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オープニング

時代は勇者量産時代。

数で言ってしまえば「ああ、学年の一クラスに一人程度にはいるよねー」程度には世にあふれた人種、勇者。


『はるか昔、魔王による悪魔の軍勢が魔界を制して、人の世に現れた。

炎はその体を人の形にして、山よりも大きくし鉄の国を焼き尽くした。

水はその体を蛇に、谷の王国を沈めた。

そして知ることする恐ろしい何かは、その体を闇に沈めて世界の人々に恐怖を与えた。

こうして世界はひとつの国を残して人類は絶滅の一途を辿っていた。

しかし人間の信仰を糧に生き長らえる神々は人を捨てるわけにいかなかった。

見捨てればこちらまで死んでしまうのだから当たり前なのだが。


神々は生き残った僅かな人を無造作に選び、それに力を与えた。

炎に焼かれようと焦げ一つ付かぬ盾。

水に沈もうと消して沈まぬ靴。

そして、これが勇者と呼ばれる所以。

あらゆる恐怖を感じ得ぬ心。


それからはあっという間であった。

まず炎の人の軍勢が消滅した。

炎さえ届かなければ知能も持たないただ燃えるしか能の無いそれらを破るのは容易かった。

次に水の蛇を討った。

所詮は水、高所を取れば歩みが遅くなり、沈まぬ靴に頼りにその体の上を駆け、核を潰しただの水へと還した。

最後に語ることすら許さぬ者。

これについては一切が記されておらず、口伝ですら内容は消滅している。

しかし当時の勇者もこれを討ったようだ、だから我々人は生きていられる。

そして最後の魔王。

これについて口伝も書物もいくつも種類が今も現存している。

手段、場所、状況などがどれも違うが最終的には魔王は勇者の剣の前に喉を割かれて破れている。


こうしては人間は魔王と悪魔の軍勢を退け平和を手にし今に発展してきたのだった。




おしまい。』



これが始まりの勇者の物語だ。

魔王はこれ以後にも何人も何回も悪魔の軍勢を引き連れてやってきた。

炎の兵隊や水の蛇だけでじゃない、鉄で出来上がった巨人や植物の弦でできた亀など、そのたびに手法を変えて襲ってきた。

人々はこれに対して知能を使い、軍を編成して武器を作り抗ったが、全てが無駄となった。

しかし、どの時代にも勇者の子孫が、恐怖を感じえぬ心を受け継いだ勇者たちがその度に与えられた神々の武具で魔王と軍勢を討っていた。

そしていつしか、何回目かの魔王と悪魔の軍勢を退けた時に誰かが気がついた。



「勇者の恐怖を感じ得ぬ心は、遺伝する」



それは唯一無二であったはずの勇者存在が、ひとつの職として成り下がった切っ掛けであった。

始まりの勇者より増えた王国は競って勇者の子孫達に子作りを推奨していった。

そして誰かが言い始めた通り、勇者の特性である恐怖を感じ得ぬ心は確実では無いが、たしかに遺伝をしていった。

次の代の魔王と軍勢が現れた時、勇者の数は2000を超えていた。

各々の国から勇者たちは旅立ち、内3人の勇者が軍勢と魔王を討ったのだ。

これが100年前。

天暦1200年、勇者の数はもはや観測不能とまでなっていた。

先にいった一学年の一クラスに一人、ほとんどそのぐらいの割合だ。

相対して、勇者という存在の価値は下がっている。

当然だ、以前の唯一無二の時代ならまだしもこの時代ではもはや代替可能な歯車の一つだ、重宝する理由がない。

だが王国が勇者を送り出すという制度が現存し続けていた。

しかしほとんどが形骸化しており、今では大体の勇者は僅かなゴールドと短剣一つで国の外へと送り出し…否、都合のいい数打の暴力装置として追い出された。

勇者たちは魔王の討伐が確認されるまで国に帰るどころか、家族に会うことすら許されず、勇者といえど誰もが冒険に向いてる訳でも当然無く、野盗に身を落とすものも多くいた。



そしてこの英雄譚は、天暦1200年。孤独にして一人にあらずの勇者の物語。

人々は言う、その勇者の近くには人々が見る事叶わぬ女神がいつも側にいたと。



-----------------------



ゴブリン達の洞窟

今、先輩勇者達のパーティに混じって俺は一緒にここに潜っていた。

洞窟の中は雨が降った後かのようにジメジメとしており、石でできた洞窟はいたるところが滑りやすくなっており、冒険慣れしていない自分は非常に危なっかしく進む。

国に僅かなゴールドと使い古されたであろう短剣だけ渡されただけで、国から追い出された時にはどうなるか分かったものじゃなかったが、偶然知り合うことができた長年旅を続けているという勇者たちに知り合い、旅のノウハウを覚えるまえ一緒に冒険する事ができた。

