クラスでの出会い
目の前の猫耳族といった少女に、赤黒い岩塊が飛来してくるのを見て……
3年前と、同じような無力感を……
「こっんにっちはー♪」
「ねぇ君どこから来たんー?」
「放課後ちょっと買い物にでも行かなーい?」
三分程前にこのクラスに入った俺は、なぜだか知らないが、とにかく猛烈に絡まれていた。
極め付きは……
「ふんっ! 私を差し置いて主席だなんて、生意気にも程があるわよっ、 身の程を知りなさい!」
遠めに見たときは「ウワッ、縦巻きロールお嬢様みたいなやつが来たっ」みたいな感想だったのだが。
ヒョコヒョコ、と擬音でもつきそうなちっこい身長。124.8cm
縦巻きロールに隠れて、付け根が見えない猫のそれに似た耳。
「ウワッ、ファンタジーだっ」と心の中で声を漏らしてしまったのは、まぁ仕方がないだろう。
元々、その予備校とやらで最も成績優秀だった、このマオ族の少女。
俺が、主席の証である窓際の一番うしろの席に座らなければ、こいつが座る予定だったそうだ。あぁ、だから女子とコイツに絡まれたのか。前者の場合は日本初のパンダ扱いだな。
話によると、俺のステータスにはユニークスキル[護り癒す者<Res sit curare salutem>]という余計なものが付いていたらしい。
ここ数年ユニークスキル持ちの生徒は現れなかったので、王位継承権第38位のこの猫耳を抑えての主席となったらしい。純粋な? 縦巻きロールお嬢様なんだな。
因みに猫らしく窓際の席が良かったらしく、隣から可愛らしく睨んできている。
スキル持ちはチラホラと年に1~2人程はいるらしい。
今年は俺の"スキル"も合わせると、この姫様とあと1人いるとのことだ。
なんか会いたくないな、面倒な香りがする。
講師は、顔合わせしてろみたいなことを言ってどこか行きやがった。めんどくさそうな顔をしたイケメン顔。いけ好かない感じだ。
まぁ、ダベりながら待つとしますか。
マオ族の少女の名前はマキナという、なんかあいつを彷彿とさせるな。
「あんまり睨むなよ。ゼリーみたいに瑞々しいカワイイ顔が台無しだ」
ぽんっ、と頭の上に手を置く。
「ば、バカにすりゅニャー!!」
シュババ、と真っ赤な顔をして繰り出される猫パンチ、ハハ愛いやつめ。
結構イタイ……
『緊急放送です。本日予定されていた竜人族の魔術師ランドゥルフさまの実験に、我々のサポートのミスがあり爆破する可ブツっ……』
内心校内放送もあるのか、と思ったが聞く限り、ただのお客様じゃないらしい。魔術うんぬんのところは予定されていた台本なのだろう。教師をしているとこういう時に勘が働く。
「みんな、早く敷地から出ろっ! この学園は今危険だ!!」
「な、何が起こってるんですの?!」
ああもう、王女なんだからもうちょい賢くあってくれよ。
「侵入者だ、それも複数いる可能性のあるな!」
「えっ……」
「ご名答、さぁ皆手を上げてそこに並んでもらおうか。あぁそこの君、魔術を唱えようとしても無駄だよ、この部屋には強力な反魔法がかかっているからね。」
ダダダっ、と遅れて2~3人程の覆面をした集団が部屋に雪崩込む。
それに応えるかのように放送の声が入る。
『我々は、【解放団】というモノだ。餓える貧民を守るために、このカトリナ学園の魔法術式を全て渡してもらう。すでにこの学園のいたるところに爆破魔法を仕込んでいる。これから先、団員への攻撃や、魔法陣の解除に挑もうとした場合、即座に点火させる。
2時間くれてやる。そのうちにこの学園にある265冊の魔道書をもってこないと……』
『点火』
っドオオオォォォン!!
『フフフ、安心しろ。今のは庭のを起爆させただけだ。もっとも、あと二時間もすれば、お前たちの身に降りかかること、だがな』
「まぁ、そういうことだ。精々おとなしくしているんだな。」
言い終わるが早いか、マキナが椅子を激しく転ばせながらいきり立った。
「待ちなさい! 私を誰だと思っているのですか!! ワタクシは王位継承権38位のマキナ・ロウ・ロングウィルですのよ! このままにしてくと、ただじゃ……」
「やれ」
後ろの男の前に魔法陣が現れた。光を放つ茶色のそれは、ナニかを引き込むようにグルリと回転する。
その魔法陣から、岩の砲弾がマキナの方へ向かう。
手を、伸ばす。
また、オレは護れないのか。
俺が非力なために、また、なのか?
マキナを護りたい、そう意識し……
ドックン……
意識が引き伸ばされる。いや、異常にオレ自身が早くなる。
オレ以外の全てが止まった時間で、咄嗟にオレはマキナを庇う。
出来るだけ、できる限り砲弾の向きから体をそらす。
しかし無情にも時は動き出す。
オレの肩を吹っ飛ばすような、岩塊が、ぶつかる……
『権限者の危険を認識。ユニークスキル[護り癒す者<Res sit curare salutem>]をオートモードにします。
ディスペルの魔法陣を探知、ハッキングを開始します。……成功。魔法陣を消去します。……成功。
殺人への忌避感、生命番号1563365に対する敵意を認識。魔法陣のハッキングを開始します。……成功。軌道の座標の割り出しを開始します。……成功。非致死の威力に書き換えます。……成功。割り出した座標、生命番号1563365に射出します。』
ドンッ……
「ガフッ……」
『……成功。』
何が……起きている?




