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ある王国の日常  作者: 晴耕雨読。
王女と彼と、あらたな住人
13/18

あるマル秘計画! 第一回  上

 

※ガールズラブ要素あり








 ある大きな大陸の


 ある小さな国の話。







 白と黒を基調にし、家具や小物も品のよく統一されている部屋。

 そこには、一つのテーブルを囲むように三人の男女がいた。

 この部屋の主人なのだろう、椅子に座っている黒髪の女性。

 そして、その両脇に立っている銀髪の男性と亜麻色の髪の女性だ。

 いまこの部屋の空気は、重々しく、普通の人ならば逃げ出したくなるほどの緊張感があった。

 その緊張感の元が、中心にいる黒髪の女性。

 どんな人物でも、この部屋にいたら彼女に主導権を握られてしまう、そんな目にみえない力を感じる。 まるで、この空間では彼女しか動くことも発言することさえも許されていないかのような。

 そんなピリピリとした緊張感の中、黒髪の女性は両脇にいる二人の従人をゆっくりした動作で見る。

 “これからいう事は重大なことだ。他人に言ったらどうなるかわかるな?”と言い聞かせるかのように。

 二人もそれが伝わったのか、ゆっくりとうなずく。

 それを合図に、黒髪の女性が口火を切った。


 「これから、極秘会議をはじめる」


 その厳かな物言いは、おもわず背筋を正させられ、


 「----名づけて、リリーシェルと友達になろう大作戦!」


 …………た。

 と思いきや、その内容はずいぶんと----


 「イタイですね」

 「ルクレティア様ですもの! さすがです!」

 

 「----あれ? さりげなく肯定? イタイっていうこと否定なし…!?」


 まるで全国民の意見を反映しているんだとでも言うように、バッサリと切り捨てた銀髪の男性----アーネスト。

 そして、相変わらず無邪気に(無意識に)、何気一番傷つく言葉を言う侍女----ネリネ。

 まさかこんな集中攻撃をうけるのは予想外だったのか、黒髪の女性----ルクレティアは顔をひきつらせた。

 いったい何処が“イタイ”のか。自分が言ったアイディアに自信があったものだから、その顔はショックを隠せない。


「“王女が”ですよ。イタイのは」


ルクレティアの心を読んだかのように、アーネストはにこやかに訂正した。




* * * * * * * * * *




 ごほんっ!

 ルクレティアは気を取り直すために咳をした。


「いい? リリーシェルが王宮に来たんだから、本格的に動き始めるわよ! 

まずは、現状整理。ネリネ、おねがい」

「はい!」


 脳内にどれほどの情報がどのように整頓されているのか。

 手元に書類もなにもないのに、ネリネはよどみなくスラスラと説明していく。


 今まで街の針子だった少女リリーシェル

     ↓

 実は王の隠し子。王宮へ

     ↓

 第二王女になる

     ↓

 まさにシンデレラガール

     ↓

 そうなると、もちろんヒロイン

     ↓

 そして異母姉妹のルクレティア

     +

   舞台は王宮

     ↓

「シンデレラ」でいうと義理の姉の位置

     +

 権力争い・女の醜い嫉妬が渦巻く


     


「イコール…………」


 ネリネが、生徒に方程式の答えを促す教師のように、ルクレティアを見つめた。

 本能なのだろうか。それをうけたルクレティアには、その足し算の問題を読み上げてられているときにはもうその答えは、でかかっていた。いや、でていた。ただ、それを理解・・してしまえば、言ってしまえば何かが終わるような気がして、あえて無言を貫いた。

 

 しかし……


「まあ! ルクレティア様ったら、悪役ポジションですね!」


 グサッ


 そんな努力をあざ笑うかのように、まさに自分が思っていたことをさらりと(しかも嬉々として)言われたルクレティア。

 その心に刺さった刃は、頑丈で大きい。


「しかも、このままいくとヒロインとは和解せずに終わるタイプの」


 アーネストは、さらにその傷に丹念に塩を塗りこみ、刺さった刃でドリルのごとく深く深く心をえぐる。


「----っ。いいじゃないのっ。うけてたつわ!」


 しかし、ルクレティアも負けてはいない。

 アーネストから自身の心を守るため、幼い頃からの長い付き合いで身についた数々のわざの一つを持ち出した。


「めざすは、“親切な姉”ポジションよ!」


“なにごとも前向きに!” 

 聞こえはよいがルクレティアの場合、実際は----


「あらすじはこうよ!

