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モブが考える異質な存在

作者: 雪野つぐみ

 どこであろうと、平凡な者――いわゆるモブが多数を占める。例えば私のような。

 多くのモブは、異変の前兆や異質な存在には気付かない、あるいは気付くことを許されないものだ。だが、私は知っている。

 私の周囲には、異質な存在が多いと。


 「はは、我ながら変なもの書いたな」

教室の隅の方。私は今書いた文章を見て笑った。

 他人から見れば、「頭大丈夫か?」と言われそうな文章。書いたのが私でなければ私も言っていただろう。

 だがこれは紛れもなく私が書いた文章であり、本当の話なのだ。

 文章を書き連ねたノートを閉じて、窓の外を見る。 空気バットを持った団体を、団扇で叩きのめす三人がいた。


 今、学校(ここ)では“豆まき”の真っ最中だ。警備委員会の連中が務める“鬼”の頭に付けた紙風船を割ることができれば賞品が出る。参加者には武器として空気バット(と豆)が支給されている。賞品目当ての生徒(私が見る限り七割は不良だ)が挑んでは叩きのめされていた。

 賞品、というのもなかなか魅力的なものだ。“体育の増単位”“食堂の食券”さらには“警備委員会の指導免除”なんてものがあるのだ。警備委員会の指導を恐れる不良はこぞって参加するだろう。しかし食券や指導免除はともかく増単位なんてよくできたな……まあ連中なら不可能ではないだろうが。

 実は私も参加を考えていた。最終的には暴力沙汰が苦手なのと痛いのは嫌だったのでやめたのだが。


 そろそろ豆まきも終盤なのだろうか。叩きのめされた参加者たちが教室に帰ってき始めている。惜しかったの倒せるかあんなのだの、皆それぞれの感想を話しながら廊下を歩いていく。

 「……連中が普通のモブに倒せるわけないだろ」

つい、口から出た。幸い廊下には聞こえていなかったようだ。

 ノートを開き、続きを書き込む。


 私がここで言う異質な存在とは、只の馬鹿や中二病といった“痛い連中”や学生記録保持者などの“天才”ではない。

 例えるなら、魔女や妖怪、超能力者といった、“人離れ”したものだ。人間辞めかけている、とも言える。

 「ダブルクロス」というTRPGを知っているだろうか。現代のこの国で、人を異能化するウイルスの感染者になり、日常を守り人であるために戦うゲームだ。あれのキャラクターがうろちょろしていると思えばいい。


 ここまで書いて、手を止めた。外で恥ずかしいことを叫んでる奴がいる。家でやれ。少なくとも校庭で叫ぶな。

 外を見る。恥ずかしいことを叫んでいた奴が怒られていた。

 まだ警備委員会の連中と戦ってる奴がいたのか。しかもよく見ると、その内一人は中二病で有名な龍堂寺ではないか。いつも一緒の岩原、古河と三人で鬼に挑んでいる。

 奴等は少々、異質な臭いがする。只の中二病やその友人ではない、という予感がするのだ。勿論思い過ごしだと思われるだろう。私自信、異質な存在を見分けきれるわけではないから半信半疑だ。

 って、そんなことはどうでもいい。

 再びノートにペンを走らせる。


 勿論、全ての異質な存在が人間であることを望むか、と問われると、答えは必ずYesであるとは言えない。中には人間である事を辞める者、それを望む者もいるだろう。こればかりは私にも何とも言えない。

 この世界(人間社会)に未練がなければ単純に力や欲望のために異質な存在のままになるだろう。

 そうした者が引き起こす異変は、モブにはどうすることもできないことが多い。それを何とかできるのが、未だ人である異質な存在なのだ。


 ……言い過ぎか?

 ノートを閉じて、また窓の外を見る。

 決着はついたようだ。警備委員会、強すぎるだろう。彼らは何者なのか、私は判断できていない。モブではないだろうが。

 “智将”こと知崎……先輩。あの人は“薔薇”(直接的な言い方は好まないのでこう言わせてもらう)だの“恥将”だの言われているが、今日見ただけでも戦闘能力が高いのがとてもよくわかった。普段言われるチャラいヘタレ(事実“だった”)とは違う。噂の“婿入り”というもので何か心境の変化でもあったのか。

 “番犬”中田が強いのはいつものことだ。気に留めるまでもない……

 しかし、警備委員会は団扇が武器というハンデに意味があったのか?“智将”の団扇二刀流もハンデという意味でありなのか……?

 まあ、考えても仕方あるまい。実際、鬼役で残っているのは二人と“記録係”だけだ。

 昼休みも後十分か。今日の書き物は捗らなかったな。

 〆を書いて、考察(これ)を終わるか。


 ではモブである我々は異変に遭遇したとき、あるいは異質な存在と遭遇したときはどうするべきか。

 まずは身を守る事を優先すべきだ。そしてそれができてから、異変を楽しむ事だ。

 抗いようのないもの、変える方法を持たざる者は、持つ者とは違い、“世界”に決められた使命に従う必要などない。

 それを自由か不自由か、どうとるかは君次第だ。


 「……ふう」

書き上げた。ノートの書き込んだページを破りとり、葉書サイズの封筒に入れる。一緒に、『これで満足か?全く、君の考えることはワケわからん』と書いた便箋も。

 

 「あいつ、まさか真面目に書いて入れるとは思わないだろうな」

鞄から、もうひとつ封筒を出し、中の手紙を見る。

 『モブのキミから見る“モブじゃない存在”について教えて。いつもの場所のいつもの瓶にいれていつも通りにしておいてね』

 私の数少ない友人からの手紙だ。こいつはたまによくわからんことを聞いてくる。

 瓶は手紙を受け取った時に持ってきていた。さっき考察を入れた封筒を入れて、きっちり蓋を締める。あとは放課後に戻しに行くか……


 放課後。

 私は校舎裏の“いつもの場所”に瓶を埋めていた。友人と決めた、内緒の手紙を交換するための場所だ。

 蓋が土に完全に隠れる。これでよし。さあ、帰ろう。

 「さて、手紙の返事は何日後かな」

 私は奴がどう返事するかを楽しみに、校門を出た。


どうも、TRPG脳になりかけの雪野つぐみです。

今回は「お互いの世界」というわけで、文房群様の「空想学園シリーズ」を元に書かせて頂きました。節分で校内豆まきあたり。

しかし結果的にワケわからんものが出来てしまいました。誰が論文書けと言った。

文群さん、ごめんなさい。


さて、今回も共にこの企画を立ち上げてくださり更に作品世界を貸してくださった文房群様、ちょいちょい頭に残るネタを出してくださるT研の先輩方、そしてこんな無茶苦茶&駄作な二次創作にお付き合い頂いた読者の皆様、ありがとうございました!


……雪野、二次創作向いてないわ。

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