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第三話 告白

ある程度、書き溜めしてたものを、書き直して投稿しています。


サブタイトルを付けるのは毎回、考え込んでしまいますね(-д-;)

「じゃ、あたしはこの本日のケーキセット。梶山先輩は何にします?」

 そう言って俺の隣りに座っている佐々木さんはメニューから顔を上げた。

「えっと、雪人と俺はコーヒーで。あ、ホットでいいよ」

 ユウジが俺から醸し出している空気を察して慌てて注文をした。

「伊東先輩はどうしますか?」

「え、えっと、じゃあ私も梶山君達と一緒で……」

「じゃ、本日のケーキセットとホットコーヒー三つで」

 佐々木さんから注文を受けた店員が、頭を軽く下げて店の奥へと消えて行った。しんっとどこか重苦しい四人の空気に、アップテンポな店のBGMが痛々しい。

 だいたい何でユウジ達がここにいるんだ?

 俺はじろりと目の前に座っているユウジを睨んだ。俺からの怒りの空気を感じているのか、ユウジはこのファミレスに着いてから俺と目を合わせようとしない。ひたすら、佐々木さんと伊東に話しかけている。

 だいたい何だ、この席順は? どうして俺の隣りに佐々木さんがいるんだ?

 席順はこうだ。窓側のシート席で、ユウジの隣りに彼女が。そして俺の隣りに佐々木さんがいる。……おかしい。どう見たってこれでは俺の彼女は佐々木さんで、伊東がユウジの彼女じゃないか。

「なぁ、なんでここにいるんだ?」

 一人もんもんと考えていても仕方がない。俺はユウジに向かって聞いた。俺から声を掛けられたユウジの肩がびくっと震えた。

「いや、ほら、大人数のほうが……楽しい……かなぁ〜……なんて、そんなことないよねぇ……」

 ユウジは俺と目を合わさずに、きょろきょろと辺りに視線をばらまきながら答えた。

「分かってんじゃねぇかよ。で? なんで結局来ちゃったわけ?」

「あたしがユウジ先輩に頼んだんです」

 伊東と話をしていた佐々木さんがユウジの代わりに答えた。伊東がちょっと困った顔をして俺を見た。

「頼んだって、何で……」

「理由は簡単ですよ。あたしは梶山……」

「失礼しまーす。本日のケーキセットをご注文のお客様?」

 良いタイミングでウェイトレスがチーズケーキと紅茶、ホットコーヒー三つを持って来た。佐々木さんが『あたしです』と手を上げた。

「そうだ。あたしのことまだ話してないですよね。実はあたし、梶山先輩たちの高校の後輩なんです」

 ウェイトレスが席を離れて、佐々木さんは伊東に話し始めた。

「そうなんですか……」

「はい。高校のヤマ先生って分かりますか?」

 伊東がカップに口を付けて頷いた。

「ヤマ先生に梶山先輩と伊東先輩の話を聞いて、あたしすっごく感動したんです。一人の好きな人を待ち続けた梶山先輩ってどんな人なんだろーって」

 ぽとんっと佐々木さんは角砂糖を紅茶のカップに落とし、カチャカチャと小さなティースプーンでかきまぜた。俺たち三人はただ黙って佐々木さんの言葉を待っていた。

「あたし、回りくどいのは苦手だし、陰でこそこそするのも嫌いなんで言いますね」

 角砂糖が解けて、ほんのり甘い香りを匂わせた紅茶が佐々木さんの喉を通る。俺の喉には生唾が通った。ごくっと生々しい音が体中に響いた気がした。これから続く佐々木さんの言葉に警戒せよ、と頭が鐘を鳴らしている。

「あたし、梶山先輩が好きなんです」

「えっ?」

 伊東は目を丸くし、俺はがくっと肩を落とした。ユウジはと言うと、はらはらした表情で伊東と佐々木さんの顔を交互に見ている。

「えっと……」

 伊東が額に手をやって考え込んでいる。俺はがたんっとその場に立ち上がった。

「伊東、帰ろ」

「え、で、でも」

「いいから」

 俺はちらりとユウジと佐々木さんの方を見て店を出た。その後ろを伊東が慌てて追いかけた。

「……やばい。オレ殺されちゃうかも」

 ユウジの顔がみるみるうちに青色に変わっていく。そんなユウジを目の前にしている佐々木さんは、何もなかったように一口大に切ったケーキを口に運んだ。

「……なんでそんなに堂々としてんの? もしかしたら雪人、夏美ちゃんのこと嫌いになったかもだよ?」

「それなら、好きになってもらうように頑張るだけです」

 ぱくぱくと休むことなく、食べやすいように切り分けられたケーキが佐々木さんの体に吸い込まれていく。

「ユウジ先輩」

「え?」

 あっという間にケーキを食べ終えた佐々木さんは、カップに残っているぬるい紅茶をぐいっと飲み干した。

「あたし、どうしても梶山先輩じゃないとダメなんです」

 空になったカップの底を見つめて、佐々木さんはぽとりと言葉を落とした。




「梶山君!」

 辺りはだんだんと暗くなり、空にはぽつぽつと星が顔を見せていた。

「梶山君、待って」

「あっ、ごめん」

 くっと服の裾を引っ張られて我に返った。俺の後ろには、少し息が切れている彼女がいた。

「……どこか座ろうか」

 俺の目に誰もいない公園が映った。彼女はこくんと頭を下げた。

 心地よい春の夜風がブランコを揺らした。と同時に、ベンチに小さく座っている彼女の髪も揺らした。

「あのさ……」

 俺は何から話したらいいのか、いや、何を話したらいいのか迷った。佐々木さんのことは気にするなよ、勝手に向こうが言ってるだけなんだ、誤解しないでくれ……。どの言葉も何だか薄っぺらい。

「梶山君、モテモテですね」

 張り詰めた一本の紐が彼女の言葉で緩んだ。

「モ、モテモテ?」

「はい。いろんな人に好かれるのは嬉しいことですよね」

 ん? んん? 何だかズレてるような気がするけど。俺はちょっと首を傾げた。

「いろんな人に好かれるのは良くないですか?」

 今度は彼女が首を傾げた。どうやら本気でそう考えているみたいだ。そんな彼女を見ていたら、今まで自分の中にあった、刺々しい気持ちが丸くなっていくのが分かった。

 まいったな、今彼女がすごく愛しい。

 そんな感情が俺の心いっぱいに広がった。

「……俺は」

 そっと彼女の手に自分の手を重ねた。小さな白い華奢な彼女の手。すっぽりと俺の手に覆われた彼女の手は俺の手を握り返した。

 ……俺は伊東に好かれてたら、それでいい……なんて、そんな歯の浮いたセリフは恥ずかしくて絶対言えない。でも本気でそう思ってるんだ。あの頃から、君と出会えたあの頃から。

 彼女が不思議そうな顔で俺の顔をのぞきこんだ。

「梶山君の顔、真っ赤ですよ」

 くすくすと笑う彼女の頭を俺は優しくなでた。

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