ある国の黒薔薇の姫
※サブタイトルを少しかえました。内容は変わっていません。
ある大きな大陸の
ある小さな国の話。
小さいが緑が豊かなその国に、それはそれは美しい王女がいる。
腰までとどくつややかな黒い髪。
長い睫がふちどる底の見えない黒い瞳。
近くで見ても毛穴など見あたらないなめらかな白い肌。
女性らしいまるみをもった、しかし、でるところはでて、引っこむところもしっかり引っこんでいるとても魅力的な身体。
そしてなにより、口元にうかべている微笑。
その微笑はまるで物語に登場する-----
-----悪女のよう。
なにかたくらんでそうなその微笑は、口元にある黒子で妖艶さが増していっそうあやしく見える。
堂々とゆったりとした歩き方もさらに拍車をかける。
あやしい微笑や妖艶な雰囲気を裏切らず、性格はわがままで性悪。
もはや“悪女のよう”ではなく“まさに悪女”。
周りの人々は彼女をこう呼ぶ。
その美しさに羨望こめて。
その性格をそしり笑って。
“黒薔薇の姫”と
周りの人々は誰も知らない。
そのなにかをたくらんでいるような微笑。
それは、特に人前・緊張しているとき目が笑わず口元だけ動いてしまい、その結果、中途半端な笑みになるという、なんともあわれな不器用さのせいだということを。
堂々とゆったりとした歩き方。
それは、歩くスピードを速くしてしまうと姿勢よく歩けないという、これまたあわれな不器用さのせいだということを。
わがまま、性悪な性格。
それもただ、その容姿と誤解から生まれた勝手なイメージのせいで、何を言っても嫌味か何か裏があるかのように相手にとらえられてしまうだけなことを。
「ねぇ」
「なんです?」
「わたし、清楚系をめざしていたんだけど」
「だめですよ」
「……?」
「私の好みが色気たっぷりの妖艶系なのですから」
そして、
この「優しい」と評判の、聖人のような見かけとは裏腹に煩悩たっぷりな、王女の教育係兼護衛のせいだということを。
だれも知らない。
「だれか教育係を替えてちょうだい」
・・・あわれ、王女様。
読んでくださり、ありがとうございます!
次話は王女の教育係兼護衛の紹介です。