第七章「正体不明」
第七章「正体不明」
夜の病院、まだ深夜では無いので見つかると面倒だったのと。部屋番号が分からなかったので、時間がかかってしまったが、目的の部屋を見つけ出した。
当然窓側からの侵入である。このコスチューム――しかも右腕焦げてるし――では少々真正面からの侵入は面倒が大きそうだったからである。
木の上に昇り、枝葉に身を隠して様子を伺う。
そしてようやく眠っている美月ちゃんの姿を見つけることができた訳だが。
「―――なんで」
魔人は倒したはずだ。魂が解放されるのもこの目で見た。
――なのに、なんで。
彼女は未だ生気のない顔をして横たわっているのだろうか。
「……やはり、そうだったか」
スピーカーフォンにしている携帯電話から、ハルファスの声が聞こえる。
「おい! これはどういう事なんだ!!」
思いきり腕輪に向かって怒鳴りつける。
「余り叫ぶな、こっちは車内なのだぞ」
ハルファスは一つため息をつき、あたり前のことのようにこう言った。
「犯人は別にいるということだ、当然のことだろう?」
「なにを言って!」
そこに割り込む声が一つ。
「――魔力を探査していたら魔法少女が見つかったか、これは僥倖」
しゃがれた、男性のような声が聞こえる。
見上げると、そこには、黒い鎧のようなものを着こんだ、魔法少女がいた。
彼女が魔法少女だと思ったのは、ボクと似たような緑色のコスチュームをその下に着込んでいたからだ。腕には、なにやらステッキのようなものが握られている。
魔法少女は口を動かさず、しゃがれた男の声で喋り始める。まるでスピーカーでも内蔵されているように。
「君は、ハルファスの魔法少女だな? 彼には礼を言っておいて欲しい。もっとも言えればの話になるが」
突如雨が降り始める、強い雨だ。
「おい! そっちはどうしたんだ!?」
ハルファスが慌てて声をかける。
「わからない、魔法少女が黒い鎧を着ている――だけど、分かることもある」
ギリッっと奥歯を噛み締める、間違いない、こいつだという確信。
「貴様が――美月ちゃんの魂を攫ったんだな!」
魔法少女は相変わらず顔に合わない声をどこからか出す。
「――その少女ということなら、いかにも。なるほど、単純に必要な作業だから手にしたまでだが。これはまた大きな獲物がかかったモノだ」
「きさまぁああああああああああっ!!!!」
木から弾丸のように跳び、思いきり左拳を握り締め振りかぶる。
だがその拳は届くことはなく、敵――その魔法少女の寸前でなにか硬いものに遮られた。
何か、見えない壁のようなものがある。それは光の膜のようで当てた拳から波紋を立てていた。叩いた感じ薄いイメージがあるが――全力で振りかぶった拳は貫けなかった。
「なるほど、流石ハルファス。今度のも活きが良さそうだ――ぜひ欲しい」
「おい!! ユウキ!! 黒い鎧を着た魔法少女なのだな、それは!?」
ハルファスが大声で声をかける。
黒い鎧には両膝、両肩、頭、胸の六箇所に魔石が埋まっているのが分かる。
その魔石がぼんやりと光る。
「いいから逃げろ!! その場から早く!!」
ハルファスの怒声が聞こえるがこちらはそれ所ではない。
「馬鹿な事を言うな!! この戦いから逃げられなんて―――」
「いいから『逃げるんだ!! 全力を以て今すぐに!』」