ある侍女の日常
初登場です!!
ある大きな大陸の
ある小さな国の話。
はじめまして。
わたくし、ネリネと申します。
唯一ただ一人のルクレティア様の侍女をやっております。
うふふ。なんていい響き…
と、いってもほとんど仕事はありません。
身の回りの最低限のことは、ルクレティア様お一人でなさいますし、なによりアーネスト様がわたしくの仕事を奪います。
仕事の初日のとき、ドレス選びから着せるまで、アーネスト様お一人でやられるのを見たときは驚きました…。
あれはずいぶんと手馴れて……
どうやら、わたくしが就くまで、アーネスト様がほとんどルクレティア様の身の回りのお世話をやっていたそうで、侍女はめったに呼ばなかったそうです。(今では着替えはわたくし担当です! ……これも奪われるときが多々ありますが)
ところが、ルクレティア様に月ものがきたとき、さすがに侍女を就けたわけです。
……実は、そのお世話もアーネスト様が嬉々としてやろうとしたのですが、ルクレティア様が頑固としてゆずらなく、わたくしを就けたこともアーネスト様はしぶしぶだったそうで……。
このことは、わたくしがルクレティア様のお世話をしているとき、アーネスト様が毎回のように言ってくるので嘘ではありません。 ……なぜ言ってくるのでしょうか?
まあ、疑問はさておき、もう一度言いますが、わたくしは唯一ただ一人のルクレティア様の侍女です。ここ重要です。
美しく、かわいい、ルクレティア様。
姿が美しく見惚れるのはあたりまえですが、なによりその表情がイイのです!
疲れているのか、物憂げそうに、目をふせて溜息をついているとき。
アーネスト様に何か言われて怒っているのか、目を潤ませて、なめらかな頬を朱に染めたとき。
そして、普段の笑みとはまた違う、まだ一度しか見たことのない、あの微笑み。
ああ、食べちゃいたい……。
人前だと緊張してしまうのか、普段よりさらに不器用になるところも、またかわいい……
もう、たまりません……。
周りの者は、わたくしに“かわいそうにねぇ”とか言いますが、いまだにその意味が分かりません。
大好きなルクレティア様の姿を毎日見れる…… うふふ。なんて、すてきなお役目……
このお役目に不満があるとすれば、やはり、アーネスト様がわたくしの仕事を奪うことでしょうか。
アーネスト様ご自身は嫌いではありませんが、わたくしの仕事を奪うアーネスト様はべつです。
さすがに毎日こうですと、ルクレティア様で癒されているわたくしもストレスが溜まります。
今日も、アーネスト様はルクレティア様を連れ出して……
はあ。
こういうときは、仕事仲間と愚痴を言い合うにかぎりますね。
「はぁ」
「どうしたの? また“あれ”?」
「そうなんですよ~。毎日、毎日、ルクレティア様とアーネスト様がご一緒で……。もう、離れてほしいです…」
「それ、あたしも見たわ。いいかげんにしてほしいわよね。毎度のごとく、連れまわして。いくらあの人が優しいからって、強引にもほどがあるわ」
「はぁ。ほんと、そうですよ。着替えから、お茶会、それに入浴までご一緒なんですよ!」
「まあ!! それ、本当!?」
「はい。ほんと、いやになります……」
「こうしちゃいられないわ! アーネスト様ファンクラブたちに知らせなければ!!」
「ルクレティア様のお世話が全然できなくて……
って、あれ? もう行ってしまいました? まだまだ、言いたいことあったのに……」
しかたありませんね。
ルクレティア様とアーネスト様が戻るまで、六度目のルクレティア様のお部屋の清掃をしていますか。
あぁ、わたくしも、ルクレティア様のおそばにずっといたいです……。
〇月X日
<ルクレティア様の基礎健康チェック>
・体調 〇 ・肌 ◎ ・髪 ◎
今日も美しいルクレティア様。
今朝はアーネスト様に負けてしまい、朝一番に起こすことができませんでした……。
が、ドレスの着替えは勝ち取りました!
アーネスト様がさりげなく青色のドレスをすすめてきましたが、もちろん琥珀色。
うふふ。やっぱり、ルクレティア様はなんでも似合います。
今日一日、わたくしの瞳の色につつまれて……ああ、思い出すだけでぞくぞくします…!
少し、アーネスト様からの視線が痛かったような気がしましたが……気のせいですね。
明日は必ず、アーネスト様より早く起きて、ルクレティア様に一番に話かけなければ…!
王女の表情や行動を正確に読み取ることができる貴重な人物なのに、変た……変人のネリネ。(……だからか?)
そして、何気に王女に対する勘違いに加担している侍女でした。
……わざとではないんですよ?
わざとではないんですが、
無意識ゆえにある意味アーネストより、性質が悪いです……
次話もよろしくお願いします!