ある国の王女の宝石
「日常のひとこま」と少しつながっています。
まだ読んでいない方はそちらを先に読むことをおすすめします。
※サブタイトルを少しかえました。内容は変わっていません。
ある大きな大陸の
ある小さな国の話。
小さいが緑が豊かなその国に、それはそれは麗しい男性がいる。
襟首にかかる長さのうつくしい銀髪。
知性を感じさせる瞳は、深い海のいろ。
すらりとした長身だが、ひ弱な印象をあたえないのは、服の下に隠された、しなやかな筋肉があるからなのだろう。
剣を腰にさげ、背筋をのばして立っている姿は、おもわず魅入ってしまう。
無駄のない、きれのある動きは、つい目で追ってしまう。
実際、そういう人が大勢いた。
そしてなにより、麗しい顔にいつも浮かべている微笑み。
その微笑みはまるで物語に登場する------
-----天使のよう。
すべてをつつみこむような微笑みはどこかほっとする。
その安心させる微笑みと麗しい姿を裏切らず、女性に優しく、紳士的。
現実にいる人物にたとえるなら、彼は
“天使のよう”ではなく“まさに聖人”。
吟遊詩人は彼をこう謳った。
その美しさに羨望をこめて。
その立場に憐れみをこめて。
“黒薔薇姫の宝石”と。
周りの人々は知らない。
そのつつみこむような微笑み。
それは、自分の容姿を知りつくした、すべてが計算されたものだということを。
いつも微笑みを保っているということは、自分の思考を読めないようにするための、ある意味の無表情であることを。
彼が今まで助けてきた人々のほとんどが、権力をもった貴族だということを。
「王女。これを」
「? なによ」
「以前、“ハンカチを落とされた”でしょう?」
「……あぁ、“あれ”ね。というかわたし落としてないわよ」
「そのハンカチを“拾って”くれた者からだそうです」
「まさかのスルー!
………これがハンカチ?」
「あいにく、私には宝石やシルクの布地にみえます。しかもけっこうな数の。大丈夫ですか?」
「……最後の問いかけ、どういう意味なのか聞かないでおくわ……。
この送り主、以前言っていたお姫様のところからよね?」
「おそらく、そうかと」
「こんなに高価なものをたくさん…」
「不思議ですね。あの件、結局は犯人は王女のまま、噂は広まったのに」
「!?」
「ああ、それと。事が起こった次の日に、その落ちてあったハンカチを渡されたので“ありがとうございます。”と言っておきました」
「!!!!!」
その実は
黒薔薇の姫に対して周りが勘違いしているのを知っていながら、誤解を解くどころか、わざとよけいこじらせていることを。
だれも知らない。
「謝罪の品を送って借りを返そうとするなんて。貸しを作った意味がないじゃありませんか。直接謝罪にこさせますか」
「むしろ、あなたがわたしに謝ってほしいわ」
そして
彼には大きな秘密があるということは、
黒薔薇の姫さえ知らない。
王女・教育係(略)が物語の中心になりますが、
もっと主要人物をだす予定です。
次話もよろしくお願いします!