一緒に冒険していて分かったが、この人達はものすごく強い。

まずいつもパーティの先頭に立ち、そのリーダシップで皆を引き連れる戦士型勇者のアトラ。

そのカリスマもさながら、巨体に強靭な鎧を生かして後ろの味方への攻撃をほとんど防いでしまう。

事実、この洞窟はゴブリン意外にも奴らが飼っている毒蜘蛛が現れる。

こいつらは麻痺毒を持った種類で、戦いなれた戦士でも一人では手間取るのだが、彼はほとんどそれを一撃を切り捨てている。

そんな彼の仲間である魔法使いも僧侶、元盗賊だという戦士も彼に負けぬほどの腕を持った人たちであった。

彼が一撃で倒すことのできなかった毒蜘蛛も、魔法使いの炎の魔法と戦士の投げナイフで見事にサポートされていた。

時折、といってもまだ1回だけだが、毒蜘蛛の毒にヤラれてしまってもすぐに僧侶が回復をしてくれた。



「ルーキー、あんま気を張るなよ」


「そうよ、攻撃何てほとんどアトラが防いでしまうし、アナタは一番後ろで戦いの雰囲気をつかみなさい」


「・・・俺のセリフ奪うなよ」



それにユーモアにも事欠かない。

彼、アトラはあんな事を言っているが、口下手な彼では全部を伝えきれなかっただろう。

そんなところまでサポートしあう、まさに息があったメンバーだと言えた。

だからこそ、後に起こる悲劇は、偶然が偶然を呼び、悪運を呼んだとしか思えなかった。


洞窟は進めば進むほど道が広く、しかし湿度が増していた。

肌にまとわりつく感覚が非常に気持ち悪いのだが、今ここは魔物が出る洞窟、鎧を脱ぐわけにはいかない。

しかし、勝手なイメージだが洞窟というのは広く狭く、ましてやゴブリン達が住処にしている洞窟なんてもっと適当な作りだと思っていた。

たしかに湿度が高く、至る所が水を掛けたように濡れているのだが、足を滑らせる回数は確実に減っていた。

というのも足元に転がる岩や石の量が減り、代わりに砂利や砂などが撒かれているからだ。

酒場から出ていた依頼ではここに巣くっているゴブリン達の討伐だけとなっているが、話に聞いていたゴブリンというのはここまで賢い悪魔だっただろうか。



「何かおかしいな」



アトラも気がついたようだ。

嫌、彼のことだからとっくの昔に気がついていても口に出さなかっただけかもしれない。



「そんなの皆気がついているわよ」


「おそらく、ここにはゴブリン以外にもゴブリンロードもいるのではないかと」


「嫌な冗談を言うな、こんな洞窟にいるわけないだろ」


ゴブリンロード。

ゴブリン達の上位種に辺りその怪力は人間のそれをはるかに上回る。

さらに上位種だけにゴブリンの群れを統率する力を持っており、それがいるかいないかだけでただの冒険者に任せるか、勇者も含まれたパーティに依頼するかが変わる。

以前複数匹のゴブリンロードが3万近くのゴブリンをまとめて街を襲ってきた時には国が軍を出動させてきた。

統率されたゴブリンの戦力は凄まじく強く、全滅させるまでに幾つもの村や兵士を含め多くの被害者を出して終結した。

ゴブリンの脅威はただ数が多いだけでは無く人よりも遥かに体が丈夫にできているという点にもある。

具体的には両腕が切り落とされ、頭から骨が覗いていようと平気で噛み付いて攻撃してきて、反日経ってから漸く死ぬ。


1時間歩いたところ、先頭を歩いていたアトラが道を手で遮る。

それと共に私を抜いた残り3人の雰囲気が張り詰める。

一番後方にいるのでよくは見えないが、音から察してどうやら先に何かが複数匹いるようだ。

アトラが静かに細剣を抜くと共に戦士も両腰から短剣を抜く。

僅かな目配せのうちに二人が同時に走りだした。

少々騒ぐ音がするが、ゴブリンの声らしき音はしなかった。

かわりに大量の液体が飛び散る音がする。



「…よし、もう大丈夫だ」



アトラの声と共に雰囲気が少しだけ和らぐ。

声に誘われゆっくりと入るが、胃の内容物がこみ上げてきた。

おびただしい血の量に加えて酷い腐臭。

明かりが小さく周りがよく見えないが、何か大きな塊が落ちているのも見える、

せめての救いはすぐに鼻が麻痺してしまいギリギリのところで吐かずに済んだ事だ。

この血は恐らくゴブリン達のモノ、血は天井壁と再現なく赤く染めていた。



「お、やるじゃないかルーキー、この状況で吐かないなんて」


「本当ね、私なんて初めの頃は胃の中全部出ちゃったわよ」



アトラたちは辺りを物色しながらそんな事を言ってくる。

私はというと吐くのをこらえるために気を張るのに必死でそんな事を気にする余裕が無かった。



「なあ、こいつを見てくれ」


「どうした…あちゃぁ、こいつは」


「何か…マズイものでも見つけたんですか」


「来てみろルーキー」



辛うじて話す程度にはマシになった頃、アトラ達が深刻な雰囲気を伺わせる声を出した。

声のする方向にどうにか胃を刺激しないように歩いて行く。

近づいていくと何か焦げ臭いような匂いがただよってきた。

生物を焼いた匂いという訳でもなく、ただ木を焼いただけのようだ。

焼いた…?つまりここに火があった?



