ある酒屋のおじさん
「ある一日の過ごし方」から数日後の話。
ある大きな大陸の
ある小さな国の話。
いらっしゃい。
お? 見かけない顔だね?
まぁ、フードをかぶってちゃ顔もわからないんだけどな。雰囲気だよ、雰囲気!
旅人かい?……どうやら訳ありそうだね。
まぁ、そんなかたくなんなって。
この国は緑が豊かないい国さ!
緑は心を癒やしてくれる。食糧も豊富、水もきれいだし、内戦もほとんどない。お前さんもここで癒やされるといいさ。
そうそう、癒やされるといえば、
お前さん、ここを出で右に曲がった先に針子屋があるんだけどよ。
その針子がこれまた、かわいいんだ!
小さな店を奥さんと一緒にかんばっている、けなげで良い子でな。
光を紡いだような美しい金髪。
静かな森を思い出させるような緑の瞳。
ちょこんとのっている小さい鼻に、やわらかそうな紅い唇。
ふっくらした頬は薄桃色に染まり、彼女の表情がころころかわる姿も、愛らしい。
どうだ? 俺もなかなかだろう?
小さい花が綻ぶような彼女のあの、はにかんだ笑顔に、ここいらの男どもはいちころさ!!
お嫁さんにしたい女性NO.1ってな!
実際、彼女に惚れているやつも多いんだがな、それに気づかない天然のところもまたかわいいんだ!!
お前さんも、惚れちまうだろうよ。
ああ、大丈夫。
お前さんが女だとしても、俺は祝福するぜ?
その場合、どっちが男物を着るか相談しておかなくちゃな。ああ、もちろん、どっちも女物ってのも有りだぞ?
ハハハッ!! 冗談だよ冗談!! まあ、そんぐらい、かわいいってことよ!
一度、この帰りに行ってみるといい。
……って言いたいところなんだがな、実はその店、もうやっていないんだ。
それがよ、とつぜん、切り盛りしていた奥さんが亡くなってな。
しかもその後、これから大変だろうから家にこないかって、彼女に惚れていた男どもがプロポーズをしようとその店にいったらよ、店には誰もいなくてな。
結局、この街やほかの家をさがしても彼女は見つからなかった。
礼儀正しい子だったから、もし、街を出るにしてもあいさつもなしにいなくなるはずはない、なにかに巻き込まれたんじゃないか、って皆心配してんだ。
元気に過ごしていればいいんだけどなあ。
ああ、ごめんよ。ちょっと、しらけちまったな……
なんの話をしてたっけ?
ああ、そうそう。この国の話だよな。
この国も綺麗なんだがな、やっぱり、美人も重要だよな。
さっきから、そんな話しかしていないって?
ハハハッ!! いいじゃないか!!
この国に来たからには一度は見ておきたい美人なんだ!
まあ、男なんだけどよ。
おっ! なんだ、お前さん、知っていたのか。
そうそう、そのお方だよ。
銀髪、青い瞳の整った顔立ち。
ついでに優しいとくれば、女性はだっまちゃいない。
なのに、浮いた話が一つもありゃしない、姿も心も聖人のようなお方だよ。
……だがな、やっぱり神様は優しくなかった。
“黒薔薇の姫”だよ。
容姿は最高だが、性格は最悪。
彼女の悪名は誰でも知っているよ。この国の王女でもあるしな。
彼はその“黒薔薇の姫”のもとで働いているんだ。
気の毒に。
美しい彼をそばにおいておきたいのか、いつもつれて歩いているらしい。
毎回、王女のわがままにつきあうのは大変なのによ、嫌な顔ひとつしないでいつも微笑みを失わないそうだ。
本当、優しいお方だよ。それに…
なんだ、もういくのかい? これからがいいところなのに。
まあ、いいさ。また来てくれよな!
「明日の夜会で、王の3人目の子が発表されますね」
「ええ! 女の子ですって!
…………ああ、嫌なこと思い出した。でも、わたしってそんなに評判悪い……? アーネストの外面のよさも、わたしの噂も今さらってことも分かっているけど、ショック----より、悔しいわ……!
いえ、それよりも絶対、彼女と仲良くなるの! そして、お友達に……!」
「おや。王女ったら、そんなに意気込んで。友がひとりもいなくて、今度こそはじめての友達を手に入れようとする人も、きっとこのような気合をいれるんでしょうねえ」
「……………………一緒にお茶会したり、おしゃべりしたり。会えない日には、手紙交換するのもいいわね! あと、プレゼントをおくるのも……」
「一度もやったことがないような人も、きっとこのようにはしゃぐんでしょうねえ」
「----っ、なによ!? さっきから!!」
「どうしたんです? 王女。そんなに怒って。被害妄想ですよ。偶然そのような人々と王女のご様子が似ていると言っているだけで。----ああ、それともなにか心当たりがおありで?」
「……!!」
「おや? 王女なら先ほどの事は経験済みでしょう?」
「厭味満載お茶会、刃物入り手紙、虫のプレゼントならね……!」
「そんなことより」
「その元凶のくせに、“そんなこと”……!?」
「王女はひどいですねえ」
「……? ----なによ、アーネスト。さっきから、いつもより……」
「王女」
「っ!? ちょっと……! 近す…」
「私を置いていかないでくださいね。
------なんたって、
“美しい私をそばにおいておきたいのか、いつもつれて歩いている”
ぐらいなんでしょう?」
「!!」
「私は王女の教育係であり護衛でもありますから」
~~♪ ~~♪
ん? なんだい?
……ああ、さっきの話の続きが聞きたいって?
ハハハッ!! なんだ、今まで聞いていたのか!
んじゃあ、ちょっとばかし。
実はな、この店に、----------その彼が来るんだ!! まあ、ときどきだけどな。
なんでもよ、彼が言うには昼も来ていることもあるらしいんだが、夜しか分からなくてな。
あれほどの美貌に気づかないってことはないから、きっと、変装でもしているんじゃあないかな。
まあ、夜ならまだしも昼なんかにきたら、客はもちろん、店員まで彼に見惚れて使い物にならなくなること間違いなしだから、こっちとしては好都合なんだけどよ。
おっ! そういうお前さんもかっこいいじゃないか。
ん? その格好は騎士さんかい?
へえ! 今度からお姫様の護衛につくのか。がんばりなよ!
じゃあ、もしかしたら彼にも会うかもしれないな!!
ほんと良い人だから、困ったときは彼に相談しなよ。
彼なら、必ず助けてくれるさ!
おっ、なんだい、もう時間か?
ああ、仕事じゃあしょうがないな。今日は楽しかったよ!
じゃあ、また来てくれよな!
茶髪の兄ちゃん!!
さりげなく。さりげなく。
…………いえ、堂々でした。
誤字、脱字がありましたら、どんどんいってください。
次話もよろしくお願いします。