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ある王国の日常  作者: 晴耕雨読。
王女と彼と、あらたな住人
11/18

ある非日常の始まり

 

 

 ある大きな大陸の


 ある小さな国の話。





 ついにやってきた!

 今夜は、どの貴族たちも好奇心を膨らませて、待ち望んでいた夜会。

 そこにいたのは何週間も獲物を食べていない飢えた獣と、その獣にねらわれたあわれなか弱いうさきちゃん、であった----


 by アルレロト雑誌記者 リディア   

【王宮のここからここまで! ~夜会には危険がいっぱい!?~】 より





「は、はじめまして! あ、あたしはリリーシェル・シュテンベルクですっ」


 その、ふるふるがたがたの少女こそが、ある記者いわく、あわれなか弱いうさきちゃん----リリーシェル・シュテンベルクである。そのふるえ方は尋常ではない。


 薄い布を何枚もかさねてふんわりとした、淡い桃色のドレス。

 年増の女性が着れば見苦しくみえるそのドレスも、初々しく若さあふれる彼女が着れば、ひどく愛らしい。

 ふわりとした柔らかそうなそうな髪は光を紡いだような金。今は小さな白い花と一緒に編みこまれている。

 健康そうな肌色も、緊張で落ち着きのない緑眼も彼女の愛らしさをひきたてる。

 しかし、その顔色は青ざめている。さきほどもいったように、身体はふるふるがたがた。何かにおびえているようである。

 さて、そのおびえた視線は目の前の女性に向けられていた。


「あら、はじめまして」


 その女性は、リリーシェルと雰囲気もドレスも、まったくの正反対であり、すべてが異なっていた。

 身体の線を強調するような、肌にぴったりとした黒のドレス。

 それが似合うどころか、ふさわしいと感じるほどの見事なプロポーション。

 豊かな胸に、きゅっと引き締まったウエスト。

 手足もすらりと長い。

 ひとつひとつの些細な動作さえ、しなやかで洗練されている。

 その美しい立ち姿は遠くからでも人の目を惹きつけるだろう。

 痛みなど知らない、腰までまっすぐのびた美しい黒髪。髪はすべてを結い上げず、ハーフアップにされていた。背中に流れる毛先まで艶やかな長い髪からは、丁寧な手入れをされていることがよくわかる。


 しかし、もっと目を惹くのは、その美貌。


 しみひとつない肌はぬけるように白く、

黒のドレスがそれをさらに、ひきたてる。

 左右均等に配置された顔は、精密につくられた人形のようで人間味がない。

 しかし、まるでアクセントをくわえるかようにある口元の黒子もなんとも色っぽく、その生々しさがようやく彼女が人間なのだと思わせる。

 一部の狂いもなく整っているせいかどこか冷たい印象をあたえる顔の造作が与えるのは、恐怖。

 底の見えない黒い瞳は、まるでこちらのことなどすべて見透かされているようで、その恐怖にさらに拍車をかけた。


「わたしは、この国の第一王女であるルクレティア・シュテンベルクですわ」


 けして高すぎない、つややかなアルトよりのソプラノ。

 その整った唇から紡ぎだされる声は、聞くものをおもわずふるわせる甘さがある。

 しかし、その甘さを感じる前にほとんどの者はその堂々した余裕が感じられるそのようすに圧倒されてしまう。


「わたし、あなたが来るのをたのしみにしてたの。これからよろしくお願いいたしますわ」


 そして、飢えた獣は、獲物をみてゆったりと笑うのだ。


 -------------あの、微笑 で。





「ルクレティア様! さきほどの微笑は最高でした……!! 

口元は微笑んでいるのに目は笑っていない、まるでなにかをたくらんでいるような、あやしい微笑! 

ルクレティア様の絶世の美貌と、たっぷりのお色気フェロモン、それに紫と黒を連想させるオーラが加わり、まさに悪役! って感じで……!!」

「………………ねえ、それ褒めてる? 褒めてるの?」

「あの方、ぜったい堕ちましたよ!」

「堕ち……、恋に落ちるとかじゃなくて、堕ちる……! そんなに凶悪……!?」

「まあ、まあ。それほど気にしなくても。

ただ、王女の第一印象が“近寄りたくはない人”と思われただけで」

「……!!」

「アーネスト様、ひどいです! あの方が感じたルクレティア様の第一印象はそんなものではありません!」

「ネリネ……」

「“怖いっ! わたし、あの人絶対無理っ!!” です!」

「………………あれ、おかしいわ。眼から水が……」

「この侍女の観察力と洞察力は長けていますからねえ。

なんたって、王女のことがわかるくらいですから」

「………………………もう景色がかすんでみえないわ……」

「うーん……。あっ! ルクレティア様、これはいかがです? 

今度は微笑を浮かべず、無表情でいるのです。

わたくし、その表情も……(うっとり)。 あっ、でもさきほどの微笑の魅力がわからない人には結局おなじでしょうか?」

「王女の恥ずかしがり屋と、不器用さを直さなければ無理ですね」

「! なら、なお…


  「直したいと言っても私が許さないのでそれも無理です」

  「わたくしもアーネスト様に賛成です!!」

          

        ………………………わたしにどうしろと…!?」


「いいじゃないですか。

表情がなかったら、ただ“怖い”だけ。

王女の微笑なら、それに“悪女っぽい”+“友達になれそうにない”が追加されますよ」


「そんなお得ポイント いらないわ!!」






さてはて。

のちに「日常」といわれる「非日常」のはじまり はじまり。



時間を割いて読んで下さり、ありがとうございました。



次話も、よろしくお願いします。



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