イジ、旅に出る
異界の皇王国ガリディア。皇王の狂気に、皇子皇女が争い、皇国が九つに分裂した。
九つの諸国に別れて、戦乱が巻き起こる。
皇王二十二番目の子、皇女ルルエは小国ルルリリイエを成した。
小国ゆえにルルリリイエは、皇王皇子の八つの国より贄とされ、強襲され続けていた。
皇女ルルエ、生き残りをかけて独立を決意、ルルリリイエ創国を目指す戦いが始まった。
戦いの辺境の村に、少女の姿をした戦士、イジが立っている。
このお話は、ルルリリイエの創国に戦功を成した戦士のひとり、イジの物語である。
「まったく、この小さな村の調査に来ただけなのに……入り口で獣さんとバトルになるとは……しくったかな……」イジがぼやく。
イジは、白肌銀髪の少女である。双眸は大きく、剣の戦いを得意とする。
1メタ程度の小体だが、筋力は高く、熱量が大きい。
異界の白き影と人魂が交わり生まれた兵。
人界の膨大な熱量により活き、異界の影を圧している。
「どう思う、サラ」
剣を鞘に戻しながら訊ねた。
「いきなりだもの。獣さんが悪いわよ~。ま、仕方ないじゃない。それよりぃ、村にかわいいお店あるかなぁ」と、両頬笑顔でかわいいのがサラ。
サラは、白肌赤髪である。双眸はやさしげだが、張顎に力量が漲る。
体躯は小さいが、体術を得意とする。小刀術や創術にも長ける。
「ベトベトだのね。キモいから洗いた~い。洗ったらぁ、村の装具屋さんに行こうよ。楽しみ~」と、ヤンチャに語る少女がチヨだ。
チヨは白肌金髪である。
双眸がやや切れあがり、小さな唇に幼い言葉が似合う。
走駆に長け、瞬間を眺望できる特技を持つ。
サラもチヨも、イジの仲間だ。
二体とも異界の白き影と人魂が交わり生まれた。人界からの操魂に活きている。
人界の仮想現実と異界の橋界が扉を成した。
人界の戦略、意志と契約の理の末に、人の魂が異界の影と融合、恵まれし兵となった。
ルルリリイエの創国に向けて、旅を始めたばかりの三少女である。
少女たちの後ろには、獣が倒れている。
赤黒い肉を透明なアクリルの甲殻と透明なプリン体でつつんだ獣が倒れていた。
見た目にも淫猥な体の切断された部分からプリン体が、微動しては消えていく。
少女たちにかかった飛沫も消えた。本体はすでに震えも止めて、動いてない。
「ヨカッタァ、べとべと、消えるね」
「こいつ、大きい割に、すぐ倒れたよね。なんか怪しいんだけど」
「サラがツンツンしても動かないから、逝っちゃったんだよ。ね?」
「イジもチヨも、それぞれ一発入れているから、効いたんだよ」
「そうかぁ? そうかもなぁ」
「イジぃ。たぶん、仲間大勢連れてくるよ~。なーんっちゃって」
「とりあえず。こいつ置いといて、調査、いこうよ~」
戦いを終えて村のゲートをくぐる。
村の境を越える。
草の庵があり、影の親子たちが歩いている。
イジたちを見て、母親の影が睨む。
子影を制して足早に去っていく。
影たち、戦いなど嫌いなのだ。
ため息をつくと、イジは村の中心に歩みをすすめた。
「イジ、調査で、村長に何を聞くの」
「ゾゾームドムの鳥族、王ハスター、その従僕のバイアクヘーに交信できる影、または異界の神々をさがせってこと。チヨ、一緒に伝令の話し聞いたじゃん」
「イジ、むずかしいよ。もっと簡単に言ってよぉ」
チヨがむくれる。頬をふくらませて、ブーたれた顔になる。
『ゾゾームドムの鳥族、王ハスター、その従僕のバイアクヘーに交信できる影、またはエをさがせ』という命令が、ルルエの行政官であり軍師でもあるソシからの伝令である。
サラが応えた。
「チヨ、影に聞けばいいんだよ。鳥族にお知り合いいませんか~ぁ?、ハスターやバウアクヘーに知り合いの影を知りませんか~ぁ? って、聞けばいいんだ」
「イジ、そうな、なのぉ?」
「ああ、そのとおり。ありがとう、サラ」
「いえいえ、イジは説明に言葉、たんないからね」
「サラ、チヨ、要は第一ステージは、飛行ルートの開拓と、制空権の獲得ってことよ」
「チヨ、わかんないよ。また、むずかしい言い方する~」
「ごめん。ルルエたちは、空を制したいの。お空の民をお友だちにして、有利になりたいのよ」
「有利になるの?」
「この異界、飛行機ないじゃん」
「うん、ヒコーキ、ないね」
「空から爆弾、落としたら、相手一発で負けしょ」
「ああ、そーかーぁ、サラ、分かりやす~い」
「でも、チヨは思うのさ。ロケットやヒコーキ、作っちゃえばいいじゃん」
「すぐにできないって。異界の影たち、理解できないし、材料ないし……」
「早いのは鳥族の確保よ、この世界ではね」
イジは、言葉を切った。
サラが頷いて、チヨの手を取って歩き出した。
「あるこー、あるこー、わたしたちゲンキー」
二人が笑いながら、歩いていく。
イジも、笑って歩く。
「でもさ~、ニューヨークの摩天楼やフランスのシャンゼリゼのお店、ないのがね~、ちょっとね~」
「まあ、治療が成功すれば、アゲアゲよ」
「そのためにも、村の影たちに、いろいろ聞かないと」
「イジ!」
チヨが二人の前に飛び出すと、仁王立ちになる。
「わたしわぁ、村の影ちゃんたちのお話を聞いてきまーす」
チヨが軍式敬礼を行う。
そして、踵を返すと、村の仲に
「イジ、不安だから、わたしもチヨと一緒に行くわ。チーム・リーダー、ヨロ」
サラが後を追う。
「あ、ずる」
「がんばれ~、ち~む・り~だ~ぁ、イ~ジ~」
おもわず、イジも笑いを噴出してしまう。
「しっかたないわね~。わたし、村長にあいさつしてくる」
「ヨロ~。じゃあ、サラ行こう。お店……じゃないよぉ。広場ね、お話してくるねぇ」
「じゃ、ソンチョーさんによろしくねぇ」
にぎやかな広場に向けてサラとチヨが歩いて行った。背中を見送ると、イジは村長の家に向かった
村長に会ったが、これといった情報はなかった。
辺境の村に、わざわざ来られたとの村長の挨拶があった。それだけだった。
歓待を期待したが、それもなし。
「考えてみれば、戦争されて、後片付けじゃ。歓ばれる理由ないよね」
ため息をついた。
「イジ、大変だあ」
村長の家に、チヨが飛び込んできた。