「このぐらいは分かるか。そうだ、【ゴブリン共は火を扱うなんて知能を持たない】」



ゴブリン達は丈夫な体を持つ代わりに非常に知能が低い。

どのぐらい低いかと言えば、まったく同じ場所に落とし穴を作り、そこに1時間ごとに三日間通らせても一切学習せずに穴に落ちるくらいだ。

よって、まず火を扱い火種を絶やさないなどという知能はまず無い。

それを指導して、教える者がいない限りは。



「引き返そう、これはもうゴブリンの群れ討伐の範疇を超えている」


「……確かにそのとおりだな。この分だと攫われた人たちも既に無事じゃないだろ」



本来の私達の目的は先の通り、ゴブリンの群れの討伐であった。

この辺りは先ほどに説明したゴブリンロードとそれが率いる3万の群れと王国軍が衝突した元戦場の近くだ。

それからいくつかの年月が経ったが、この辺りは未だに当時のゴブリンロードの軍勢から逸れた中規模なゴブリンの群れの子孫達が残っている。

それらは度々家畜や行商、果ては近隣の村々を襲うこともあり、今回彼らはそれを根絶やしにする筈だった。

そのため過剰な装備は用意せずに、持ってきていた物も難易度相当のものだった。

ただち冒険日用品と武器、それとスペア用だけだった。

この撤退の判断は当然なモノだと言えた、ヘタに欲をかいて確認だけでもしようせずに素直に異常を感じてすぐに撤退を判断する所を見れば、優秀な判断だと言える。

なにもかもが遅いという一点を除けば。



「「「ギイイイィイィィィイイイイイイイィィィ」」」



突如洞窟の中に響いた、歯ぎしりの様な鳴き声。

それも一つではない、何重にも何方向からも声がしてきた。

冒険者達はここにきてようやくく自分たちが包囲されていた事に気がついた。



「くそったれ、完全に囲まれたぞ!」


「わかっている!一点突破で抜けだすぞ!」


「周りが見えない…火炎の呪いを放つわよ!」



即座に火炎のルーンが魔法使いの周りを舞う。

通常、魔法使いはルーンを展開しその効果が具現化するまで平均約30秒かかる。

しかしこの魔法使い、優秀な魔法使いの血族に出であり、さらに自身の体にも炎のルーンの刺青を入れることによって、本来の詠唱時間よりもずっと短縮されて唱えることができた。

その時間僅か6.75秒。驚異的な速度だ。

しかし今回はそれも仇となり、パーティに致命的な敗因をもたらした。

それにいち早く気がついて、中止する声を出そうとした時には全てが遅かった。


リーダーである勇者の声がかき消されるように洞窟に炎が舞う。

炎は回りにいるゴブリン達を炭に変え、運良く炎に飲み込まれるのを逃れたゴブリンも、重傷の傷を負った。

しかしソレ以上に効果があったのが、炎が洞窟を舞うことによって酸素を大きく消費する事である。

炎から離れていたゴブリンたちも、やがて肺を抑えて一人、また一人苦悶の表情を浮かべて倒れていく。

だが、それは同じ酸素を共有する人間側に同じことが言えた。

まず僧侶が膝を付き、次に大斧を振っていた戦士、同行していた見習い勇者、魔法使い、最後に勇者が倒れた。

各々の顔どれもが凄まじい。

困惑、絶望、怒り、悲壮。


なまじ、経験が豊富な冒険者達なのが仇となった。

彼らの全員がゴブリンに捕まった後の事をよく知っていた、知りすぎていた。

女は犯され肉袋にされ、極上の食料生産装置に『加工』される。

男は保存しやすく、なおかつ鮮度を保つようにゴブリン達の生命力の元である液体を飲まされた上で、『調理されて生きたまま保管』される


辺りに静けさが訪れたかに思えた。

倒れたゴブリン達を踏み越え、奥に控えて何を逃れたゴブリン達が現れた。

ゴブリン達は勇者たちが生きているのを確認すると一人ひとり担いで洞窟の奥に連れて行った。


その光景は見るものがいれば、それは地獄の底に連れて行かれる悪魔に担がれた罪人に見えた。

次話からヒロインが出てきて主人公とほのぼのイチャラブします(確信)

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