 “いきなり王宮にでてきた田舎少女。王宮の女性にはない魅力に様々な男性は惹かれていく。それをみて嫉妬する女性たち。もちろん、少女の新しくできた姉も……と、おもいきや! それは大きな間違いだった! それどころか、困っている少女に手をさしのべる優しい姉だったのだ!”」


 ただの“現実逃避”である。


「まあ、すてき! ルクレティア様!

 “孤独な少女にとって、姉の優しさはあたたかい光。そう、この王宮の中で姉が唯一のこころの支えだった!”」

「さすがよ! ネリネ、分かっているじゃない!」

「“そして、だんだん姉に惹かれていく少女。”」

「そう、そう」


「“血が半分繋がった姉妹だと理解しながらそれでも惹かれていく気持ちはおさえられない。”」


「そう、そ……、 ----ん?」


「“せつない想い。 しかし、問題はそれだけではなかった!

なんと、姉の教育係兼護衛が主人でもある姉にせまっていたのだ! 

そして、さらなる追い討ちは、姉の思い人は、少女でもなく姉の教育係兼護衛でもない、

そう……! 姉の専属侍女……!!”」


 ゴツッ


 鈍い音が響いた。


「~~っっっ!? アーネスト様、ひどいです! なぐるなんてっ!」


 頭部を手で押さえて痛みで涙目になったネリネは、殴った犯人であるアーネストに抗議した。


(いやいやいや。人間がだしてはいけないような音を響かせたネリネには同情するけど、今回はアーネストの行動に賛成だわ……)


「…………まあ、今回はアーネストが正し…」

「ずるいですよ。一人だけいいとこどりなんて」

「えっ、そこ!? つっこむところそこっ!?」


 「もっと、受け流してはいけないところがあったわよね!?」と、突っ込みをいれるルクレティアを華麗にスルーし、話を進めるアーネストとネリネ。


「----では、ルクレティア様の愛人1号、2号ということで」

「どちらが?」

「…………………わたくしが2号で、アーネスト様が1号です」

「まあ、良しとしましょう」


「どこが、良し、なのよぉぉ!!」


 本日一番のルクレティアの叫びがきまった。





「とにかく、最終目標はヒロイン(リリーシェル)と打ち解けて友達になることよ!」


 これでは話が脱線していくと考えたルクレティアは、この奇妙な雰囲気を突き破るかのようにこぶしを突き上げて高らかに言った。

 その姿をネリネが頬を染めて見つめ、アーネストは相変わらず聖人のような微笑を浮かべている。

 もし、ここに第三者がいたら、“いやいや。かっこよくまとめているけど、結局は最初の議題からなにも進んでいないだろ!?”とつっこみをいれていただろう。

 最初の頃の緊張感など嘘のような雰囲気である。

 ……本人ルクレティアは大真面目なのだが。

 もう大人といっていい女性が、少女(といっても一歳しか変わらないが)と友達になるために計画をたてているなんて……。

 やっているのが“黒薔薇の姫”でなくとも「なにをたくらんでいるの?」と、聞きたくなる。

 しかし、ルクレリアの場合、この“友達”に“初めての”という言葉が前につくのだから、彼女の異様なほどの気合の入れ方は当然のこと。

 必死さにも納得である。…………と、同時になぜだろう。涙をさそわれるのは。


「いい? 合言葉は、“優しさはさりげなく!”

あまり、おおっぴらにやりすぎると逆に不審がられるわ。あくまでも気遣いはさりげなく、かつ確実によ」


(ぜったい、あのときの二の舞にはならないんだから……!)


 前回の夜会での経験で、少し学習したルクレティア。

 はたして、このことがいい方向へころぶのか。


「焦らず、こつこつと好感度をあげていくの!

アーネスト、ネリネ、協力たのんだわよ!」

「ええ」

「はい!」


(リリーシェルとおしゃべり……。城下でお買い物もいいわよね……。 うふふ……)


 すでに頭の中は仲良くなったリリーシェルとお楽しみ中のルクレティアは、忘れていた。


 この二人がどういう人物なのかを。

 今までどんな目にあってきたのかを。


「王女」

「?」

「にやけて顔面崩壊させているよりも、」

「----なによ、喧嘩買うわよ?」

「まずはその対象と接触しなくては何もはじまりませんよ」

「……!!」


 そして、自身のとてつもない不器用さを。




“第一回 リリーシェルと友達になろう大作戦!”は、まだまだ終わりそうにない。



今回上下です。


次話もよろしくお願いします!


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