ明日にしよう。それまでに俺も自力でちょっと強くなっておくわ!」
やる気満々の杉浦と一緒に遊ぶ約束をして、俺も少しだけ明日が楽しみになった。
学校からの帰り道、俺はさっき思い出した昔の友達の事を考えていた。
まだ中学の頃にやっていたネットゲームで、俺は初めて親友と言える友達を作った。
まぁ、お互い顔も本名も声すらも知らないんだけど。
二人とも人と話すのが苦手で、現実での境遇が似ていたってのも仲が良くなった理由の一つだと思う。
俺とそいつは、ずっと一緒に二人で冒険を繰り広げていたけれど、ある日そいつはぴたりと顔をださなくなってしまった。
その時は、柄にもなく結構悲しんだものだ。
結局それ以来一度も連絡は取っていない。
ただ、根っからのゲーム好きだったので、もしかしたらこのリンクコネクトで再開できるんじゃないか、なんて淡い期待も持っている。
もしまた彼に会うことができたらなら、その時はまた一緒にリンクコネクトの世界を冒険したいな、なんて事を頭の片隅で考えていた。