ある黒猫の日向ぼっこ
※この物語は9月12日に投稿したものです。内容は変わっていません。
ある大きな大陸の
ある小さな国の話。
我輩は猫である。
名前は、まだ ない。
…………と、言いたいところではあるが、実は ある。
我輩は、なんでもこの国の王子に拾われたらしい。
王子否、主の名はフロックス・シュテンベルクという。
まだ十にも満たない、金髪の愛らしい子だ。
我輩に対しても優しく接してくれる。
この奇妙な赤と黄のオッドアイも気味悪がらずに、むしろ気に入ってくれている。主が王子だからなのか、日々の待遇も悪くない。むしろ、良すぎるくらいだ。
日課とする、庭園にあるイスの上での日向ぼっこも最高である。
さて、今日も行ってくるとするか。
我輩は、ほかの猫、というか動物と比べると、少々珍しい。
この、赤と黄のオッドアイ。
そして、人の言葉を理解するのだ。この能力はべつに、いつから、というわけでもなく自然に身についていた。
だが、けして頭が良い、というわけでもない。
----が、こうして今まで生きてこられ、なおかつ金持ちの家に拾われるほどの運はある。
自分で言うのもなんだが、おかしな猫である。
「あら。可愛い黒猫ちゃん」
ん? 今日はどうやら先客がいたようだ。
「あの侍女が言っていた、王子が拾った黒猫ですね」
「ああ! この子ね! あら、目がオッドアイだわ。綺麗ねえ」
「そういえば。王子が東洋にはまっていたとかで」
「………………ああ。大丈夫よ、黒猫ちゃん! そこ以外、フロックスは完璧よ!!」
…………この二人が何のことを言っているのかを、分かりたくなくとも、分かってしまったのが悲しいものである。
それと、もうひとつ。
分かったというか、感じ取ったことがある。
-----この女性は、主と血が近しいものではないだろうか。
主は金髪・緑眼に対し、この女性は黒髪・黒眼。
髪の色も、瞳の色も、肌以外の色素はまったく違う。
髪質も、主は少しくせっ毛だが、この女性はまっすぐ腰までとどいた、ストレート。
瞳の形も、緑の瞳はくりっとした二重(まだ子供だからかもしれないが)。
黒の瞳は同じ二重でありながらも少々切れ長だ。
第一印象も、主は人懐っこそうだが、この女性は相手をどこか気後れさせるものがある。
はっきりいって、外見は似ていない。
唯一、共通点をあげるとすれば、どちらも超絶な美貌、ぐらいだろう。
だが、我輩はこの女性は主と近しいものだと感じる。
そう。いま、我輩を撫でる、この手が。
おもわず、ゴロゴロと喉が鳴ってしまう、絶妙な愛撫が。
我輩の瞳を見て、「きれい」と言ってくれたことが。
なにより、いちど知ってしまったらもう離れることはできない、妙な引力が。
ああ、すべてが、心地よい……
………………ん?
なにか、さきほどからおもわず毛を逆立ててしまうような、突き刺すような視線が、我輩に……
「かわいいですね。----王女の膝上で撫でられてゴロゴロと」
……いや、気のせいではない…!
我輩が路地裏暮らしで鍛えられた、野生の勘がいっている。
「----それにしても、きれいな毛並みですねえ」
“はやく、にげろ!!” と…!!
「王女。近頃、寒くなってきたので、毛皮のものもいいのでは?」
「あら。そうね」
「どんなものがよろしいですか?
王女の髪と瞳の色とそろえて、黒色にしましょう」
「----!? まさかの自己完結……!!」
やばいぞ…!! これは、やばい……!!
この男の言っている言葉の含みが、分かってしまった…!
決定的証拠は、この女性に勝るとも劣らないこれまた麗しい男の微笑。
微笑んでいるのに、我輩を見る目はいっさい笑っていない。それどころか殺意が……!!
「あっ! いた、いた! ゴン三郎!!」
…………。
「あら、フロックスだわ」
「おや、残念」
……………………。
我輩は猫である。
名前は、………………………「ゴン三郎」という。
我輩は、主がとても好きだ。
日にあたるといっそう輝く金髪も、
好奇心にきらめかせる緑の瞳も、
我輩のお気に入りである。
まるで、神の愛し子のような主。
------だが、ネーミングセンスは恵まれなかったらしい……。
「おーい、ゴン三郎!」
……………………………。
第一王子のちょこっとした紹介でした。
次話も、よろしくおねがいします。